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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

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第26話 シャルル、ベアトリスに会いに行く!

 

 王立学院の春は、いつも新たな出会いと、淡い別れの香りを運んでくる。


 その日の昼下がり、ルクレツィア王女はシャルル=フォンティーヌの様子がどこか落ち着かないことに気づいた。


「どうしたの? 名簿の整理は終わったのかしら?」


「……はい。すぐに仕上げます」


 返事はしたものの、シャルルの指先はどこかぎこちない。王女は不思議そうに首を傾げる。


 学院の新入生名簿には、確かに見覚えのある名があった。――ベアトリス=ローデリア。シャルルの婚約者だった少女の名だ。


「……シャルル、ベアトリス嬢が魔法コースに進んだこと、知っている?」


「……魔法、ですか? 淑女科ではなく?」


 その瞬間、シャルルの眉が明らかに動いた。王女はその反応に驚く。


「ええ。驚いたわ。辺境の名門のご令嬢が、あえて魔法の道を選ぶなんて」


「…………」


 シャルルは答えなかった。代わりに、急に立ち上がると、王女に頭を下げた。


「ルクレツィア様、ひとつお願いがあります。少しだけ時間を頂けませんか。……彼女に会って、話をしてきたいのです」


 王女はその真剣な表情に圧され、ゆっくりと頷いた。


「……ええ、いいわ。だけど、失礼のないようにね」


 学院の東棟――魔法コースの実習場近くの庭園で、シャルルはベアトリスを見つけた。


 春風に揺れる桃色のドレス。けれどその手には魔術書があり、少女の瞳はまっすぐに頁を追っていた。


「……ベアトリス嬢」


 その声に、ベアトリスは顔を上げた。驚きも、喜びも、戸惑いもなかった。


「……はい。どなたでしたかしら?」


 シャルルはその一言に小さくたじろいだ。


「シャルル=フォンティーヌです。……久しぶりですね」


「そうでしたか。お久しぶりです」


 彼女の返答は、まるで他人行儀だった。まるで、長年の婚約者を目の前にしているとは思えぬほどに。


「ずっと手紙を送れずに、すまなかった。だが、今日こうして――」


「婚約は、すでに解消されていますよ」


 シャルルの言葉を遮るように、ベアトリスが言った。


「……な、何だって?」


 シャルルの顔色が一気に変わる。ベアトリスはまっすぐに彼を見た。


「一月前に、ローデリア家より正式に文書を送りました。理由は明記してありませんでしたが……おそらく、貴方もお分かりのはずです」


「ま、待ってくれ……そんな通知、私は……」


「届いていたはずです。ただ、貴方が目を通していなかっただけでしょう。あるいは、興味がなかったのかしら」


 ベアトリスの声音は冷たいわけではなかった。けれど、どこか遠く、決して戻らぬ距離を感じさせた。


「それに……同じ学院にいて、一度も会いに来ない婚約者なんて、誰が結婚したいと思いますか?」


 シャルルは言葉を失った。


「私は、最初は嬉しかったんです。手紙の返事が遅くても、忙しいんだろうと。でも……入学してから、貴方が一度も顔を見せなかった時、ようやく分かりました。……私は、必要とされていないんだって」


 彼女は小さく微笑んだ。


「だから、私から願い下げしました。貴方には王女殿下がいらっしゃるでしょう? 私は、誰かの代わりじゃなく、自分の人生を歩みたいんです」


 シャルルは、ただ立ち尽くすしかなかった。


 その後ろで、話を聞いてしまっていたルクレツィア王女が小さく息を呑んだ。


「ま……まさか……」


 彼女はショックを受けたように、シャルルに視線を向けた。


「シャルル、どういうことなの? あなた……婚約者とは順調と言ってたわよね……? え、もしかして……わたしのせいなの?」


 彼は目を伏せた。弁明もできなかった。


 春の終わりを告げるように空は高く澄んで、ただ静かにその場を見下ろしていた。

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