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第2話 ベアトリス、ランチのスイーツは決闘よりも尊い!

 学院の昼休み、陽光が差し込む食堂の窓辺で、ベアトリスは優雅にランチを楽しんでいた。

金糸のような髪を揺らしながら、彼女は白銀のフォークで繊細に盛りつけられた料理を口に運ぶ。食堂内は静かなざわめきに包まれ、誰もが彼女の存在に気づきながらも、近寄ることはできない。


その時だった。扉が乱暴に開かれ、鋭い靴音と共に一人の少年が現れた。


「おい、ベアトリス・ローデリア!」


その声に、食堂の空気が凍りつく。現れたのは侯爵家の嫡男にして、王国騎士団長の息子、アルフレッド・バルグレインだった。

銀髪に赤いマント、鍛え上げられた肉体と誇り高き眼差し。彼は剣士として学院内でも屈指の実力者として知られている。


「レベル99だ? ふざけるな。そんな数字、信じられるか! 俺と勝負しろ!」


ベアトリスはフォークを置き、ゆっくりと首を傾げた。翠の瞳に浮かぶのは、興味でも敵意でもない。むしろ、面倒ごとが増えたという微かな溜息。


「……今、デザートを食べようとしていたのだけれど」


「ならば、闘技場で食べるんだな!」


こうして学院中の注目を集めながら、二人は闘技場へと向かった。


広大な闘技場。円形の石畳に、観客席からのどよめきが響く。ベアトリスは左手にカップ入りのミルクプリンを持ったまま、悠々と立っていた。


「準備はいいか、ベアトリス! 剣士アルフレッド、全力で行く!」


「どうぞ、ご自由に」


その言葉と同時に、アルフレッドは剣を抜き、猛然と突進してきた。風を裂く速度、鋭い斬撃。しかし――


「シールド《煌光結界ルミナス・シェル》」


一瞬でベアトリスの周囲に淡い金光の障壁が展開される。剣がぶつかるたびに、眩い火花が散るが、彼女は一歩も動かず、静かにプリンをすくっていた。


「……なっ、くっ、これでどうだッ!!」


アルフレッドは連撃を叩き込む。剣閃、跳躍、必殺の突き――だがどれも通じない。観客は唖然とし、ベアトリスは平然とスプーンを口に運ぶ。


「ん……ミルクが濃厚で美味しいわ」


額に汗を浮かべ、息を切らすアルフレッド。一方のベアトリスは、口元を布ハンカチで拭き、空になった容器を片手にふうと息をついた。


「もういいかしら? プリンも食べ終わったし」


その瞬間、空気が変わった。彼女の体に流れる魔力が解き放たれ、黄金の光が舞い上がる。


「――《星辰葬アストラル・レクイエム》」


詠唱と共に、空から無数の光の槍が降り注ぐ。眩い閃光が闘技場を包み、アルフレッドの剣は宙を舞った。


地に伏した彼の周囲には、一輪の花のような魔法陣が残る。


「……戦いとは、相手の呼吸を見て、無駄を削ぎ、必要な時だけ動くものよ」


ベアトリスはそう呟くと、観客席に向かって軽く一礼し、その場を後にした。


闘技場に残されたのは、敗北を味わいながらも、どこか清々しい表情のアルフレッドだった。


そして学院には新たな伝説が刻まれる。


――『スイーツを食べながら侯爵子息を倒した、最強令嬢の午後』として。

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