とある聖人二人は焦る
名前の書き方についてコメントがございましたので追記を。
本作において、聖人同士で呼ぶ場合には「〇〇聖女」「〇〇牧師」と表記していますが、これはこの世界における「聖人」という立ち位置が称号的なものではなく敬称として扱われているためです。
例として挙げますと、「聖母マリア」や「聖クリスティーナ」などにおける『聖母』『聖』のようなものが称号的な意味合いを持った語です。漫画的な例示をすると、ワンピースの「『海軍大将』赤犬」みたいな感じですね。この場合「赤犬海軍大将」と呼ぶと違和感が大きいかと思います。
ですが、本作で扱っている「セリシア聖女」や「アイン牧師」というこの『聖女』『牧師』は敬称的なもので、進撃の巨人の「リヴァイ『兵長』」みたいな感じのやつです。この例で出せば「兵長リヴァイ」と呼ぶと違和感があるのがわかると思います。
キリスト教においての聖人は、『生存中にキリストの模範に忠実に従い、その教えを完全に実行した人』でありこれは称号や二つ名的な意味合いが強い持つため名前より先に『聖』が付きます。しかし、本作の世界観における聖人は『神に選ばれ神聖力を授けられた(とされている)人』ではありますが、それよりも『肉塊と戦うという行動を起こす人』という役職名的、敬称的な意味合いが強いです。
そのため、聖女や牧師とつけてはいますがこれらは現実世界での意味とはまた違う意味合いの言葉として扱われています。
表記の仕方に関して違和感を持った方がいらっしゃれば、それはこちらの説明不足でした。申し訳ありません。
長々と失礼しました。以下本編です。どうぞ。
ガチガチに緊張しながら、私は重厚な門を潜る。
世界最大の大聖堂、その規模と神聖さ、神秘さからあえて人による名前はつけられず、大聖堂としか呼ばれない場所。そんなところに私がグラウヴ公領の代表聖人として立っているのが、とてつもなく場違いな気がして恐らくかなり挙動不審なことになってる。
…駄目駄目、ちゃんとしなきゃ。
昨日アインさんにもらった、深い藍色の聖石──通信の奇跡を込めた聖石のアミュレットを服に忍ばせて、耳の中には発信用の極小の通信の聖石をセット。
アインさんにもらった書類を詰め込んだ肩掛けカバンの紐を整えて……それからあえて胸を張って深呼吸、会議室に向かって足を進める。……まあそれもほぼ虚勢だから、道中色んな人に声をかけられたけど正直話の1割も覚えられてない。
だって、実際にエレボスの巣穴を破壊したのはシスちゃんで。
私はそもそも、ただ助けられた側で。
私一人じゃ、何もできてなくて。
確かにシスちゃんは表舞台に立つとかそういうのは望んでなさげだったけど、でもだからといってその功績を私のものにするのは…とてつもなく烏滸がましい。
…まあ、アインさんは私がそういう考え方に至るのもあらかた予測してたみたいで、昨日励ましに来てくれていたけれど。
「こんにちは、セリシア聖女」
「っ!!だ、大聖女様…っ!」
そんな様子で会議室にたどり着き、扉の前で精神統一するために深呼吸を何度も繰り返していると……まさかの人物に会った。
世界中の聖人の中で最も高位に立ち、全ての聖人を束ねるお方…大聖女様だった。
ふと見ただけならば私と変わらないくらいの方のように見えるけれど、その実100年以上その地位に君臨し続けているという。噂では、時間を操る奇跡を得意としている──とか。
「こうして貴女と直接会うのは初めてですね。私も嬉しいですよ」
「は、はいっ、私も、その、お、お会いできて、光栄、ですっ!」
き、緊張して心なしかシスちゃんみたいな喋り方になっちゃった…!とわたわたしていると、大聖女様は薄く笑った。
「そう緊張しなくてもよろしいですよ。貴女は招かれた側ですし、むしろ胸を張ってください」
「…は、はい…で、ですが…」
少し俯くと、口に指が当てられた。
「良いですか、あなたが成し遂げたことはこれまで誰も成し得なかったことなのですよ」
そう言うと大聖女様は私の口から指を外して、続けた。
「謙遜は美徳ですが、過ぎれば時に人の見る目を貶める発言、行動になり得ます」
「あ、す、すみません…」
思わず閉口して下を向く。…確かに、言われてみればそうなのかも、知らないけど…
「…では、こうしましょう。一先ず私が貴女を認めておきます。セリシア聖女。貴女の成したことは称賛されるに値すること、ではなく称賛されるべきことなのです。あなたが望んでいなくとも、私も周囲の一人間として勝手に貴女を褒め称えます。たとえ直接実行していなかったとしても、仮に影から手助けをしただけであったとしても、それだけでもそれを受け取らなければならないようなことなのです」
思わず顔を上げて、勝手に背筋が伸びた。そのせいで、はっきりと大聖女様の顔が真っ直ぐ視界に入った。
何故かは知らないけれど常に巻いているらしい、大聖女様の黒い目隠し越しに、目が合った気がした。
「ようやく、はっきりと目が合いましたね」
と、大聖女様は布当て越しに薄く笑って、それではまた、と会議室に入ってしまった。……き、緊張した…むしろこれまでの人生で一番緊張したまである……大丈夫?アレはカマ掛けとかじゃないよね…?
…そう考えると、余計に緊張してきたまである……けどこんなところでいつまでもおどおどしてるわけにいかないし…!
よし!と自分の中で気合を入れ直して、小刻みに震える手で会議室の扉を開けた。
会議室の中は外ほど豪華と呼ぶほどでもなくて、白を基調としたむしろかなり小ざっぱりした場所だった。大きな円形の机が真ん中に置かれていて席が21個、それぞれの前に名札が置かれてる。一番奥の椅子には大聖女様が座っていて、その他にも既に数人、既に席についていた。
その中から自分の席を見つけて席に着く。それから目を閉じて、数回深呼吸。とりあえず、私が来たのが最後とかじゃなくてよかった…だいぶ早めに出てよかった。
「これはこれは、セリシア聖女。また凄まじき功績を挙げられたようですな」
と、隣の席に座っていた壮年の牧師の方に話しかけられた。急なことでだいぶびっくりしちゃったのは内緒。
机の上の名札をさっと見て、北の国の代表の方だと分かった。
「は、はい…若輩者ですが、よろしくお願いいたします。ハリドヌアス牧師様」
「ハッハッハ、そう固くならなくてもよろしい。まだ会議が始まるまでもだいぶありましょう。爺はせっかちなもんでこんな時間に来ましたが、本来ならばまだ1時間遅く来ても十分間に合う時間ですぞ」
会議室にかけられている時計を見ると確かにまだ1時間近くある。早めに出ようとは思ってたけど想像以上に早かったや…
でも、ハリドヌアスさんがだいぶ気さくな方で正直、とても助かった。その後も、会議では何を話すのか、気をつけたほうが良いこと等をいろいろと教えてもらってたし。
なんでここまで良くしてくれるのか聞いてみたところ、年上が年下に色々教えるのは義務、と笑って言われてしまった。本当に良い人でよかった。
そうして時間を過ごしていると、少しずつ人が増えてきた。一つ、二つと次々席が埋まっていき、会議が始まる20分前にはすべての席が埋まっていた。
す、すごい…こう見ると壮観だぁ…
「…おや、もう皆さんお集まりになられたようですね。では、少し早いですが始めましょうか」
と、大聖女様が立ち上がった。
「お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます。本会議の進行は私、シビュラがおこなわさせていただきます」
パラパラと拍手が起こって、すぐに止んだ。
事前に送られてきていた書類に、いつ何の話し合いをするのかは示されてた。私の話題が出るのは最後の最後──それまではひとまず、グラウヴ公領の代表としてできることをしないと。
▼▼▼
『──各国における異教徒の侵攻状況について──はい、アネグス聖女』
「おおむね順調…かな」
ミカニに貸してもらった部屋で、会議を盗ちょ……うん、セリシア君の手助けをすべく聞き込んでいた。こういう時に奇跡は便利だ。特に僕の奇跡となればそう見抜ける人もいない。
しかし…やっぱり妙に引っかかる。
わざわざエレボスの巣穴の撃破報告の話を聞くために代表会議の開催を早めたのに、なぜその話題を最後まで引き延ばした?それも、個人の名前を出席国すべてに対して送る公的文書に載せて興味まで持たせて。
実際、普段は顔見知りの者としかほぼ話さないハリドヌアス牧師は相当な興味から初見のはずのセリシア君に話しかけていたし、使者として来ていた……ヘメルスって言ってたか。あの人もそのことについて知りたそうな顔をしてた。
…会議の日数は限られてる。でも後々に話が縺れ込む可能性だってあるし、そうなったとしても各々自分の教会を持っている関係上会議の日数を伸ばすことはできないから、だいたい重要な事は会議の最初の方に話す事が多いんだけど……
姫さんは何を考えているのやら……また「奇跡」が何か見せたのかね、なんて。そんな事を考えながら話を聞いていた。
耳の向こうでは、セリシア君が緊張しながら、それでもなかなか流暢にグラウヴ公領内の異教徒の侵攻度合いについて、エレボスの巣穴を破壊したことにより、この一月ではグラウヴ公領内での異教徒数は減少してきている旨を話していた。…そんな中。
『一つ、よろしいでしょうか』
セリシア君があらかたの報告を終えたところで、手が挙がったらしい。誰かは分からないけど…声からして、西の方のカリタナ聖女か?
『グラウヴ公領において、エレボスの巣穴の破壊に伴い異教徒共の数は減少傾向にあると報告されましたが…そもそも、貴女一人でエレボスの巣穴を破壊なされたのでしょうか。助力者などがいたのではなくて?』
………今言い出すのか。最終日に話題に出すと知らされてただろうに…気の強い彼女らしいと言えばらしいが…同時に、かなり強い反帝国主義者でもある。
『…はい。私一人ではなく、グラウヴ公領領主のアイン牧師様の助力があった上での結果です』
『おや?アイン牧師はその時公領の市街地にいたはずでは?』
!!
な、っ何故…何故内情を知っている者がいる…!?
『それに、何故いきなりエレボスの巣穴への攻撃をなさったのですか?元よりエレボスの巣穴への攻撃の計画は完全に凍結されていた──わざわざ、独断で攻撃を先行した理由は?』
「セリシア君、待っ──」
『それは…エレボスの巣穴での、フローリア教会への侵攻の動きが見えたので──』
咄嗟に大きな声で制止しようとしたが、時すでに遅し。馬鹿真面目、馬鹿正直に…!!
『あら、どうやって?』
『その、探知の奇跡で──』
『探知の奇跡は確かに肉塊の位置を示しますが、動きまでは見られないのでは?言うならばその時その時の写真を撮るようなもの、それで本当に動きが見えたのですか?』
ぎり、と歯噛みする。
不味いな……こんな序盤でここまで詮索されるとは思わなかった。この時点で策の半分からルートは外れたと見て良いか…
『もしそうならば大変素晴らしいですわね。是非是非その御力も拝見させていただきたいところです。しかし、どの道……』
『セリシア聖女、貴女は一体……何と、エレボスの巣穴を破壊したのですか?』
っ…やっぱりまだセリシア君を一人で行かせるべきじゃなかったか…?いや、それを見越して姫さんは加盟国に送る文書にわざわざセリシア君の名前を載せたのか。僕の影響下から彼女を引き剥がして、表に引っ張り出せる確率の一番高い方法をとったわけだ。
となるとカリタナ聖女の発言も彼女の差し金か?…いや、それは考えにくいか…どっちかと言うと姫さんは中立の立場だし、わざわざ現状を崩す行動を起こす意味が読み取れない…となるといつものカリタナ聖女の専行と考えたほうが自然か。
『カリタナ聖女、今行っているのはグラウヴ公領における異教徒による侵攻状況の確認です。それについてのお話は、最終日に行う予定ですよ』
『あら、そうでしたね。失礼いたしました』
…一応制止はしてくれたか。遅いが。
内心を箚さくれさせながら、少しだけ乱雑に息を漏らす。通信はつながったままだ、下手に機嫌の悪さを露呈させるとセリシア君にストレスがかかる。
しかし、そうか……オーケー、わかった。ならこっちもそろそろ動いてみようか。おそらくまだ向こう側も想定してない一手を、ここらへんで切らせてもらおう。
持病の悪化により更新できていませんでした。再開します。
命に関わるようなものではないのでそこはご心配なく。




