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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

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第20話 エレンスト先生、ベアトリスの深淵を見た!

忘却の縁に咲いた灯



 ベアトリスという少女を、最初に意識したのはいつだっただろうか――。


 エレンスト・グレイムは、学院でも有名な変わり者である。魔導薬学の第一人者として教鞭を執りつつも、常に孤高の存在として見られていた。生徒からの信頼は厚いが、必要以上に近づこうとする者は少ない。それは、彼の過去があまりにも重すぎるという噂が、どこかしらから広まっていたからかもしれない。


 だが、そんな彼の心の中に、ある日、静かに入り込んできた存在がいた。


 ベアトリス・ローデンベルク。


 その名を聞いたとき、正直なところ、特に印象に残った記憶はない。成績は優秀、態度は礼儀正しく、控えめでいて観察力に富む――教員からすれば「手がかからない理想の生徒」の一人だった。


 だが、ある時を境に、彼女は変わった。


 講義が終わっても研究室に残り、質問を重ねるようになった。しかもその質問の内容は、どれもが“教科書の答え”をなぞるだけではなく、どこか本質に踏み込む鋭さを孕んでいた。


 ときに、彼女は禁術の研究に関する資料まで持ち出してきた。


「これは……古い文献で見つけた術式ですが、記憶の連結に関する応用理論として……」


 その瞬間、エレンストの胸の奥がざらりとした嫌な感触で満たされた。


 “記憶の連結術式”――


 それは、誰よりも自分が恐れていた言葉だ。


 それを、何食わぬ顔で持ち出してくる少女。その瞳には、怖れもなければ躊躇いもない。いや、あったのかもしれない。けれど、それ以上に彼女の目には、知りたいという純粋な“探究の火”が宿っていた。


 エレンストはその火が、かつての自分を思い起こさせた。


 ――危うい。だが、惹かれてしまう。


 彼女は何を知っているのか。いや、どこまで踏み込もうとしているのか。


 問いかけたい衝動を押さえ込みながらも、彼は自分でも気づかぬうちに、ベアトリスに目を向ける時間が増えていた。


 その日、夜明け前。研究室の扉が静かに開き、彼女は結晶を差し出した。


 〈忘れられた記憶の結晶〉。


 その名を聞いた瞬間、背筋が凍った。


 思い出してはならぬもの。封じたはずの罪。あの夜、暴走した魔法陣と、消えていった仲間たちの悲鳴。


 彼女は、見つけてしまったのだ。この世界のほころびを。自分が隠し続けてきた記憶の扉を。


 エレンストは恐れた。だが、結晶に触れた時――彼は再びあの記憶の奔流の中に飲まれていく。


 そして見た。


 若かりし自分が、仲間とともに術式の発動を喜び、その後に地獄が訪れた瞬間を。


 記憶を取り戻したとき、彼の中に残ったのは、後悔でも懺悔でもなかった。


 ただ――彼女への感謝だった。


 彼女がいなければ、この罪は永遠に忘却の彼方へ消え去っていた。


 だが、同時に思う。この少女は、危険だ。あまりに核心に近づきすぎている。


 それでも、ベアトリスは言った。


「私は――先生と一緒に調べます。あの魔法陣のこと。封印の真相。そして……記憶の先にある、真実を」


 あの瞳は、まるで自分がかつて抱いていた“希望”そのものだった。


 ――かつての私は、こんな眼をしていたのだろうか。


 変わらぬ研究室の空気の中で、エレンストは少しだけ背筋を伸ばす。


 彼女は、ただの生徒ではない。


 結晶を通して、記憶の連鎖に踏み込んだ存在。そして、禁じられた領域に踏み込む覚悟を決めた“同志”だ。


 それを、たったひとりで選び取った少女。


 あの黒猫に導かれ、夢の中で何かに目覚めた彼女が、これから見る世界は――どれほど過酷なものになるのだろう。


 (私はもう、彼女に何も教えられないのかもしれない……)


 だが、それでも。彼は教師であろうとした。


 記憶の結晶は、封じの箱にしまわれた。しかし、真実は、もう眠っていない。


 少女の目に宿る光が、それを物語っていた。


 ――おそらく、未来を変えるのはこの生徒だろう。


 過去に囚われた自分には、成し得なかったことを。


 エレンストは、もう一度だけあの結晶に視線を送った。


 それは、忘れられた罪の象徴ではない。目覚めを告げる灯だ。


 そしてその灯を手にする少女の名を、彼は誇りをもって口にすることができる。


「ベアトリス・レインヴァルト……君は、私の教え子であると同時に、運命の扉を開いた者だ」


 夜明けの鐘が鳴る。新たな一日が、始まる。


 教師と生徒の“もう一つの授業”――それは、世界の記憶を辿る旅の始まりだった。

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