表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/119

第1話 ベアトリス、イライラ解消法は、ダンジョンのモンスターで!

 王都の中央にそびえる黄金の魔塔――その頂には、選ばれし者のみが入ることを許された「王都学院」が存在する。魔法と剣の才を持つ貴族の子弟たちが集い、王国の未来を担う人材が育つこの学院に、一人の少女が通っていた。


名はベアトリス=ローデリア。金糸を編んだような髪と、透き通るような青い瞳を持つ、美しき伯爵令嬢。気品と誇りを備えた彼女は、その立ち居振る舞いひとつで周囲の目を奪う、まさに「王都の金の薔薇」と謳われる存在であった。


だが、彼女には胸に秘めた切ない想いがあった。


――婚約者、シャルル=フォンティーヌ。


同じ伯爵家の息子であり、王都学院でも才気あふれる青年として知られる彼は、ベアトリスの幼馴染であり、未来を誓い合った相手でもある。だが、学院に入ってからというもの、シャルルは王女殿下と共に生徒会での活動に没頭するようになり、ベアトリスの前に姿を見せることすら稀になっていった。


「ベア、また一人で昼食か?」


友人の一人が声をかけても、彼女は微笑みで答えるだけだった。その微笑は、どこか寂しげで、冷たい風のようだった。


「私は平気よ。彼には……王女殿下という、ふさわしい方がいらっしゃるもの」


そう言ってベアトリスは、手にしていた魔導書を閉じ、立ち上がる。そして学院を離れ、城壁の外れにある「旧市街の地下迷宮」へと足を運ぶのだった。


かつて王都を守るために築かれたその地下迷宮は、今では訓練場として解放されており、一定以上の許可を得た生徒ならば立ち入りが認められていた。だが、危険な魔物が潜むその場所に足を踏み入れる者はそう多くはない。


しかし、ベアトリスは違った。


「──火よ、我が敵を焼き尽くせ。“クリムゾン・レイン”!」


紅蓮の雨が降り注ぎ、現れた魔物たちが一瞬で灰と化す。彼女の魔力は学院でも屈指のものであり、その戦闘技術もまた実戦経験に裏打ちされたものだった。


怒り、悲しみ、失望。シャルルへの報われぬ想いが、彼女の心に炎を灯し、それが戦場での強さとなって現れる。何度も迷宮に足を運び、何百、何千という魔物を打ち倒すうち、いつしか彼女は「地下の女王」とまで呼ばれるようになっていた。


学院に入学してから三年。


ベアトリスのレベルはすでに「99」に到達していた。これは王国の歴史上、わずか数人しか到達していない境地であり、魔導士としての頂点に等しい力だった。


だが、それほどの力を手にしても、彼女の胸の虚しさは埋まらなかった。


ある日、学院で開かれた舞踏会にて、シャルルが王女殿下と優雅に踊る姿を見たベアトリスは、何も言わずにその場を離れた。彼女の心に宿っていた最後の光が、その時、音もなく砕け散ったのだった。


「もういいの……。私は、彼の影を追うのをやめる」


その晩、ベアトリスは地下迷宮の最深部へと一人で向かった。誰も到達したことのない最奥に、かつて魔王が封じられたという伝説の扉があるという。


人知れず、自らの限界を超えようとする彼女の姿は、もはや伯爵令嬢ではなく、一人の「冒険者」であり、「戦士」であった。


そして――。


その先でベアトリスが見たものは、ただの戦いではなかった。


深淵の魔獣と相対し、自らの魂を削るような戦いを経て、彼女はついに「超越者」と呼ばれる存在へと至る。


そしてその帰還の日。学院の大広間が静まり返る中、黒の戦装束に身を包み、淡い光を纏って現れたベアトリスの姿は、誰の目にも別格だった。


シャルルがその場にいたかどうかは、もうどうでもよかった。


彼女は、自分自身の道を見つけたのだから。


「私はもう、誰かの隣に立つだけの存在じゃない。私は――私の力で、この世界を変えてみせる」


金の薔薇は、もはや誰かに飾られる存在ではない。


それは、戦場に咲く孤高の花。


そして、その花の名は、ベアトリス=ローデリア。


彼女の伝説は、ここから始まるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ