人工天使は会議する
一番大きかった教会の穴がなんとか塞がった頃合い。
いったん乾かさないといけないこともあり、今日はここらへんで終わりにしておこうということになったところでカラから呼びかけがあった。
『シス、シス』
(ん?どした?)
『やばい。巣の方に動きが出てきた』
(……はっ!?)
「は、」
「わ、シスちゃん、どうかした?」
おっと、びっくりしすぎて声に出た。
いきなり変な声を上げた事で驚かせちゃったセリシアさんにはとりあえず何でも無いことを伝えておいて……
(動きって、どんな?)
『多分だけど、こっちまで送ったはずの群れが全く帰ってこなくなって、結構大規模な勢力を組み立てようとしてる』
(うっっそ)
え、えー…やばいじゃんそれ。
兵装まだ全然直ってないんだけど。
『え、直りきったら本気で戦うつもりだったの』
(当たり前じゃん。元々そのために造られたんだし)
それになんだかんだ言って楽しいっちゃ楽しいのよ。
……いや、まあ…それは正確じゃないか。正しく言えば楽しく感じるように作られてるというべきだね。
戦闘中に痛覚をシャットアウトするために、そして自発的に戦いたくなるように、戦闘中には脳内麻薬を分泌するように調整されてるんだよなぁ…そのせいで素の痛覚も鈍いし。
思惑通りに動かされるのは腹が立つけど、まあ自分に実害というほどの実害は無いし一応この世界では人助けにもなってるからじゃあいっか、って感じになってる。
…ほんとに業腹ではあるけども。
『………そっか、分かった。とりあえずさっき探知結果の処理は終わらせたから、一応あらかたの情報伝えとくね』
ありがたい。
とりあえず聖堂に並べられてる横長の椅子…カウチ?だっけ?に腰掛け、膝辺りに肘を置いた姿勢でカラとの会話に集中する。
『敵の親玉らしい個体の反応は2つ。一つは、かなり体の大きい個体』
(かなりって…どれくらい?)
『象サイズ。というか形も象っぽい』
(…はっ?…え、ウッソそんなのまでいるの?)
象サイズか…まあ飛ばなそうだから有利っちゃ有利かな?
いやでもたまに形関係なく飛ぶやついるからなぁ…クラゲも本来飛ばないはずだし、なんなら不定形のやつですら稀に飛ぶやついるし。それに飛ばないとしても、もし遠距離攻撃手段が確立されてるとやりづらくはある。
でも図体が大きいのは助かるかな。どこ撃っても当たるし。…まあでもたぶん耐久性も高いだろうから決め手にするには主砲かなぁ。
『もう一方はむしろ逆に結構小さい。シスの頭とおんなじか、それよりちょっとだけ小さいくらいの蝶型かな。でも保有魔力量だけで見たら象みたいなのよりもはるかに多い。どんな能力持ってるかまではわかんなかったけど…』
そっちのほうが厄介だったかぁ…当然小さいと攻撃当てづらいし、魔力量が多いってことは向こうも何かしら厄介な能力を持ち合わせてる可能性がある。小さいだけなら近づいてブレードで斬るなりやりようはあるんだけど…プラズマミサイルで撹乱しつつ中距離から機銃機構で狙う感じが安牌かなぁ。
というか蝶は虫なんだよなぁ…虫に肉はほとんど無いでしょうが。
『それと、巣…いや、まあ集落って言ったと思うけど、割と間違ってなかったっぽい。固まった巣が3つ集まった形になってるみたいで、その3つがなんか協力して生活してる。巣の概形は長径約254m、短径約114mの楕円形、肉塊の総数は確認できるだけでも649体いた…とはいえほとんどは有象無象だね。まあでも多少とはいえ厄介そうなのもそれなりにいたから、そっちはそっちでリストアップして送るね』
と、意識の中に知識として情報が刷り込まれた。中にはさっき教えてくれたリーダー格の2体の詳しい情報も入ってる。……うん、ありがたいよ。すっごいありがたいんだけど…50を超えるなら先に言ってほしいな…私はカラみたいに頭が高性能じゃないから処理に時間がかかるんだ。
物理的に頭を抱えつつ、なんとか頭の中の情報の整理を終わらせる。
(………なるほどね…まあ全快状態ならそこまで手こずるような相手じゃなさそうだけど…)
『問題は全快するまで待ってくれるかだね。まだ動きが出てきただけだから侵攻自体はまだだと思うけど、それでももしかすると明日には来るかもしれない』
思案するような声でカラが言う。
明日かぁ……多少魔力の消耗を多くしてでも兵装の修復急いだほうが良いかな。
割とこの体の魔力量はかなり多いし、魔力自体ももう既に2割くらいまでは回復してきてる。それならもういっそナノマシンに与える魔力を無理やり増やして機構の修繕の方に力注いだほうが良さそう。
考えてみればそもそも魔力があってもそれを使う機構が直ってなかったらほとんど意味ないしね。
いやまあ主砲は無事だから反動ガン無視で連射とかすれば一応…?いやいや、肩が持たない。狙いも付けづらいし。
…最悪、研究所の方に連絡繋げて援軍要請…いや無理か。あいつら自国のことしか考えてないし。こんなところで変に恩でも作ろうものなら何を要求してくるか分かったものじゃない。
となるとセリシアさんに手伝ってもらうとか?
こんな辺境まで大勢の聖女さんとか牧師さんが来てくれるとは思えないけど、2、3人くらいなら来てくれる可能性はある。
……まあでもそこらへんは要相談かなぁ…
(なるほど…分かった。カラ、ありがと。おつかれさま)
『ふふーん。もっと褒めてくれても良いよ?』
(すごいすごい。むっちゃ助かってる)
『むふー』
かわいい。
いやほら、普段はすごい大人びた落ち着いた感じを醸し出してるけど、こういう所はちゃんと年相応なんだよ。
……ん?年、相応…年?この体今何歳なんだろこれ。月日とかいう感覚がなかったから年度の基準がないんだよなぁ。というかそもそもある程度体が成長するまで培養槽の中だったし。
体の年齢的には10とか11歳くらいっぽい感じするけど、培養槽の外に出てから体感まだ2年とかそこらなんだよね。実戦に投入されてから1年くらい?
前世の兼ね合いがあるから私自身は一応精神年齢的には20は過ぎてるけど…
となると実質的なカラの精神年齢って2、3歳くらい…?
あらやだ、私の半身天才すぎ…!?
なんて頭の中でふざけていると、聖堂の入口の向こうに気配が現れた。
パチリと頭の中でスイッチが切り替わる感覚がし、椅子の陰に隠れる。
息を薄く、長く伸ばし、気配を限りなく薄くする。
…とまあここまで警戒したわけなんだけど…
(ま、教会っていうんなら信者さんも来るよね〜)
『むーん』
どうやら近くの村の人がお祈りに来ただけらしく、中に入ってくる前にさっさとセリシアさんがご飯作ってくれてた場所に移動して待機する。
ほら、ここの人達の人工天使に対する考えが皆セリシアさんみたいな感じとは限らないからさ…一応人目を避けて引っ込んだわけ。
…引っ込んだんだけど……
「もう…もううちの村はおしまいです──」
「落ち着いてください、とりあえず私も手伝います。領主さんの方にも私から連絡をして──」
暇だし持ち前の聴覚を活かして耳をそばだてて話を盗み聞いてみたところ…なにやら雲行きが怪しい。
どうやら村の方にも肉塊がちまちまとはいえ現れてるみたいで、その対処に追われて手が回らなくなったりそもそも直接畑が荒らされたりで農作物にも被害が出てるらしい。
村の規模自体もそんなに大きいものじゃないみたいで住人も百人くらいらしいけど、もうすぐ冬が来るというのにこれでは下手すると今年の冬が越せないかもしれないということらしい。
一応今セリシアさんがその人といっしょに村の方に向かったっぽいけど…
(…これもしかしなくても明日肉塊が進行してきて、万一失敗でもしたら村も纏めて破滅とかあり得る感じか)
『だねー』
(うわ、責任重大だ)
『別に村の人を使ってもいいんじゃないの?わざわざ一人で飛び込む必要ある?』
(…それも一瞬考えたけど、普通に悪手だと思う。大人数で攻め入るとその分守らなきゃいけない人員も増えちゃうし、正直足手まといにしかならない)
『100もいるなら多少減っても誤差じゃない?どうせほっといたらメチャクチャになるんだし。そしたら冬の消費食料も減るでしょ?』
(カラ、それは駄目)
考え方が極端かつディストピアすぎるよカラ。
あと小規模だからこそ100人しかいない村から人が減ると大変なの。
確かに、ちょうど人工天使の総数が100とかそこらだったからそれとおんなじくらいなんだけど、この世界の普通の村なら3桁後半人くらいはいるはずなんだよ…いやまあ推測でしかないし、実際の村の平均的な規模は知らない以上下手なことは言えないけど、少なくとも500人を下回ってると明らかに過疎地域だと思う。
あと、多分この感じだと結構年齢も高齢化してると思うから…言い方は悪いけどあんまり役に立ってくれるとも思えない。
いやまあそうも言ってられない状況ってのは分かるけど…どうしても認識が平和な世界基準になっちゃうから、そういうのは忌避反応が出るんだよなぁ…。
とりあえず、セリシアさんが戻ってきてからあらかたの作戦を話して協力を得られないか頼んでみよう。…まあ多分断りはしないと思うけど、問題は教会の方からの協力が得られるか否か。最悪私達とセリシアさんの二人で行かなきゃいけなくなるけど…
……ま、なんとかなるでしょ。今までもそんな感じのノリでなんとかなってたし。
▽▽▽
「──って、こと、で…」
「嘘……!」
セリシアさんが村の方から帰ってきてから、さっきまでカラと話してたことを伝えた。
まあ、近日中…明日明後日あたりで巣の方から大規模な群れが侵攻してくる可能性が高いこと、それをなんとか対処しようと思っていること、それに手を貸してほしいということ、そして他の聖女さんや牧師さんに支援を頼めないかということ。
「うーん………」
と、セリシアさんは唸るように額に指を当てた。
「もちろんそれは私も相手させてもらうけれど、他の聖人の方々が来てくれるかどうかは…」
ここ、フローリオ教会はセリシアさんが言ってた通り、防壁や防波堤的な役割も持った教会。
そのせいで中央地から離れすぎていることもあり、救援要請が届いてこっちに支援が届くまで早くても二、三日はかかるとのこと。
たまたま何かしらの用事で近くに誰かが来てて、かつたまたまその救援要請を耳に入れる機会があり、かつその人に当日の用事がなければ来てくれる可能性はあるとのこと。
なるほど……じゃあつまり無理じゃん。
「…なら、そのぶん…わたし、がんばる」
「あ…」
と、セリシアさんの顔が曇った。
「…その、ごめんね。ほんとなら私が何とかしなきゃいけないんだけど…」
「んん…ひとり、どうにも、できない、こと…ある。じんこうてんし、も…ほか、ひと…つかう、こと、ある」
首を振って否定の意を伝えながら言う。
カタコトではあるけど…伝わったかな?
「…うん、ありがとう」
「…ん。それで、だけど…」
カラと考えておいた作戦を伝える。
元は私達だけで何とかしようとしてた作戦だったから、そこにセリシアさんの役目を肉付けしてより強化な作戦とした。
「─────って、かんじ」
「…なるほど…でも、大丈夫なの?それはシスちゃんが大変じゃない?」
「んん、そこまで。なれ、てる」
人工天使として備え付けられた機能を最大限使うだけだし、そこまで無茶な作戦じゃない。
そもそもカラが賛同してくれた時点で私にそこまで負担がかかる内容じゃない。優しいからねぇ。
『い、良いから!聖女さんの話聞かないと!』
(わー、ツンデレだ)
『…?』
(…ごめん、なんでもない)
前世のテンションで話をすると時々話が噛み合わないんだよね。こっちの世界だと存在しない言葉喋ってる事になるから…
と、セリシアさんは改まったようにこっちに向き直した。
「…うん、よし。じゃあその作戦で行こう。一応中央の方に救援要請は出すけど間に合うとは思えないし…シスちゃん。ほんとに申し訳ないけど、手伝ってくれる?」
「もちろん」
(カラもお願いね。頼りにしてる)
『まーっかせてー!』
決行は明日、それまで私の方は機構の修復に力を入れよう。最低限両翼だけでも再生させないといけないし。
魔力は…半分あれば問題はないはず。
じゃ、それまでは色々準備しとこうかな。




