↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/108

第八十三話 魔王国へ その三

 そして「別の危機」と考えたが、違うと直感した。


 そもそもゴブリンが一匹というのは変なのだ。


 ゴブリンは普通は三匹、少なくとも二匹以上で行動することが多い。


 つまり、オレが見つけたゴブリンはおとりで、オレ達を鍋から遠ざけるために一連の行動をしたのだ。


 陽動作戦だ。


 気配は一つと思い込んでいたけれど、実際は違うのだ。



 ゴブリンに対して沸き上がる怒りがオレを加速させた。ユーシンを追い抜き、低木を飛び越えて鍋のあった場所へと急ぐ。


 そして鍋のあった場所へと辿り着いたのだが、魔道コンロはひっくり返されていて、完成直前だったキノコスープの入った鍋は消えていた。


 あとはコロンと一つ、ベニテングダケがあるだけだ。


 周囲を見回すがゴブリンは見当たらないし、その気配もない。


 オレが悲しみにえられずに茫然としていると、そこへ王子とユーシンが辿り着いた。


 鍋がないのを確認すると、ユーシンはがくりと膝を落とした。


 王子は周囲を見回して、人差し指を少しずつ横に動かしては首を傾けている。


 ギフト? を使ってゴブリンを探しているようだ。


 しかし上手くはいかなかったらしい。


 溜息を吐くように肩を落としている。



「ユーシン、どっちの方向へ逃げたか見えなかった?」


 オレがそう聞くと、どうやらユーシンの未来予知は、本来は自分の手の届くようなすぐ近くのこと、それも一秒くらい先のことしか分からないらしい。


 今回はたまたま鍋に近づくゴブリン達が一瞬見えたとのことで、逃げた方向などは分からないとのことだ。



 それでも探そうと思い、ゴブリンが逃げた可能性の高そうな緩く下りになっている方向へと歩き出そうとしたところを、王子に肩を掴まれて止められた。


 王子は悲しげに首を横に振っている。


 レベルアップでゴブリンなんか敵ではないと思っていたけれど、まんまとしてやられてしまったようだ。


 ユーシンの隣に、王子と二人、力なく座り込む。



 オレの口から出たのは太い溜息だった。そのまま後ろ向きにばたんと倒れ、先程直感したゴブリンの策略について二人に話した。


 そしてこの策略、謀略に乗ってしまう切っ掛けとなったのは、オレの気配察知スキルへの慢心であり、調理中の鍋をマジックバッグに仕舞うことまで考えが至らなかったことを謝った。


「ハクブンのせいじゃないよ。オレもさ、沸騰しちゃったし……」


 ユーシンの言葉に王子が、自分とオレ、そしてユーシンを指さしてから両手でバッテンを作った。


 全員に問題があった。と言うことのようだ。



 そんなところにユーシンのお腹が盛大に鳴った。


 それに応じるようにオレのお腹も「ぐう」と鳴く。


 続いて王子のお腹も可愛らしく「くう」と鳴った。


 王子は自分のお腹が鳴ったのに驚いて、自分のお腹を見て目を丸くしている。



 そこで笑いをこらえつつ、オレが提案した。


「牛乳はもうないからスープは無理だけど、ソテー用のキノコはまだあるから、お昼にしようよ」


 その提案に、いち早く賛成したのはユーシンのお腹だった。


 王子が大喜びして、自分のお腹でも返事をしようとお腹をぽんぽんと叩いている。


 その様子を見て、オレとユーシンがたまらず笑い出す。


 確かにお腹で返事が出来たら便利だけど、腹ぺこの時だけにしか使えないだろう。それは分かっているようで、王子も笑顔だ。



 そうしてキノコソテーとガーリックトーストを作り、三人で食べることになった。


 魔道コンロはゴブリンに壊されてしまったらしく、魔石を取り替えてみたけれど火がつかない。


 そこで枯れ枝を拾い集めて、太めの枝で焚き火をしてから半炭状態となる熾火おきびを作ったのだが、枯れてはいても太い枝だとユーシンの持っているナイフや、オレの折りたたみ式の小さいナイフでは太刀打ち出来ない。


 枯れ枝を石に立て掛けて石を落として折る。という石器時代のようなことをしたりと工夫をしたのだが、結局オレは大太刀、ユーシンは片手剣を使って薪を作るという、ケイトさんのようなことをしてしまった。



 鉄のフライパンを熱してバターを溶かす。そしてキノコの投入だ。


 キノコスープは残念だったけれど、キノコのソテーも美味しい。肉厚でジュワッとしていてうま味が濃い。


 その美味しさにベニテングダケも焼きたくなったが、ゴブリンがベニテングダケを放置していったのが気になる。


 そこで改めてユーシンにベニテングダケについて『冒険料理大全』で調べて貰ったところ、巻末の参考資料の中に「ちょっと冒険なキノコ」として記載されていることが分かった。


 冒険食なるランク付けかあって星一つ。


 濃厚でうま味が強い、こたえられないほど美味だけれど、早ければ三十分で吐き気や腹痛、下痢、めまい、痙攣などの中毒症状が出る。幻覚作用もあり冒険中の摂取はお勧め出来ない。食べ過ぎると稀に死ぬ。食べるならば少量、解毒ポーション常備。とのことだ。


 つまり毒キノコだ。


 冒険というのはリスクを取るという意味での冒険らしい。


 しかしかなりチャレンジングな本らしい。食べちゃ駄目とは書かれていなかった。


 著者名を見ると、ウィリアム・バックランドさんの書いた本のようだ。※


 紹介文を見ると、人間が食べられるものは何でも食べた御仁ごじんらしい。



 しかし、そうなると王子のベニテングダケは食べても大丈夫の判断は間違っていたことになる。


 そこで王子にそのことを聞くと、王子はカバンからノートを取り出して開き、一番上に大きく「判定」と書いた。


 それから横に長い菱形を書いて、その菱形の右と下の角から線が伸びて、右隣と下にまた菱形があるフローチャートのような図を描き出した。


 そして一番目の菱形の中に「食べられる?」と書き、下の角に「はい」、右の角に「いいえ」と書いた。


 「はい」に続く菱形の中に「美味しい?」と書き、先程同様に下の角に「はい」、右の角に「いいえ」と書く。


 そうしておいてオレを見ると、「食べられる?」から「はい」に進み、次の「美味しい?」に「はい」を通る、判定をした経路を指でなぞってみせた。


 王子のギフトは鑑定ではなく判定で、ベニテングダケの安全判定は二つの質問によって導き出されたものらしい。


『冒険料理大全』では、ちょっと危険だけれど食べられるものとして紹介されていた。


 王子のギフトも同じような判断をしたことになる。


 おそらく毒のチェックを質問しなかったことが問題なのだ。



 そこで王子に改めてベニテングダケの判別をお願いした。


 判定基準は「人体に有害な成分が入っているか?」だ。


 ノートに書き出された王子の判定結果は「はい」だった。


 求めていた答えが得られた。


 

 ふと思い付いて、念のために干し肉の判定をして貰ったところ、同じく「はい」となった。


 干し肉は有害成分入りなのか……。それも妙な話だ。


 次に革水筒の水を判定して貰っところ、答えは同じく「はい」だ。


 今度は塩だ。


 しかし塩の結果も同じだった。



 王子が片方の眉を上げて、困ったような顔をしている。


 折角のギフトだけれど、判定結果が問題だ。


 オレもどういうことかと考えるが、ちょっと分からない。



「水や塩だって摂りすぎれば有害ってことじゃないかな?」


 ユーシンの言葉に、なるほどと納得する。


 確かに水や塩も過剰摂取すれば命の危険がある。


 どんなに無害に思える物質にだって、毒性の指標となる――投与した動物の半数が死亡する用量――半数致死量があるものなのだろう。


 そこで、干し肉は二十グラム、水は五百ミリリットル、塩は五グラムという条件を付けて判定して貰ったところ、有害成分はない。と判定された。


 こっちにとっては当たり前の常識でも、しっかりと条件付けしないと間違った答えが出てきてしまう。


 王子がギフトを正しく使う為には、条件を重ねて、正しい質問をしないと駄目だと言うことがはっきりした。


 正しい質問というのはなかなか難しそうだけれど、王子ならばその辺りをキチンと勘案して、ギフトをきっちり使いこなせるような気がする。



 そんな話をした後、少し早いけれど街へと帰ることになった。


 お腹も一杯になり頭も使ったことで、ゴブリンに対する悔しさも大分薄れたように思う。


 皆で採集したクコの実とフユイチゴが幾らぐらいで売れるのか、ちょっと楽しみだ。

えられずに」、「こらえつつ」、「たまらず」、「こたえられない」を使ってみましたが、ちょっとクドくなってしまいましたか……


日本のキノコは四、五千種類あると言われていて、そのうち毒キノコは二百種類以上あるらしいです。

素人採集は絶対にお勧め出来ませんが、素人でも間違いようのないキノコが松茸なんじゃないかと思います。似ているキノコとしてマツタケモドキやバカマツタケがあるようですが、マツタケモドキは香りがなく、バカマツタケはマツタケっぽい香りらしいですが、どちらも無毒です。


マツタケは稀に赤松の生えているキャンプ場でも発見されたりすることもあるみたいですよ。

ホイル焼きは香りが強すぎて微妙でしたが、松茸ご飯は美味しかったです。


ウィリアム・バックランド(William Buckland)

十八、十九世紀の英国の聖職者、地質学者、古生物学者で、人間が食べられるものなら何でも食べたとされる人物です。乗合馬車がロンドン郊外で霧に迷った際、乗客だったバックランドが泥を掬ってひと舐めして現在地を言い当てた。などの逸話があります。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。