人工天使はビビる
期末試験が終わったので再開します。
フォス君が連れてきた男の人が町中で私に何かしら悪事をはたらこうとしてた不審者だった件について。
「?不審者?ってどういう事っすか?」
「いや、待て」
「まちなか、で…なにかしら、あくいをかんじた。ゆうかい、か…せっとうの、たぐい。そのとき、いたひと」
男の人……クレボさんの言葉を遮りながら、とりあえず事情を軽く伝えてみたところ…
「……ふーーん?」
…と、背中の方からなんかミカニコスさんの声が聞こえた。パキパキと何かの音が聞こえる気がする。正確に言えば、指の関節をクラッキングさせるような音が。
「…クレボ、動くなよ」
と、ミカニコスさんはたつたつとブーツを鳴らせてクレボさんに近づいた。
あまりに自然な動作に反応が一瞬遅れて…そのまま彼の頭を両手で掴んだ。
「歯ァ食いしばれッ!!」
同時に一瞬息を詰まらせて……ゴヅッ、と。岩に石を打ち付けたみたいな、ものすごく鈍く痛そうな音がした。
見るとミカニコスさんはクレボさんの頭に頭突きをしていて。
「…はぁ…うちの元弟子が迷惑かけたね」
そう言ってミカニコスさんは頭を上げつつ私の方を向き直した。…あ、クレボさん崩れ落ちた。目、回してるね…頭突きで?えぇ…
「う、うわぁ…アレは痛いっすよ…ミカニコスさん、怒らせると頭突きするんすけどめちゃくちゃ痛いんっす。おれも既に10回くらいは……」
「フォス?アンタもくらいたいかい?」
「なんでもないっす!!」
(わーミカニコスさんすっごい良い笑顔してるねぇ…怖ぁい)
『元々笑顔は相手を威嚇する行動って言われてるくらいだし、まあ…』
あーなんか聞いたことあるそれ。口角を上げるって犬歯をむき出しにする行為になるから云々みたいな話だっけ。
「はぁ…さ、て……フォス、とりあえずクレボを椅子三つくらい繋げて寝かしといてくれ。話は起きてからしよう。全く…今日の整備予定が完全に狂った」
あ、そこなんだ。
少しして、クレボさんが目を覚ました。
ミカニコスさん的には逃げられるかと思ってバンドで椅子に手足くくりつけようとしてたみたいだけど、流石にフォス君と私で止めた。罪人じゃあるまいし…
「で?申し開きは?」
「………」
で、現在ミカニコスさんによる尋も……問いただし?が行われてるところ。クレボさんはフードを上げて椅子の上で耐え忍ぶように硬直してる。
「元々盗人だったアンタを引き入れたのは確かにアタシだ。んで、二度とそんな事しなくても済むように、技師的な技術だけじゃなくいろいろ教え込んだはずだ…なんでまたこんな事になってる。ん?」
「っ……!」
と、クレボさんはキッ、と緑の眼光でミカニコスさんを貫いた。
「アンタが…!」
「……」
「アンタが!そこのフォスとかいう奴を…この俺を差し置いて!弟子にしたからだろ!!」
…?
どういう…?フォス君も「おれっすか?」と動揺したように自分に指を指して首を傾げてる。
「元々俺は盗人だった…ああそうとも、貧しくて食うものにも困ってた。だがその技術を買ってアンタは俺を弟子にしてくれた!それがどれだけ嬉しかったか!初めて俺を必要としてくれたのがアンタだったんだ!なのに…なのに!アンタは俺を差し置いてフォスを新しく弟子に取った!俺じゃ不十分だと言わんばかりに!」
「何?」
目を剥いて、必死な様子で抗議の言葉を口にするクレボさんに対してミカニコスさんは片眉を動かして疑問を表した。フォス君も首を傾げたままんー、と唸ってる。
「おれは自分からここに来ただけっすよ?ミカニコスししょーは弟子入りを許してくれただけで…」
「それだよ…それなんだよ!!」
『あ、あぁー……そういう事かぁ…』
と、若干引き気味なカラの声が聞こえた。もう状況は把握できたらしい。相変わらず早いなぁ…
(えっ?えっ??どういう事?)
『嫉妬。もしくは焦燥。あと失望?ミカニコスさんとフォスへの。様子から察するに…フォスの方の才能がクレボとかいうのの実力を上回っちゃって劣等感感じまくった、みたいな感じかな?まあ言っちゃえば逆ギレ。醜いねー』
(あー……うん、大体分かった。でもその言い方はやめよう。流石にド直球がすぎる)
「何を言ってるんだか…アタシがそういうので他人に順序をつけたりしないのは知ってんだろ」
あーあ、と眉をひそめつつ片手でグシャグシャと髪を乱してミカニコスさんはため息をついた。
確かにね。順序とかそういうの考えてなさそう。この会って数時間の短い間でも、なんというか…サバサバしてると言うよりは公私がきっちり分けられるような人なのは感じ取れてる。
「だいたい、アタシがそんな事一回でも言ったか?アンタを軽視してたと?馬鹿言え、アタシのこの時計塔を任せるかもしれないヤツ相手に、んな阿呆みたいな真似する訳ないだろ」
…あ、やっぱそこなんだ。節々から感じれるけどこの人も分類的には研究所の人たちと似てるんだよなぁ…いやまあ人としての部分が雲泥の差ではあるけど。
「…ま、だからこそアンタを引き止めなかったってのはある。中途半端な気持ちのヤツに後を継がせる気はなかったからね。…アンタもアンタでやらかしたが、アタシも対応の仕方を間違えてたわけだ。…それは、すまない」
「!あ、や、いや、俺は……ッ!」
ミカニコスさんが頭を下げると、クレボさんは色々気持ちが混じったような複雑そうに…苦虫を百匹は噛み潰したような顔をした。
と、そのまま居た堪れなくなったのか座ってた椅子を跳ね飛ばして走って出ていってしまった。
私は私でおわっ、と思って咄嗟に追いかけようとした…けど、後ろから肩に、やけに硬い手を添えられた。
「気持ちは分かるが少し置いといてやってくれ。元とはいえ弟子だ、大体考えはわかる。…気持ちの整理も必要だろう」
すまないね、身内のゴタゴタに巻き込んで、とミカニコスさんは若干自嘲するように笑って顔を背けた。
「でもなんでシスちゃんに接触しようとしたんっすかね?盗みをするにも、シスちゃんはアインのおじさんと一緒にいたんっすよね?クレボもおじさんの事は知ってるはずっすし…」
「意趣返しとかそんなところじゃないかね。アインがここに来るのはアタシに用があるときくらいだし、何かしら耳に入れば、みたいな後先考えない行動とか。それか…いや、これは駄目か」
「?」
何か追加で言おうとしたミカニコスさんは、すぐに口を閉じた。
何だろ?
『えー…何だろ。思い当たるのとしては…単純に領主さんが嫌いとか、シスが人工天使ってバレかけたか…特にそんな価値のあるものとかは持ってないもんね?』
(無いね。強いて言うなら秘匿のブレスレットとかカラとか?けど周りには見えて無いはずだし)
『…実は何かしらあって見えてたとか?』
(え、怖い)
えなにそれそんな事あり得るの。本人の私とカラは認識できてるけどまあそれは本人だから良いとして、ブレスレットくれたアインさんすら見えなくなってるはずなのに、これ見える人いる可能性あるの?
…いや、確かに言われてみれば、このブレスレットの効果って「見えなくなる」じゃなくて「感知しづらくなる」なんだったっけ。人によっては見える可能性も…いやでも施術者のアインさんですら見えなくなるのに…?えぇ…?
いやいや、やっぱ無いんじゃない?
『無いかなぁ』
というかどちらかというとあってほしくない。そんなのどこで誰にバレるかわかったものじゃないじゃん。
もしやること全部終わった後に暇ができたらカラに色々街中で体験させてあげようと思ってたのに、そもそも外に出れなくなるのは嫌すぎる。
まあ最悪ステルス使いながら出る手もあるっちゃあるけど。
『いやまあ私のことはそこまで考えなくても良いんだけど…』
(ダーメーでーすー。これから何があるかわかんないし、色々経験しとくに越したことはないでしょ?)
それに今までずっと監視下に置かれてたわけだし、少しでも楽しいと思ってもらえるようなことがあると嬉しいんだけどなぁ。
いやまあ現状こっちの都合で振り回してるだけになっちゃってるんだけど…。
その後は、とりあえずクレボさんの方は一旦放置という方向にしておいて、ミカニコスさんとフォス君の整備を手伝うことになった。驚いたことに、フォス君の作業スピードがミカニコスさんが一人でやってたのと遜色ないくらいなもんだからちょっとびっくりした。
まだ見た感じ10代前半とかだと思うんだけどなぁ…すごいなぁ。
そしてその夜。
「じゃ、とりあえず一通りの計画を立てよっか」
部屋にて、日中どこかに行ってたアインさんと本格的な作戦会議をすることになった。
「聖人代表会議は明日から三日間。その間、僕はとりあえずセリシア君への直接的な補助を行う。明日は、君には一旦結界付近まで行って周囲を探索してきてほしいんだよねぇ」
「けっかい、の…?」
結界付近の探索…というか結界って何なの?よく分かってないんだけど。見えるの?あのでかい巣を破壊した時にセリシアさんにバリアみたいなのは張ってもらったけど…入ってきた時にあれっぽいのは無かったし。
「あーそっか、詳しいところは説明してなかったねぇ。結界っていうのは、簡単に言えば一つの条件付けで“内側”と“外側”を隔てる境界線を設定する奇跡だと思っておけば良いよー。ただ壁を作り出すのは普通のバリアとか障壁、境界を作り出して、空間に何らか2択の線引きを行うのが結界…分かる?」
あー……まあ、なんとなく…?
『感覚的には、壁を作って何も通さなくなるのがバリア、箱を作ってそこに入るものに通行制限をかけるのが結界、って感じみたいだね』
(あ、なるほど!)
セリシアさんが使ってたやつは完全に通行を遮断してたから、バリアとかの分類ってことか。とりあえずカラの説明で分かったから、首を縦に振る。
「うん、結界の認識は僕が手伝うから…はい、これ聖石ねー」
アインさんがポッケの中を弄って引っ張り出したのは、秘匿のブレスレットとはまた違う、赤と青の聖石。秘匿のブレスレットとはまた違って、こっちは石そのものだけど。
「ごめんごめん、加工する暇が無くてねぇ…持ってれば分かるから。そっちの青い方が通信用、何かあったらそれに向かって話しかけてくれたら僕の方に連絡が行く。赤い方が結界の認識用。持ってれば結界の境目が見えるようになるはずだよ」
ほら、と言ってアインさんが。手を開くと、その手の上に陽炎みたいに境目が出てきた。
「見えるかな…って聞こうとしたけど、見えるみたいだね」
何かと思って手を伸ばすと、温度の無い壁を触っているような感覚があった。めっちゃ強い磁場の壁ができてるみたいな感じ…みたいな?表現難しいな。なるほど、あれが結界かぁ…
「まあこんな感じ。本来なら明日時点で君にも来てほしいところなんだけど…ちょっと懸念点があってね。姫サマが何考えてるかは僕にも読み切れないしなぁ」
…?姫様?
と、アインさんの顔がしまった、というように強張った。…まあ、詮索はしないけど。
「ま、とりあえず初日は探査を頼むよ。…あ、別にここから広域の探索とかができるなら良いけど…」
「や…さすが、に、このきょり、だと、きびしい…とくに、けいぞくてきな、たんさは、ちょっと…りそーすが、たりない」
「だよね。じゃあ実際向かってもらうってことで。異教徒がいたらそれも倒しておいてくれると助かるな。あ、でも2日目からは君にもこっちを手伝ってもらうから、そのつもりで無理はしないように、お願いねぇ」
とのことになった。
なるほど、とりあえず私の明日の任務は結界の境界探査か。まあこの手の哨戒任務も飽きるほどやってきたし、問題はないでしょ。問題を挙げるならアインさんの言う懸念点が何かだけど…まあとりあえずは後に回しとこう。




