人工天使は振り返る
木の幹にもたれかかってダラダラと時間を浪費すること数分ほど。
特に何もせずにいると、ふとなんでこんな事になっているのか思い浮かべていた。
私たちは対肉塊戦闘用生体兵器…通称“人工天使”。製造番号は4771で、個体識別名はⅠ-SC。世界にはびこる人類の敵、【名称不定】……まあ私たちは肉塊って呼んでるけど、それと戦うために余分なものをそぎ落とし、逆に戦闘のための機構を詰め込んで造られた人造兵器。
けれどその内面は、こんなポストアポカリプスみたいな世界で生きる生体兵器じゃなくて、平和な世界に生きる一人のただの人間だった。
私がこの世界で意識を獲得できたのは…だいたい二年くらい前。カレンダーとかそんなのとかも無かったから詳しい時期は分からないけど、たぶんそんな感じ。もしかしたら一年強とかかも知れないし、逆に三年くらい経ってるかもだけど。
普通のヒトとして平和な世界に生を受けていたはずの私は、いつも通り寝て起きたらなんか培養槽みたいなやつの中でプカプカ浮いていた。あの時はほんとに焦った。もう何から何まで理解できない状態だし、なんか頭に声聞こえてくるし。
けれどその「声」の主……今の私の最大の理解者にして最高の相棒、カラのおかげで何とか落ち着けて。
そこから出された後、頭の中に機構を操るための核を埋め込まれたり、ちょっといろいろ体を「調整」されることになって……っと、悪寒が。アレはあんまり思い出したくないね…なんというか、色々と。
まあともかく色んなことがありながらも今日までよく生き延びてきた感じになる。詳しいところまで考えてるとキリがないけど、ざっくり言うとこんな感じ。
さて、最初にも言った通り、私自身は主力人工天使として君臨……君臨?なんか違う気もするけど、まあ相当の強さは保証されてる人工天使。
強さの分類としてⅠからⅤまで五段階に分けられてる、総計100機近くいる人工天使の中で二機しかいない最上段階のⅠ機だって言ったらすごさは分かってもらえると思う。
そしてその二機の中でも、汎用型としてあらゆる状況に対応できるように調整されてる。
そんな主力級の人工天使の信号が突如途切れた場合、人工天使を管理してる研究所が探しに来ないわけがないわけで。まああんまり同じところに留まっておくのは良くないよね。
というわけで……いろいろあれこれと考えてたらもう痛みも消えてきたし、そろそろ移動しよう。流石は人工天使の体、修繕が早い所は良い…良いのか?そもそも人工天使でなければわざわざ戦う必要もなかったのでは?…まあ良いや。ともかくそろそろこんな野ざらしの場所から移動しよう。さっきから虫が飛び回ってるんだよ……。いい加減目障りだし音が絶妙に嫌。五感が鋭いからいちいち気に障るの。
(ってことで、近くに何か廃屋みたいなのでもあれば良いんだけど…探知お願いしても良い?)
『まっかせてー。あ、進行方向そのまままっすぐ、距離400くらいのところにおっきな建物あるよ』
早。
まあでも400メートル位なら大した距離じゃないし、探知も早かっ…いや、400メートルは大した距離か。毎日何十キロレベルの移動させられてたから感覚が麻痺してきてら。
(分かった。行こう)
『魔力反応もあるけど』
(先に言って!?)
じゃあ絶対肉塊いるじゃん!
と思ったけど、何やら難しそうな声色でカラが呟き始めた。
『いや…反応あるはあるし多分肉塊もいるんだけど、なんていうのかな…ちょっとずつ減っていってる?いや、これは…んー……?ごめんちょっと説明が難しい。知ってる言葉の中で一番近いのは…共食い中?っぽい…いや、この魔力、肉塊のとはちょっと違うっぽい…でも信号は無いし…んん?』
…?
説明が難しい?え、共食い?肉塊が?魔力反応が減ってて、なおかつ別の魔力っぽいものがあるのなら他の人工天使が先にいるんじゃ…と思ったけど、それならその機体別の特有の信号が発されてるはずだからそれでカラも一瞬でわかるはず。
となると、何かしらイレギュラーでも起こってる……のかな?
(…偵察しよう。翼は展開せずに両腕の兵装だけ出してステルスを起動、とりあえず50まで接近)
『りょかーい』
カチカチと両手と腕に主砲とブレード、半分以上砕けた簡易装甲が現れて半戦闘状態に移行する。ちゃんとした戦闘状態じゃなくてもそれなりには動けるからこれくらいで全然いい。
肉体自体も施設で作られてた関係上、戦闘に適するように色々弄られてるからね。薬物投与だとか遺伝子操作だとか……ね。
走力に限って言えば、今なら飛ばずとも全力で100メートル走れば3秒は余裕で切れる自信がある。
まあ隠密も兼ねつつやるし、今はそんなに離れてもないからそんな速度は出さないけど…
『ステルスドライブ起動。念の為の索敵は任せてね』
(ありがと。行こう)
再び頭の中の核がゆっくり熱を持ち始め、体が透明なようになったのを確認して地面を蹴る。草とかを踏んで下手な音を立てないように気をつけつつ、隠密行動を心がける。
時間にしておよそ20秒ほど。
(…言ってた建物って、あれ?)
『そ。うへー…こうして直に見ると気持ち悪いなぁ…』
視線の先にはかなり大きく、かつ白いレンガ調の廃屋みたいな建物。そこに肉塊が群がっていた。
ぐちゃぐちゃしてるせいで分かりづらいけど、外側だけで20はいそう。中含めると結構いそうだなぁ。まあ量がいるだけで普通に弱い部類の奴らっぽいけど。
…というか。
(ここ教会じゃん。なんかぼろぼろだけど)
外壁も一部穴空いてるしかなり古い感じはするけど、屋根の上にあるの多分十字架だし。となると…カラの言ってた魔力っぽいのって神聖力か。
神聖力ってのは人工天使とか肉塊が持っている通称魔力とは違って、一部の限られた人間が生まれつき持つエネルギー。なんでも、人の身でありながら神様の分身の性質を持つ人が神様から与えられる力、らしい。それを持つ人は「聖女」とか「牧師」と呼ばれて、だいたいの国では一人、または二人に一つ教会が充てがわれる…だっけ。
私の前の知識だと確か聖女と牧師って対の言葉っていうわけじゃなかった気がするけど……まあそこらへんは別にただの名詞だし、この世界だとそういうものなんでしょ。
で、神聖力は魔力と似てる──というより、神聖力を元にして肉塊の持つ力…魔力を模倣することで人工天使用の魔力が作られた関係上、本質的にはほぼ一緒だからカラが勘違いしてもおかしくない。
……そして何より問題は…私達の造られたエントウィック工業帝国には教会は存在しないってことなんだよなぁ…となると最低でもここ隣国…グラウヴ公領かな?あんまり情報は持ってないけど…確かそこまで強力な国ってわけじゃなかった気はする。
まあそこは良いとして……聖女さんか牧師さんがいるはずなのになんでこんな肉塊集まってるんだろ。もしかして廃教会?でもカラは数減らされてるって言ってたし…
……可能性があるとすれば、中で聖女さんか牧師さんがなんとか対処してるけど押されてるとかそんな感じかな。
とか考えてると、内部でなんか光が破裂した。いくつか肉塊が飛んでったけどそれでも全滅には遥かに遠い。内部にまだ結構いる感じか。んで中に人がいるのも確定したね。
『…どーするの?』
(んー…両翼展開、全基礎兵装準備。とりあえず蹴散らす)
『助けるの!?放っておけばいいのに…シスだって万全じゃないでしょ』
(別にアレくらいで傷が増えるようなヤワな体してないし。それに、ここで助けておいたら恩も売れるでしょ?)
まあ、後半はともかく前半はほんとにその通り。なんならあの程度なら兵装無くても素のスペックだけでも戦えないことはなさげだけど…ま、流石にそんな舐めプするわけにもいかないしね。
あとまあ…別に、ねぇ。まあ助けを求めてない人にも手を伸ばすほど私はお人好しじゃないし、向こうから拒絶されたら普通に引き下がるけど…けどどうであれ見殺しにするのはちょっと、ね。
研究所の連中は教会側の事死ぬほど忌み嫌ってたし、実際私たちもそういう教育も受けてたけど……私は別にそうでもないし。
まあ教会側も研究所の方をなんか悪く言ってる可能性はあるけどね。
『………納得したことにしとく』
…ははー…その言い方。バレてるわこれ。まあでもなんだかんだ言いながら付き合ってくれるし、やっぱいい子なんだよなぁ。
『い、良いから!ステルスドライブ解除、戦闘状態を起動、基礎兵装展開!』
あら聞こえてた。それじゃ、行きますかね。
攻め立てるように次々起動される全身の兵装を動かしつつ、教会に向けて飛んだ。
ちなみに、あの鳥のタックルのせいで一部機構が潰れてたりするから、カラの言う通り万全ではないのはそう。普通のミサイルのポッドに至ってはもう全部壊されてたし。アレの修復時間かかるのにぃ…
え、ステルスのままいけやって?あー、ステルスドライブは燃費が死ぬほど悪いんだよ。だから他の機構併用して戦うとかはよほどのことがない限りしないの。




