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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

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第22話  キャンベラ、ベアトリスからの贈り物

紫の契約 ―孤独なる瞳の奥に―



 キャンベラ=フェルノは、いつも独りだった。


 特待生。天才。冷血。寮内でも、学院内でも、そんな風に囁かれることに慣れていた。誰も寄せ付けなければ、誰にも傷つけられない。そう教えてくれたのは、人生だった。


 そして今も、誰にも言えない秘密を抱えている。

 妹――ティナ。

 病に侵され、日々衰えていく命を、キャンベラは文字通り、命を削って守ってきた。〈身代わりのペンダント〉。それだけが、最後の保険。彼女のすべてだった。


 そんな日々の中で――あの少女は現れた。


「あなたの妹さんのことです」


 名前も知らない少女が、扉の向こうからそう言ったとき、キャンベラの心は確かに揺れた。

誰にも話していないはずの秘密を、彼女は知っていた。しかも、手には銀の瓶――〈星露のエリクシル〉。


「本気で言ってるの……?」


 初対面の少女が、命がけで死の森に踏み込んでまで、誰かのために霊草を手に入れたというのか?


「……信じられないわ」


 けれど、彼女の目――その奥にあったものは、たしかに真実だった。計算や取引ではない。誰かを救いたい、という、まっすぐな願い。


(信じてはいけない。けれど、拒みきれない)


 葛藤を抱えながら、キャンベラは彼女と共に、ティナの家へと向かった。


「どうして、そこまで?」


 道すがら、口に出した言葉は、自分でも意外だった。ずっと胸に押し込めていた疑問が、自然と零れ落ちていた。


 彼女――ベアトリスと名乗った少女は、笑って、こう言った。


「病気で苦しむ辛さは知っている。だから、助けたいの」


 その言葉は、鋭く胸に刺さった。


(この子も、誰かを、あるいは自分を、苦しみから救えなかった過去があるのか……?)


「わたしも、分からないわ。でも……あなたのそのペンダントは、わたしには必要なの」


 単なる慈善じゃない。それでも、彼女の目的は卑しいものではなかった。危険を冒し、命をかけてでも行動する――そういう人間は、嫌いじゃなかった。


 ティナの寝室で、ベアトリスは本当に慎重に霊草を扱った。まるで壊れ物に触れるように、愛おしげに。

 その姿を見たとき、キャンベラはふと思った。


(――この子なら、信じていいかもしれない)


 そして、朝。


 奇跡が起きた。


 ティナが目を開け、呼吸が整い、弱々しく笑った。

 その時、キャンベラは気づいた。

 涙が止まらなかったのは、病気が癒えたからだけじゃない。


 誰かが、本気で自分たちを「救おうとしてくれた」から。


「……約束は、守る」


 ペンダントを差し出すとき、迷いはなかった。

大切な物を託せる相手が、確かに目の前にいたからだ。


 けれど、それ以上に――自分がこれまで信じようとしなかった「他人」という存在が、こんなにもあたたかく、自分を変えてくれるとは思わなかった。


(ベアトリス……あなたは、何者なの?)


 数日後。


 キャンベラは一人、学院の中庭に佇んでいた。春の風が、静かに髪を揺らす。


「あら、こんなところにいるなんて珍しいわね」


 後ろから声がして、振り向くと、ベアトリスがいた。屈託のない笑顔で、小さな花束を抱えていた。


「……妹に? それとも私に?」


「両方に、かな。ティナさんが元気になったって聞いたから、お祝いに」


(本当に、変な子)


 心の中で呟いて、思わず口元が緩む。こんなふうに笑ったのは、何年ぶりだろう。


「ねえ、ベアトリス」


「ん?」


「……また、来てもいい?」


「もちろん」


 その瞬間、確かに心の扉が――ほんの少しだけ、音を立てて開いた気がした。


 ベアトリスは、戦士ではない。剣も、魔法も、ろくに扱えないように見える。

 だけど、彼女には人を変える力がある。


 それは優しさなんて曖昧な言葉で済ませられない。

 愚かしいほどに真っ直ぐで、不器用で、それでいて――


(誰よりも、強い)


 気づけば、キャンベラは彼女のことを目で追っていた。

 歩く姿も、言葉を交わす様子も、心に残る。


 そしてふと気づく。


(ああ、わたし……この子に惹かれてるんだ)


 それは恋と呼ぶにはまだ早い、でも確かに胸を満たす感情だった。


 かつてのキャンベラなら、絶対に関わろうとしなかっただろう。

 けれど、今は違う。


 ベアトリスがいれば、自分の世界は少しだけ広がっていく。

 ティナの笑顔も、自分の心も、確かに癒えていくのを感じた。


(次は、わたしが――あなたを助ける番かもしれないね)


 そう思ったとき、心の奥底で何かが芽吹いた。


 紫の契約は、交わされた。


 それはただの取り引きではない。

 新しい絆の始まりだった。

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