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人工天使は祈らない  作者: 謎の通行人δ
フローリオ教会編
6/23

人工天使はぶっ放す

 突然だけど、必殺技ってめちゃくちゃロマンだと思う。

 まあ必ず殺す技なんていう物騒な名前ではある割に、別に攻撃だけじゃなくて防御とか回復にもその名前は使われたりしてるけど。

 でもその名前の通り通常の技や攻撃とは一線を画す程の威力や派手さを冠する技で、漫画やアニメなんかではそのキャラクターの代名詞となったりする。亀の甲羅背負った仙人様から教えてもらった某野菜人のやつとかまさにね。

 ものによっては自分の体力を削ったり代償があったりするけど、その代償が大きければ大きいほど強力だったりもする。この手のやつはロマン砲なんて言われるのか。


 まあ、なんでいきなりそんな話をしてるのかというと…


(メインコード準備…主砲に体内疑似魔力を充填開始)

『体内リソースの内40%の疑似魔力を目標に主砲に集中開始、暴走対策の抑制機構を起動』


 人工天使にも必殺技に近いものが備わってるからなんだよね。まあ名前は必殺技なんて名前じゃなくて、“メインコード”とか“コード”って言われるけど。

 脳内の核を経由して魔力を機構に通すことで弾丸を形成したり空を飛んだりするっていう人工天使の構造上、火力を上げたり複雑な事をしようとすればするほどそれを発動するための手順も複雑になる。魔力を通す機構が増えるからね。だけどそれを無理やり押し通して瞬間的に超火力を叩き出せるようにしたのがメインコード。

 体内の魔力をバカみたいに浪費するし、そのせいで負荷もとんでもないし下手すりゃ機構をぶっ壊すみたいな半分自爆技だけど、やろうとすれば1秒もかからずに発動できるようになってるし威力も絶大。今はその手順を一つ一つ確認しながら丁寧に起動してるところ。

 本来津波みたいな魔力のせいで負荷がかかりすぎるんだから、それを時間をかけて丁寧に準備すれば一応ある程度の負荷は軽減できる、ってわけ。魔力量も多少節約できるし。機構はある程度もう直ってるとはいえ全快状態じゃないからねぇ。まあとはいえそれでも主砲に込める魔力量は尋常じゃない…抑制機能をフル稼働させつつ順調に準備を進めていく。


 全身から魔力が流れ出ていく、軽い貧血みたいな感覚を感じていると、カチカチと主砲が起動していく音が耳に届く。

 完全に修繕された鉄翼を操りながら徐々に加速しながら空へ飛び、頭を振って前方に蠢く肉塊の巣を見据える。

 魔力を込められた主砲が唸りを上げ、その口から淡く青白い光が溢れ出始める。


『目標高度に到着。抑制機能を減少、疑似魔力充填を加速──目標充填量まで80、85……90%到達。そろそろいけるよ』

(ありがと。…いくよ)


 一度深呼吸を挟み、そのまま主砲を巣の方向に向ける。

 恐怖はない。緊張もない。あるのは一応押さえつけるくらいにはなっている高揚感だけ。

 それが確かに造られたものであったとしても──私情は飲み込んでパフォーマンスに置換するだけ。


 …右手を添えて衝撃に備えつつ、今にも暴れだしそうな魔力を抑え込み──そのリミットを一気に外す。


(メインコード、【ゲイボルグ】…起動!!)










 ▼▼▼



 それは突然だった。


 忙しなく動き、勢力を大きくしていく肉塊の群れ。その中央にいるのは象のような形をした大きな肉塊と、その頭に止まっている蝶のような形をした肉塊。

 力を集めてこの先にある教会を攻め落とし、更にその勢力を拡大させようとしていたそれらのほとんどは気づいてすらいなかった。

 なんなら奇跡で気配を隠しつつそれらを少し遠目に観察するセリシアですら、知っていないと気づくのが難しいような気配だった。


 突如、その巣を白光が覆った。

 連鎖する爆発音と共に空間を削り取るその青白い光線は、楕円形に形成された肉塊の集落の長径ど真ん中を貫き、更にその周囲の肉塊を一拍遅れた爆発に巻き込みながら消し飛ばす。

 まさに必殺という言葉が当てはまるような凄まじいその一撃は一瞬で群れの半数以上を痕跡も残さずに消し飛ばし、かつ残りのほとんどの肉塊を焼きはらってしまった。その上それでは足りないとばかりに斜線上にあった山に直撃、一部融解させて抉り込んだ。

 そしてそこまでを認識してから、一拍遅れてとんでもない爆発音と、激しい戦闘音が響いてきた。

 シスが巣に突入したのだ。


 シスの提案した作戦、それは俗に言うところの「初手ブッパ」というやつである。

 一番最初の段階で最大火力を巣に叩き込み、数を減らしてから残党狩りをするというもの。

 最初はセリシアも半信半疑だった。いくら戦闘に特化した人工天使であっても200メートル余りの長さの巣に犇めく肉塊を半壊させることなどできるものかと。よしんばできたとしてもその後の戦闘などできるものなのかと。


 だが実際はどうだ。巣の半数を消し飛ばす程度では暴れ足りないと言わんばかりの威力の遠距離砲撃に、直後猛追するシス。

 非現実的すぎて笑ってしまう。


 まあだが、だからといってこんなところで呆然としている暇はない。

 今の一撃で相当数が削れたとはいえ元々の数が数。まだまだ肉塊は存在しており、侵入してきた異物を排除せんと蠢いている。


 だから、セリシアは自分のすべきことをする。


 展開するのは防御の奇跡。

 青く光る、まるで指でつつけば破れてしまいそうな膜のようなものが彼女の胸元からドーム状に広がっていく。

 その頼りない見た目に反して、その障壁はいかなる例外もなく生命体を内外で断絶する絶対の境界となる。


「逃さない…!」

 シスの急襲により既に半壊させられてしまった肉塊は手を分け、撤退しようとする勢力とシスを抑え込もうとする勢力に分かれていた。

 その2つの勢力をすっかり囲い込み、その時点で光のドームは障壁へと成った。

 それと同時にセリシアは気配を消すのをやめ、その場から出て群がる肉塊の前へ歩み出る。

 絶え間なく教会を追い詰めていた肉塊たちと、それらに追い詰められていたセリシア。

 立場が逆転した状態で、相対した。


「手加減は、しない…!」

 更に顕現するのは氷の奇跡。

 堂々と立つ彼女の足元から徐々に地面が白んでいく。


「───!!」

「──、───!」

 何かを感じ取ったのか肉塊の群れの一部がシスの方から方向を変え、セリシアの方に向いた。

 が、遅い。


「っ!」

 タン、と彼女が右足を踏み出した瞬間、凄まじい勢いでその足から前に向かって放射状に氷柱が生えた。

 ある肉塊は貫かれ、またある肉塊は氷に閉じ込められ、方向を変えてセリシアの方に向かった肉塊はものの数秒で全て封殺されてしまった。


 元々、彼女は教会の近くではこんな大規模な奇跡は使えなかった。

 というのもどれだけ古くともどれだけ荒廃していようと教会は教会。彼女の信仰する先である女神を称える役目を持つ場所を、誤って自分の手で攻撃するなどあってはならないと力を無意識的にセーブしていた。

 だが、今はそんな事を気にする必要もない。


「次…っ!」

 炎が、風が、水が、土が、光が、彼女を取り囲み力を与える。

 確かに肉塊の量こそ増えているが、本調子と成った彼女にとってはもはや役不足としか言いようがないはずだ。











 ▼▼▼



 セリシアさんがめっちゃ暴れてる件について。


 えやっば何アレ。地上で天変地異起きてるんだけど。


『ひえー。こわいねー』


 こわいねー、じゃないよ。セリシアさんあんな強かったんだ…消耗は人にとって最大のデバフだって再確認させられるわこりゃ。


 んー、さて…


(私たちの方もさっさとやらないと取られちゃうかもね)

 ブレードで裂き、ミサイルで撃ち落とし続けて倒すこと50体ほど。ようやく底が見えた。そして…


(…ま、いるよね。避けられたか能力で防がれたか…ノーダメとは思わなかったけど)

 カラが教えてくれた通り、象のような肉塊とその頭の上から飛ぼうとしている蝶のような肉塊がいた。が、二体とも無傷。倒せてなくても損害出せてれば、と思ってたけど、マジかぁ…


『親玉。ほぼ無傷なんだけど…どうする?これ』

(翼の兵装フルで使って、カラの方で蝶型の方の足止めお願い。さっさと象型の方は終わらしてそっちに集中したいけど邪魔される可能性の方が高い)

『はーい』


 じゃあ…



「ぶっとばします、か」

 主砲を唸らせ、体を急降下させる。地面スレスレまで体を落とし、象型の肉塊の周りをビュンビュン飛び回る。


「────ォォォオ!」

 と、まるで飛び回る小蠅を踏みつけようとするようにその場で地団駄を踏む象型肉塊。


『プラズマミサイル斉発』

(直後にミサイル発射!)

 一方その後ろから邪魔をしようとしたのか入ってこようとした蝶型肉塊にカラがプラズマミサイルを各翼から1発ずつ、計8発放って行く手を阻む。

 私は私で普通のミサイルを象型肉塊に向かって牽制発射する。

 …ま、ダメージはほとんど入ってないみたいだけど、少し怯みはした。


 想定通り。やっぱり撃破するにはこれか、とその隙に私は主砲を起動させる──が。


「────、──!」


(!)

 象型が鼻のような部分と前足を振り上げ…地面に叩きつけた。

 土埃がものすごい量舞い上がり、視界不良に陥ったせいで一瞬体が硬直した。


『っ!最大加速ッ!!』


 その瞬間、心臓にくくりつけられた縄で急激に空に引き上げられるような感覚。直後にさっきまでいた場所で象型の長い鼻が空振り、同時に衝撃波で土埃が切り払われた。


(あっぶな…ありがと、助かった)

『集中。気をつけて』


 いやはや…参ったね。

 主砲を使うにはちょっと溜めがいるんだけど…その隙がないや。カラには蝶型の足止め頼んでるし…よし。なら…


(カラ、ちょっと狙いにくくなるかもしれないけど頑張って)

『が、頑張る』


 引き上げられたグラビティドライブを全力でふかして象型肉塊の目の前に急降下、そこから緩急をつけながら前後左右、地面スレスレの足の間や顔の真下などで慣性に真っ向から喧嘩を売る立体機動を繰り返し、その間に主砲にどんどん魔力を込めていく。


『し、シス!?魔力溜めすぎ!暴発する!』

(いや、これでいい!)

『…って、えぇ…何この作戦…』


 戦闘状態になってる間はお互いの思考が一つの思考として無理やり共有させられるから、カラにも私の考えていた作戦がすぐ伝わったらしい。代償として呆れられたけど。

 まあ呆れつつもカラは今も蝶型を足止めしてくれてる。さっさと決めよう。


 身体スレスレのところで飛び回っていたせいで見失ったのか象型は探すように周囲に鼻を振り回し始めた…が、遅い。

 リーチはほぼ同等。硬度は魔力を通せばこっちのほうが上。

 ならこれで良し!


 主砲の砲身でその長い鼻を…直接受ける!


「──ッ、───!?」

 反動で左肩でちょっと嫌な音がしたけど折れたり外れてはないから多分すぐ直る。

 それより、これまで接近しても攻撃はせず、攻撃するときはある程度距離をとっていた私の想定外の動きに戸惑ったのか相手の動きが少し鈍った。

 そのまま右手の刃を…目に向ける。


(貫手!)

 ドッ、と鈍い感触。

 肉塊には体液が通っているものと通っていないものがあるけど…今回は前者だったらしい。右手の勢いに合わせて赤黒い体液が撒き散らされた。

 一応言っておくとこれは血じゃなくて()()。肉塊に人とかと同じ血は通ってない。


 なお、クラゲみたいなのがいたからもしかするとこいつも体液が超強酸性だったりするかもとは思ったけど、事前に象型の方は魔力量がそんなに多くないことを知ってたからそれは無いと結論付けてた。


 唐突な痛みに身悶えするように象型は暴れようとするけど…させない。というか暴れられると体格の差で確実に押し負けるからその前にとどめを刺す。


 鼻に打ち付けてた主砲を脇から鼻を絡め取るように回して体躯へ突き付け、鉄翼を体の前に回して…撃つ!くらえ!零距離砲撃(魔力込めまくってるから自爆の可能性アリ)!


『ハイリスクハイリターンがすぎるよシス…』

(まあ突き付けてるから爆発しても象型の体が爆発するだけだしさ)

 鉄翼で防御もしてるし、これが多分一番早い。

 さて結果は…はい。


 撃った直後、鉄翼のすき間から肉の壁が張り付いてきた。つまりは爆発して象型が四散した。

 幸いこっちへのダメージはほぼゼロ。結果は上々。強いて言うなら鉄翼で防ぎきれなかった肉の残骸の一部が体にへばりついて気持ち悪いくらいか。まあまだ蝶型相手にしないといけないし、戦ってたら多分剥がれて飛んでいくでしょ。


 っと…


「…わお」

 蝶型の方放置してたらなんかわらわら別の肉塊出てきたんだけど。

 犬型が二体、猿型が一体、魚型が…なんかいっぱい。全部で10体弱くらいか。というかこれアレじゃん、カラがリストアップしてくれた直接やるとちょっと面倒そうな奴らの一部じゃん。

 ボス倒した後に四天王出てくるムーブやめない?


『四天王というか10くらいいるんだけど』

(そこら辺は言葉の綾ってやつでね…)

 うーん、ゲームみたいな基準の話をするとやっぱり微妙に噛み合わない。


 まあ、とりあえず頭を切り替えよう。象型は倒したけど安心はしてられない。

 姿勢を制御しつつ一度深呼吸を挟み、再度体勢を整えた。

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