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プロローグ《前編》ラスボス様に突撃

 聖人や天使と褒めたたえらているシルヴァン様が、ぴしゃりと固まる。

「今、なんとおっしゃいましたか?」


 魔法省の、筆頭魔術師用執務室。

 執務机のほかに、大きな作業台。それから三方の壁に設えられた棚には魔法書や魔道具、薬草などが隙間なく並んでいる。

 この部屋の主になって間もないシルヴァン様は、戸惑いの表情を浮かべて立ち尽くしている。

 珍しいことだわ。彼はいつだって、柔らかな微笑をたたえている人だもの。

 それだけ困惑したのね。


 でもね、私は知っているのよ!

 シルヴァン様の優しく穏やかな姿は、偽物。

 本当は冷酷で腹黒。そしてこの世界におけるラスボス!

 私の最推しキャラ!


「では、もう一度申し上げますわね」にっこり。「私を筆頭魔術師様専属の雑用係にしてくださいませ」

 シルヴァン様は美しい目を(みは)る。先ほどの言葉が聞き間違いではなかったと、わかったようね。

 私とて、唐突すぎるお願いをしている自覚はあるわ。


「……王太子の婚約者であり公爵令嬢でもあるあなたを、雑用係にだなんてできませんね」とラスボスも負けじと微笑んだ。

 うう、眼福。さすが私の最推し。中身ヤバめのラスボスだと知っていても、いえ、だからこそ、常識を越えた美しさにときめいてしまう。


「いったいどうしたというのですか。『常に冷静で判断を過たない』と賞賛されるあなたらしくない申し出ですね」

 それは多分、私がここへ断りもなしに突撃訪問して来たことも、指しているのね。

 今まで私は、不行儀なことは一切してこなかった。


 幼少のころから未来の国母として厳しく躾けられたし、自分でもそれにふさわしい人間であろうと努力してきたから。


 だけど推しを前にしたら、そんなことはどうでもよくなるわよね?


「理由のまずひとつめ」と私は右手の人差し指を立てる。「オラス殿下のサポートをするのは、もううんざりですの。あれは『サポート』ではありませんわ。『尻拭い』です」


 シルヴァン様は王太子オラスの叔父だけど、この事実を知っているのかどうか。

 私の卑怯な婚約者は、うまく立ちまわっているしものね。

 でも、そんなことは、どうでもいいの。次に――


「理由、その二」と中指を立てる。「オラス殿下は最近男爵令嬢のピアに恋しています。今までの火遊びとは確実に違いますわ。やがて私との婚約を破棄するでしょう。そのときに備えて手に職をつけたいのです」

「雑用係で?」と、不思議そうに尋ねるシルヴァン様。


「そしてみっつめ」と彼の言葉を無視して続ける。「お聞き及びだと思いますが、先日私は原因不明の体調不良で、三日三晩も意識を失っていましたの。これは病ではなく魔法によるものだった可能性が考えられます。となれば最も信頼できて、多くの文献にあたる権限を持つ方のそばで情報を得ようとするのは、自然なことですわよね?」


 嘘も方便。こんな目的は一切ない。だって、体調不良の原因はわかっているもの。

 だけどこれだけ理由を挙げればラスボスも、私が気まぐれで雑用係にしろと迫っているのではないと、わかったはずよ。


 それに、私が魔法で眠らされて監禁されるという事件が起きたばかりだもの。

 体調不良の犯人も、もしかしたら……という可能性をシルヴァン様は考えるはず。

 私は上げていた手を下げた。

 

「なるほど」と笑顔のシルヴァン様。「きちんとした理由があるのですね」

 ほらね! 納得してくれた。作戦勝ちね。

「しかし」と彼は言葉を続けた。「私は秘書も近侍も置かない主義です」

「存じていますわ」

「ならば、答えはおわかりになりますね。申し訳ありません。お引き取りを」


「よっつめ」

 私は再び右手をあげて、小指を立てた。

 ここは筆頭魔術師の執務室。結界で厳重に守られている。ということはつまり、誰も盗聴できない。

「あなたの本当の顔を存じてますわ。おそばで見守りたいの」

「なんのこと――」

「黒魔術」とだけ言って微笑む。




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