第三話 魔法を覚えよう
ということで、クロノスはメアリに魔術を教えてもらうこととなった。
魔術を覚える過程で必要なものがあるかとメアリは倉庫の方に行っている。
しばらくするとメアリが何か水晶のようなものを持ってきた。
「クロノスお待たせ。この水晶は魔術の属性を測るのに必要なの」
この世界の魔力には種類があり、基本的な赤魔力、青魔力、緑魔力、茶魔力、黄魔力の5種類。
そして特別な魔力が白魔力と黒魔力という。
「それにしても母さん、魔力の種類なんて測って意味あるの?」
「まあまあ、一体やってみなさい。説明は後でするから」
クロノスは自分の疑問に対して何も答えてくれなかったことを歯痒い気持ちを味わったが、渋々水晶に手をかざす。
すると水晶は白く輝き出す。
「あら珍しい。白魔力だったなんて。これならなんの心配もいらないわね」
心配、というのはメアリの話によると魔力と魔術の相性が関係している。
先程の赤、青、茶、黄、緑の5種類はそれぞれ炎、水、土、雷、風の魔術に対応している。
そしてその魔術には優劣関係があり、炎は水に水は土に土は雷に風は炎に弱い。
よって赤魔力の人は水魔術が使えないという欠点があるらしい。
だが、黒魔力と白魔力は例外で白魔力は5種類全てが使え、一方で黒魔力は5種類の魔術が使えない代わりに特殊な魔術が使えるという。
そこでクロノスの魔力は白。全ての魔術が使えるとなれば魔術を教える人からすれば大助かりだろう。
「それじゃ、いくわよクロノス」
そう言ったメアリは手を前に突き出し、目を瞑った後唱えた。
「水の精霊よ、我らに恵みをもたらしたまえ。<水球>!」
するとメアリの掌に拳ほどの大きさの水の玉が出現する。
そしてそれは前方に向かって射出され家の壁に当たって弾けた。
「どう? これが水の初級魔術、水球よ」
「おーー」
クロノスは拍手を送った。
どこかメアリは鼻が高そうである。
初級魔術といえども魔術の威力はそれなりにあるようで、次にメアリは地面に撃ったのだが地面が少し抉れるほどはあるようだった。
「さぁ、やってみなさい」
クロノスは手を身体の前に突き出し、詠唱を始める。
「水の精霊よ、我らに恵みをもたらしたまえ。<水球>」
すると、全身から手に何かが集中するような感覚があり、魔法が発動……しなかった。
身体にも何も変化はなく、ただ手を突き出して終わった。
その様子を見たメアリは首を傾げる。
「おかしいわね? 無詠唱ならまだしも詠唱して何も起きないのって……」
ぶつぶつと何かを呟きながら幾秒かの間目を瞑ってクロノスの方に目をやる。
「まぁ、そういうこともあるわよね。何事も努力よ努力! 頑張ればそのうち魔法なんてちょちょいと使えるようになるわ」
「は、はぁ」
クロノスはポカンとしているが、メアリの言うとうりであった。
何事も技術の習得には努力が必要であり、努力無くして得られるものは脆いものだとクロノスは理解していた。
そのためクロノスは日が暮れるまで魔術を唱え続けた。
それでも、魔術は使えない。
静かにクロノスは絶望した。
「簡単な魔術でこんなんじゃ、この先……」
そこに帰宅したロイスが歩み寄った。
「どうした? クロノス、そんなしんみりしちまって」
顔を上げるとロイスがこちらに微笑みかけているのがわかった。
その顔を見てまた俯く。
「あいつから訊いたぜ、魔術が苦手なんだってな。俺と同じじゃねえか」
だからなんだというのだ。ロイスは剣術ができて魔術など必要ではないだろう。
それに、もともとこういう世界で生きているのだから多少は使えたはずだ。
「だから、」
「あのなぁ、クロノス俺も30年生きてて初級魔法で手一杯なんだぜ」
「え」
と声が漏れる。
この世界の人は誰でも魔法を上手く扱えると思っていたからだ。
「それに、今まで剣を振ってきてまだできないことなんて山のようにあるんだ。だから、できないからってへこたれるな努力して努力して努力した先にできなかったら、それはお前に合わなかったってことだ。そしたら新しいことに挑戦したって良い。悲しかったら俺にだって貸せる胸ぐらいあらぁ」
ロイスの言葉を聞いて、ハッとする。
蘇るのは前世の光景だった。
勉強やスポーツ、その他全てのことだって、出来なくて向いていないとすぐ諦めていた。
諦めた先には何も無くて、何も出来なくて、何も残らなくて。
―――あぁ、どうして自分はこんなにも出来が悪いのだろう。
と、考えたりもした。だが、そうでは無かった。
クロノスは諦めるには早すぎたのだ。だから、
「分かりました。父さん、やれるだけやって見ますよ。これで出来なかったら、まぁ、その時は……」
クロノスは頬を赤らめる。
その表情を見てフッと微笑み、
「わかった。どんと飛び込んでこい!」
と言った。
その日はなんだか世界が明るく見えた気がして、何も変わらないのに、何かが変わったようなそんな気がした。
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