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習作とかいって照れるじゃんバカ

 マウスの片側には親指を、もう片側には薬指と小指を添えることで底部を支え、空中に余った人差し指と中指はそれぞれ左右のボタンの上で備えておく。カーソルを動かすには手首のスナップを細かく利かせ、ときには腕ごと机の上をスライドさせる。クリックをするには静音性に優れた物理ボタンへ人差し指の体重を軽く乗せる。するとトンともスンとも聞こえるような音が、傍から観察している立場からすればハッキリと耳に留まるものだが、ボタンを押している張本人にしてみれば、目でモニター上の動きを追うことに夢中である。PCゲームにのめり込む彼の姿を見飽きた僕は両手をソファにつきながら腰を上げ、右足を軸にしたまま宙に浮いた左足を扉の方へ傾けて進んだ。扉の前ではノブを右手でつかみ傾けようとする。すると僕は単にノブの作用点を下へおろすというよりは、手首のスナップを効かせてドアノブを捻ることで扉を開けようとする動きに気が付いた。だがそれだけだった。扉は大した音も立てないで引くことができたし、同様に閉じるときにも扉はうるさくなく音を立てた。僕も彼もお互い何かしらに夢中で、一々日常の所作に気を配ってなどいられなかった。僕は長い階段を降りる。長いというのは、さっき上ってくるまでのほんとうに長い道のりを知っているのだ。半日かかった。降りる際には勢いが味方するとはいえ、またしても半日の道を通り、帰るのだ。一度心に決めねばなるまい。決して振り向かないこと。決して飽きてしまわないこと。決して途中で止まらないこと。階段は下りている僕のことなど待ってはくれない。下へ続く段という段がただ一段ずつ先へどこまでも伸びているのだった。僕はつま先を丁寧に乗せ、それを帰りの一歩目として進みだした。


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