番外編・よく当たる占い
園遊会の少し前ぐらいの出来事です
「占い?」
ロクサーヌが聞き返すと、ルシールは「そうよ」と大きくうなずいた。
退勤後のアロイスの部屋である。
「今、異国の吟遊詩人が王宮に滞在しているでしょ? その彼がやる占いがよく当たるのですって」
「そうなんです」と、アロイスの助手も目を輝かせて話に加わってきた。「しかも恋占いだそうで、女性たちがこぞって占ってもらっているとか。私もみてもらいましたよ」
「お前は妻がいるではないか」
ついにアロイスまで参加してきた。
「それが先日ささいなことからケンカをしてしまって」
助手が頭をかく。
「でも吟遊詩人はそれをピタリと当てて、仲直りの方法も教えてくれて。そのとおりにしたら、以前よりもずっとラブラブに」
「やっぱりすごいんだ!」
ルシールが興奮気味に声をあげる。
「私もみてもらいたいなぁ。ねえ、ロクサーヌ、一緒に行きましょうよ」
「そうね、おもしろそうだわ」
「やったぁ!」
シルヴァン様との相性をみてもらうと楽しいかもしれない。
どんな結果が出ようとも、おそばにいることはやめないけれどね。
◇
吟遊詩人はすぐにみつけることができた。小さなサロンでひとり、優雅にリュートを弾いていた。
占いを頼むとふたつ返事で引き受けてくれる。
テーブルを挟んで向かい合わせにすわる。順番は厳正なるじゃんけんの結果、ルシールが先となった。
吟遊詩人はタロットのようなものを取り出し、占う。ルシールの恋愛運はだいぶ良いらしく、彼女を大切にするひとといずれ幸せな結婚をするという。しかもすでに出会いは済ませているとか。
ルシールはすごく嬉しそうだ。よかった。苦労しているのだもの、ルシールには幸せになってもらいたいもの。
次はいよいよ私の番。吟遊詩人は鉄仮面令嬢を前に少し緊張した面持ちだったけれど、手際よくカードを切り、並べていった。
「……ええと、ベルジュ公爵令嬢。今、とても大切な異性がいらっしゃいますね?」
なぜか吟遊詩人は額に汗を浮かべながら尋ねる。
ええ、いるわ! 私の最推しのラスボスが!
とはいえオラスと婚約中の身だから、滅多なことは言えない。曖昧に返事をして濁す。
「その方とは、その、残念ながら、あまりご縁はないようです……」
え……?
シルヴァン様と私、縁はないの?
いつかは私に振り向いてもらうつもりでがんばっているのに、希望はないの?
占いの結果なんて気にしないと思っていたけれど、面と向かって言われると結構ショックかもしれない……
「ただ、その、恋愛の縁はございませんが、別の縁は大変ようございまして」
「別の縁って?」
あら、希望が出てけたのかしら?
「そのお相手のお仕事を全力で支えるのが吉と出ております。そうすればお相手様の信頼を得られ、ベルジュ公爵令嬢は幸せに包まれることでしょう」
つまりシルヴァン様の雑用がかかりに徹しなさいということ?
そうすればずっとそばにいられる?
悪くはない未来だけど、でも……
「あ、その、ご令嬢、そんなに落ち込まないでください。そうだ、あなたの本当の伴侶を探してみましょう!」
吟遊詩人が手早くカードを集めて、また切り始める。
「なにをしているのですか?」
まあ、シルヴァン様の声だわ!
パッとサロンの入り口を見ると、慈愛の微笑を浮かべたシルヴァン様が優雅に室内に入ってくるところだった。
「ベルジュ公爵令嬢の恋愛運を占ってもらっていたんです」
私の代わりにルシールが答える。
吟遊詩人も「ええ」と頷く。それから私を見て――
「今のお相手とは恋愛運はなくても、ほかに良いお相手がいるはずですからね」
「そうよ、ロクサーヌ! あなたのことをきちんとわかる人は絶対にいるはずよ!」
ルシールと吟遊詩人が必死に私を励ます。
でもシルヴァン様以外のひとなんて、私はほしいと思わない。
「まず、一枚目。あなたの運命の相手は――」
吟遊詩人が裏返しに並べたカードの一枚をめくろうとした。そのカードを詩人とは別の、美しい手が押さえる。シルヴァン様だった。
「ベルジュ公爵令嬢は王太子の婚約者です。本当の伴侶などいていいはずがないでしょう? おやめなさい」
「あっ、そ、そうですね。すみません」
吟遊詩人はぺこぺこと頭を下げた。
「……確かにそうね。ロクサーヌ、ごめんなさいね。帰りましょうか」
ルシールが申し訳なさそうに言う。
「ええ、そうするわ」
シルヴァン様以外のお相手なんて、私には必要ないもの。
帰るために、椅子から立ち上がる。
「あの、ご令嬢!」
吟遊詩人が切羽詰まったように私を呼び止めた。
「なにかしら」
「それでも、さきほどのお相手の結果は……」
吟遊詩人はなぜか不安げに目を揺らした。そして脇によけていたカードの山の一番上をめくり、パシリとテーブルに置いた。
しっかりとした目で私を見上げる。
「金色の髪をした美しい異性には要注意と出ております。運命を捻じ曲げる力を駆使するからです」
「それってどういう……?」
ルシールが尋ねる。
けれど吟遊詩人は口を固く引き結んだまま、私を見上げている。
私もしばらくの間、考えて――
「もしかして最初に占った相手は、オラス殿下なのかしら?」
「え……?」
吟遊詩人は毒気を抜かれたような表情になって、「だって、ほかに……?」と呟いた。どうやら正解らしい。
確かに彼も私も、『気になっている異性』の名前を出さなかった。
一般的に見れば、私がそう思う異性はオラスだろう。
そして彼の焦りぶりから考えると、おそらくオラスが私が占いにくることを見越して、嘘の結果を伝えるよう権力をかさに脅迫したのだ。
「そうなの、てっきり……」
気になっている異性なんていうから、シルヴァン様を対象としているのだと思ったわ。
なんだ、シルヴァン様との恋愛運がないなんてことはないのね。そうなってくると、俄然運命の相手が気になってくるわ。
けれど椅子に座りなおそうとしたところで、数人の令嬢たちがやってきてしまった。
さすがに他人がいるところでオラス以外の異性を占ってもらうわけにはいかない。
諦めて、シルヴァン様とルシールとともにサロンを出た。
というか――
「シルヴァン様はなにしにいらっしゃったのですか? もしかして占ってほしかったのでしょうか?」
「通りがかっただけですよ」
にこりと美しく微笑むシルヴァン様。
いつもなら眼福に心が弾むところだけれど。今回ばかりはちょっと恨めしい気持ちだった。
私の運命の相手を知りたかったもの。
ま、シルヴァン様以外にいるはずなんてないんだけれど!
◇
吟遊詩人はシルヴァン筆頭魔術師に押さえられたカードをめくった。
その絵柄を見て目を見開く。
早く早くとせきたてる令嬢たちに、少し待ってと答えて、伏せてあるすべてのカードをめくった。
カードが示したのは、本人が言ったとおりにロクサーヌの運命の相手。そしてその相手がロクサーヌに対してどんな感情を持っているかだ。
吟遊詩人は王太子の婚約者とその上司が消えていった扉を見つめた。
そして、誰にも聞こえないような小声で、「なるほど、めくらせなかったのは嫉妬か。自分が出るとは思わなかったのだな」と呟いたのだった。
この作品のコミカライズが、今日から始まりました!
マンガ 高嶋 育先生
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