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第12話 ベアトリス、報酬と鍵を使う!

報酬と鍵と、少しの秘密



 翌日の昼下がり。学院の空はすっかり晴れ渡り、あの夜の静寂がまるで幻だったかのように、穏やかな時間が流れていた。


 ベアトリスは、エレンストの研究室へと呼ばれていた。昨晩の出来事から一夜明け、心のどこかに未だ余韻を残しながらも、彼女の足取りは軽やかだった。


「――入りなさい」


 白衣姿のエレンストは、いつものように無表情に扉を開けたが、どこかその口元には微笑の名残があった。


 研究室の中は相変わらず魔導薬草の匂いに包まれていたが、空気は昨日よりずっと澄んでいるように感じられた。


「昨日の件、改めて礼を言うよ。君がいなければ、私はあの記憶に向き合うこともなかっただろう」


「いえ……私は、先生に導かれただけです」


 ベアトリスは恥ずかしそうに目を伏せるが、その胸の奥には確かな達成感があった。


「……ふむ、そう言うと思っていたよ。だからこそ、報酬を用意した」


「……報酬?」【報酬キターーーー!心の声ね】


 エレンストは、机の引き出しから小さな黒い箱を取り出し、蓋を開ける。中には、銀細工のように美しい古風な鍵が納められていた。


 精霊文字が刻まれ、微かに魔力の波動が漂っている。


「これは、“ボーナス部屋”の鍵だ。正式名称は〈補遺魔法資源管理室・第二書庫〉。だが、皆は“ボーナス部屋”と呼んでいる」


「……ボーナス……ですか?」【はい、もちろん知ってます!心の声です】


 思わず拍子抜けしたベアトリスの問いに、エレンストは笑みを深める。


「文字通り、“特別な報酬”を受け取るための部屋さ。君のように、学院や教員にとって重大な貢献をした生徒に、一度だけ開かれる。もっとも……ほとんどの者は、その存在すら知らぬがね」


 エレンストは、鍵をそっとベアトリスに手渡した。


「君には、その資格がある。好きな時に開けなさい。ただし――中にあるものは、慎重に選ぶことだ」


「中に……何があるんですか?」【はい、シナリオ通りにわからないふりをします笑】


「それは行ってみれば分かる。君の〈魔力の傾向〉と〈必要性〉に応じて、内容が変わるらしい。何を得るかは……君自身の心に委ねられるだろうな」


 ベアトリスは思わず鍵を見つめた。その形はどこか、学院の紋章に似ていて、触れる指先にほんのりとした温かさが伝わってくる。


「先生……ありがとうございます」


「礼など不要だ。教師として当然のことをしたまでだ。だが……君にだけは、少し期待してしまうな」


 その言葉には、かつての自分のように“真実を追い求める者”へのまなざしがあった。ベアトリスは小さくうなずき、鍵を胸元のポーチにしまった。任務終了、心の中でガッツポーズをするベアトリスであった。


◇ ◇ ◇


 その夜。学院の最上階、使用されていない旧塔の一角――そこに、ボーナス部屋は存在していた。


 石畳の床に敷かれた魔法陣の中心に、重厚な木の扉が静かに立っている。扉の上部には古い精霊語で《求める者のみ、報いを受けよ》と記されていた。


 (ここ……でいいのよね)


 ベアトリスは緊張しながら鍵を取り出し、鍵穴に差し込んだ。まるで、鍵の方が自ら吸い寄せられるようにぴたりとはまり――


 カチャン、と音を立てて、扉がゆっくりと開いた。


 中は――まるで異世界だった。まーゲームの世界ではあるのだが――


 天井の見えない高い空間。床一面に、精霊文字が浮かび上がり、宙にはいくつもの魔法具、古書、結晶体、魔力を帯びた羽根のようなものが漂っていた。


 空間の中心には、白い光の柱が立ち、そこから放たれる波動が心を静めていく。


「これが……ボーナス部屋……ゲームとおりね」


 ゲームで見ているが、実際に目にすると思わず息を飲む。だが、次の瞬間――


 「ベアトリス・ローデリア。貢献が認められました。報酬を選んでください」


 無機質な女性の声が空間に響く。音源はないのに、耳ではなく“意識”に直接届く声だった。


 視界がふわりと切り替わり、眼前に三つの選択肢が浮かぶ。


 1.〈記憶の綴り手の羽根〉……記録された記憶を視る魔法道具

 2.〈魔力律動の書〉……行ったことがあるダンジョンの特定位置に行ける魔術書

 3.〈未開の契約書〉……未契約の精霊を一柱、召喚する儀式書


 「……!」


 どれも、ただの学生が目にするには破格の報酬だった。だがベアトリスは、一瞬の迷いののち、手を伸ばした。


 ――〈魔力律動の書〉。


 これです!これのために頑張ったのです。異世界ファンタジーでよくある別名ダンジョンウォーク、何よりも経験値上げのダンジョンに行くのに必要な魔導書だ。


 書物は静かに降りてきて、彼女の手の中に収まる。そこから放たれる光は、どこか懐かしくて、温かかった。


◇ ◇ ◇


 部屋を出ると、扉は静かに閉まり、鍵は音もなく光に溶けて消えた。


 「一度きりなんだよね……」


 わかっているが、ほかのアイテムも欲しかっただけに、ベアトリスは静かに息を吐きながら、夜の廊下を歩き出す。


 両腕に抱えられた魔導書は、微かに光り続けていた。


 次は、いよいよあのアイテムだ。あれが手に入れば、レベルを飛躍的にあげることができる。そうすれば、断罪も怖くない!――


 この学院のどこかにあるのか? もちろん知っているが、攻略が難しいことになっている。


 そしてベアトリスは、再び歩き出す。手にした本を胸に、次なる試練を達成するために。

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