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1・1 救出劇は爆音と共に

 シルヴァン様の押しかけ雑用係になる数日前。

 このときの私は、まだなにも知らなかった――


◇◇


 くしゅんっ!

 

「寒っ」


 くしゃみをした拍子に目が覚めた。

 自分がどこにいるのか一瞬わからなかったけれど、部屋を見回してすぐに気がつく。

 ここは王宮の待合室のひとつ。

 遠くから、軽快なワルツを奏でる音が聞こえてくる。

 そう、今日は舞踏会。

 私はこの部屋で婚約者である王太子オラスを待っていた。彼のエスコートで参加することになっていたから。


 なのに私は、眠ってしまっていたらしい。

 どうしてかしら。こんな粗相(そそう)は初めてだわ。

 体がぶるりと震える。

 春とはいえ、夜は冷える。ドレス姿のせいで、寒くて目が覚めたみたい。

 むき出しの二の腕をさすりながら、考える。


 ワルツがかかっているということは、もう舞踏会は始まっている。

 ならば大広間に向かおう。

 もともと、オラスが迎えに来るとは思っていなかったもの。

 しばらく前から彼は、私のエスコートを拒んでいる。


 だけど陛下の決めたルールを破るわけにはいかないから、私は彼が来ないとわかっていても待たなくてはいけないのよね。

 イヤになるわ。

 きっと今ごろ兄夫婦が、私の姿がないと心配しているわね。急ぎましょう。


 立ち上がって扉のもとへ行く。


「……閉じてあったかしら?」

 目の前のそれは、きっちり閉まっていた。

 待合のときはいつも、開け放したままになっているはずだけど。

 不思議に思いながら取っ手に手をかける。


「あら?」

 扉が開かない。押しても引いても、まったく動かない。

 王宮内に不具合のある扉があるはずがないし、たとえあったとしてもその部屋に招待客を通したりはしないはず。つまり――


「故意に閉じ込められたということね」

 あまりに予想外の事態に、ため息がこぼれる。

 扉の感触から、ただ鍵をかけただけではないと思う。恐らく魔法がかけられている。

 眠ってしまったのも、きっと同じ理由ね。


 テーブルの上の空のカップを見る。たぶん、あれになにか入っていたのよ。

 犯人はオラスに違いないわ。犯罪まがいのことをしてまで、私を足止めしたい人は他にいないもの。


「まさか、こんなことで使う羽目になるとはね」

 ドレスの隠しポケットから、小指の先ほどの小さなガラス玉ふたつを取り出す。

 その中から虹色に煌めくほうを選ぶと目の高さに掲げて確認してから、勢いよく床に叩きつけた。


 パリンと音がして粉々に割れる。

 一拍の間を置いてから、鷹笛のような甲高い音が爆音で鳴り響いた。

 お兄様に持たされていた、緊急事態を知らせる護身用魔道具。音と強力な魔力波で周囲に異常を知らせる。

 ここは王宮。誰かしらが気づいて、助けに――


 ドンーーーーッ!!


 激しい音とともに扉が吹き飛び、砂のようにさらさらと崩れていく。


 ――なにこれ?

 こんなに激しい救出がくるとは思っていなかったし、形あるものがこんな風になるのは初めて見た。

 普通の魔術師にできる術ではないわ。

 あまりのことに、心臓がバクバクしている。


 ――というか、救出でいいのよね?




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