表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/119

第28話 シャルル、ベアトリスへの未練

春の陽は過ぎ去って



 風が、過ぎていった。


 シャルル=フォンティーヌは庭園に立ち尽くしたまま、春の光が遠ざかっていくのを感じていた。目の前にいた少女――ベアトリス=ローデリアは、すでに魔術書を手に立ち去っていた。その背中を引き止めることは、もう叶わなかった。


 足元の芝の上に影が落ちる。振り向くと、ルクレツィア王女がそこに立っていた。表情は複雑だった。怒りでも、哀しみでもない。ただ、少し寂しげな顔。


「……全部、本当だったのね」


 問いではなかった。シャルルは、ただ静かに頷くしかなかった。


「すまない、ルクレツィア様。隠していたつもりは……ありません。ただ、向き合うことが、怖かった」


 王女はふっと息をついた。


「怖かった、ね。わかるわ。でも……彼女は、あれほど強い決意を持って、あなたに別れを告げた。あなたが何を言っても、もう戻らないでしょうね」


 その言葉に、胸が締め付けられるようだった。だが、それこそが真実だった。


 


 ***


 


 シャルルはその夜、学院寮の自室で一人、机に向かっていた。開かれた引き出しの中に、一通の手紙がある。


 封は未開封のまま。ローデリアの家紋が刻まれたそれは、確かに一月前に届いていた。だが、彼はそれを「また同じような定例報告だろう」と、読まずに脇へ置いた。


 怠慢だった。そして、無関心だった。


 シャルルは震える指で封を切る。


 筆跡は、ベアトリスのものではなかった。代筆された文書。だが、そこに綴られた言葉は冷然と、しかし丁寧に、こう記されていた。


「本書をもって、フォンティーヌ家との婚約を破棄いたします。以後、両家の関係は旧来の社交的礼儀の範囲に留め、個人的な交際は控えさせていただきたく存じます。」


 シャルルは目を閉じた。


「……私は、彼女を……置き去りにしたんだ」


 あの笑顔。あの言葉。ずっと思い出していなかったわけじゃない。ただ、王女の傍にいる時間が増えるにつれて、自分の感情に蓋をすることが習慣になっていた。


 王女は彼を信頼していた。心を開き、時に他の誰にも見せない顔を彼にだけ見せてくれた。シャルルはその絆を、何よりも大切に思っていた。


 だが、それが――彼女を、裏切ることだったと、今になってようやく分かる。


 


 ***


 


 数日後、王女ルクレツィアの命により、学院の春の舞踏会の準備が進められていた。


 シャルルはその中心となって動いていたが、心のどこかで、もう一度だけベアトリスに会いたいと願っていた。しかし、魔法コースの彼女は多忙で、姿を見ることはなかった。


「……未練がましいな」


 誰にともなく呟いた。


 今さら何を言ったところで、彼女の心はもう遠い。けれど――言葉にしなければ、前に進めない。そう思った彼は、一枚の便箋を取り出した。そして、静かに綴り始める。


ベアトリスへ


手紙を書くのは、ずいぶんと久しぶりですね。

本当は、こんな形でしか気持ちを伝えられない自分を、情けなく思います。


あの日、君の言葉を聞いて、私はようやく自分の愚かさに気づきました。

君が手紙を待っていたことも、入学してから会いに来なかったことが、どれだけ君を傷つけたかも。


君の選んだ魔法の道を、私は誇りに思います。

そして、誰かの代わりではなく、自分の人生を歩むという君の言葉に、強さと美しさを感じました。


謝って済むことではないと分かっています。

だから、この手紙は返事を求めるものではありません。


ただ、君がこの先の道を、自由に、幸福に歩めるよう、心から祈っています。


シャルル=フォンティーヌ


 封をし、学院の文書預かりに預ける。届けられるかは分からない。読まれるかも分からない。だが、それでも、書かずにはいられなかった。


 


 ***


 


 舞踏会の夜。


 ルクレツィア王女は淡い水色のドレスに身を包み、会場の中央で微笑んでいた。その傍らに、シャルルが立っていた。礼装に身を包んだ彼は、今までよりも少しだけ大人びた表情をしていた。


「……顔つきが変わったわね、シャルル」


「そうでしょうか」


「ええ。少しだけ、哀しい顔になったけれど……その分、強くなった気がするわ」


 王女の言葉に、シャルルは微笑んだ。


「私は……殿下のお傍にいて、国の未来を支える一助になりたいと思っています。過去のことは、もう戻せません。けれど――」


「けれど?」


「けれど、これからのことは、選べますから」


 王女はそっと手を差し出した。


 シャルルはそれを、丁寧に取った。舞踏の曲が流れる中、二人はゆっくりと踊り始めた。


 春の終わりの空の下で、新たな季節が、静かに幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ