悪童の思い出
数年前の10月中頃、宅井と茶髪の男子は2階建て住宅の前で駐輪し、カゴからポリエチレン袋を出す。ライターとライターオイルの容器もカゴに入れていた。
「貫介、ホンマにやるん? 親にバレたらヤバいで」
「心配し過ぎだろ。オカマの三中にチクる度胸なんて無ぇよ」
駐車していないカーポートの様子を確認し、2人は玄関の扉を開ける。三中知努が他家の犬を散歩へ連れて行った今、比較的手薄な状態だ。居間に彼の妹だけ在宅している。
友人の収集情報を信じ、宅井はこの危険な遊びに参加した。教室内の中心的存在である貫介と上手く付き合わなければ、忽ち虐めの標的となってしまう。
室内へ入り、靴を脱いだ2人が足音を消しながら階段を上がる。軋む音を立てており、住人の聴覚次第で警戒心を抱く。2階に着き、貫介は右側の扉を開けて入室した。
手分けして、2人がクローゼットや収納棚の扉を開けて、目的の品を探す。棚の上部に、戦艦の模型を見つけた宅井は袋へ入れられる大きさで無いと判断し諦めた。
下部の3台展示している、類似形状のSUV模型からショーケースを外して、その中身を袋へ放り込む。貫介の方も何か発見したらしく、喜んでいる。模型を盗んだ彼は脱出を指示した。
私室を出て、2人は慎重に階段を降りる。三中知努の妹が廊下へ出た場合、退路を塞がれてしまう。気付かれず無事玄関に戻り、靴を履いた。そして、2人はそこから抜け出す。
自転車のカゴへ荷物を収納し、次の場所に移動する。宅井が自転車を漕ぎながら貫介の盗んだ物品を訊く。彼は軍用らしき螺旋翼機と戦闘機の模型を選んだようだ。
数分程漕ぎ、公園の中へ入った彼らは入口付近で駐輪する。小学校低学年の男女が遊具を使って遊んでいた。カゴの荷物を取り、2人は中央の円形砂場に向かう。
袋を投げ捨て、その上からライターオイルを掛けた。ライターで着火し、盗んだ物品を燃やす。小学生達が悲鳴を上げながら逃げ出した。しかし、貫介はスマートフォンを取り出し、楽しそうな表情で撮影する。
費やした多大な製作時間を消し去る行為に、宅井も優越感を得ていた。この状況を知らず、犬の散歩を行っている三中知努の姿が思い浮かんだ。宅井は燃える模型の残骸を見下ろし嘲笑した。
「泣くなって、笑えって」
しばらく燃やし、火が消えると蹴って砂を掛け、2人は自転車の元へ行く。用事が済んだ彼らは別れの言葉を交わし、自転車を漕ぐ。
貫介の予想通り、三中知努は被害を公にしなかった事で、如何なる咎も受けない日々を送った。それに甘んじ、宅井が新たな退屈凌ぎの遊びを考案する。
約2ヶ月後、彼は双子の妹達と貫介を伴っていた。和風家屋の玄関前で自転車を停め、宅井と友人が用意しているエアガンを持つ。彼の種類は米国製軍用自動拳銃、貫介の種類が小口径自動小銃だ。
この住宅は、三中知努の友人、祇園京希の家だった。彼女や白猫達を撃つ遊戯を行おうとしている。報復を恐れ、祇園京希が被害を誰にも相談出来ない。
宅井は妹達に、見張りを任せて玄関の引き戸を開ける。友人宅の嘘を信じ、彼女達は全く疑っていなかった。彼と貫介が土足で廊下に上がる。左側の部屋から1匹の白猫と、切り揃えた茶髪の女子は出て、すぐ引っ込む。
2人がエアガンを床へ置き、扉の取っ手を掴んで上げようとした。内側で押さえ付けられている取っ手は1分もしないうちに上がり、扉は開く。茶髪の女子が部屋の隅へ避難した。
エアガンを拾い上げ、2人は白猫の姿を探す。ベッドの上にある毛布が膨らんでおり、そこへ潜り込んでいるようだ。彼らは毛布の膨らみや女子を狙い、発砲した。猫や女子の悲鳴が響く。
BB弾を撃ち尽くすと、白猫2匹は毛布を飛び出し、彼らの脛に噛み付いた。銃身で背中を殴り、引き離そうとするが、手の甲を引っ掻かれてしまう。後ろ脚を殴って、白猫達を脛から離す。
「カナコとヨリコに酷い事したから、チーちゃんが暴れるよ」
「泣くなって、笑えって」
頬を押さえながら睨み付ける彼女を宅井が煽った直後、自転車の倒れる音と猛獣の咆哮のような怒号を聞く。彼は急いで玄関の様子を見に行く。倒れているツインテールの妹、ミリの顔を蹴り飛ばし悲痛な叫びを上げさせ、悍ましい形相の男子がこちらへ来ていた。
兄より腕っ節のある双子の見張りを潰した彼は、両拳を固く握り締めている。貫介を呼び、宅井は男子の腕へ目掛けエアガンを振った。当たると同時に、横腹を殴って彼が武器を奪う。
膝を打ち、前屈みとなった宅井の頭部へ握把を叩き付ける。頭皮は裂けて出血し、両手で押さえて彼は蹲った。男子が宅井の頭を踏みながらエアガンを天井へ投げる。
貫介の注意をそちらに向けさせ、間合いを詰めた。被筒と銃底を両手で掴み左へ腰を振りながら奪い取る。すかさず銃底を使って、膝を打撃した。
自動拳銃のエアガンは宅井の側頭部へ落下する。男子がそれを蹴って、玄関の方へ滑らせた。掴み掛かる貫介の顎へ銃底を突き上げ、転ばす。彼の喉を片膝で押さえ、動きを封じた。
「もうそれ位で良いよ。どこの動物園から脱走したのか知らないけど、飼育員の躾が悪いみたいだね」
祇園京希は制止を促しながら3人の元に来る。彼女の傍でいた白猫達も駆け寄り、威嚇の声を出す。男子が膝を離して立ち、祇園京希の隣へ行く。貫介の顔にエアガンを落とした。
「泣くなって、笑えって」
彼らを同じ人間と認識していないような、侮蔑の視線を向ける。追い払う仕草を取り、男子は部屋の扉を閉めた。虐めの標的に手痛くやられている2人は起き上がり、俯きながらエアガンを拾う。
巻き添えを食らった宅井の妹達が、兄を置き去りにする。宅井は三中知努の私室から再度模型を盗み出す報復を決意した。玄関から出て、倒れている自転車を起こし、彼が悪態を吐く。
「調子乗んなや、クソ雑魚が」
翌日、彼の妹達は敵の誘いを受け、洋菓子専門店でケーキを買って貰い、懐柔された。無抵抗の人間や猫を虐げる兄の所業も教えられ、彼を信用しなくなってしまう。
白猫達へ危害を加えた一件が、とうとう宅井の両親も知る事となった。その夜、父親に呼び出され、宅井は居間の食卓で茶封筒と2枚の紙を見せられる。
茶封筒の表へ『治療費2万円』の文字を書いていた。祇園京希の保護者が彼の治療費を工面している。しかし、敵は嫌がらせとして悲しい知らせを用意した。
『祇園カナコとヨリコは昨夜、容体が急変し、蒸気船で暗鬱な川を遡行しました。生前、エアガンの的にして遊んでくれてありがとうございました』
『恐ろしい! 恐ろしい!』
1枚目の紙が白猫2匹の訃報だ。その下へ細い顎の猫と、垂れている目尻の猫を顔だけ描いていた。底無しの沼に沈んでいくような死と直面し、怯懦な2匹は白い瞬膜を見せる。
もう1枚は2匹の治療費を記載した、『白猫の請求書』だ。金額が0円となっている。宅井の父親はその意図を説明した。
「猫を死なせたお前の罪は金で消えんと伝えとるんや」
彼が暴力や陰湿な手段に対して、相応の報いを受けない敵への怒りを募らせる。どの行為も本を正せば宅井の過失に繋がった。彼は正義の立場へ回れない。
両親から失望された宅井は報復を諦め、転居するまでの期間を惨めに生活した。幾度と無く、瞬膜を剥き出す白猫達の顔が脳裏へ浮かぶ。
宅井と貫介が盗んだ模型
〇ヨタ 2台目〇イラックス・〇ーフ ワイド(洋菓子専門店の主は、タコ〇ベースの3台目を忌み嫌っています)
〇産 初代〇ラノ(洋菓子専門店の主の愛車です。オランウータンのぬいぐるみが搭乗する車の模型もこれです)
〇ヨタ 〇ンド・クルーザー8〇(盗難車両の王です)
〇インドA(メタルギアソリッド3 スネークイーターに登場したソ連製螺旋翼機です)
MIG-21(ソ連製の噴流戦闘機です)
宅井のエアガン(M〇911通称〇ルト・ガバメントです。これのコピーモデルが物語終盤に活躍します)
貫介のエアガン(M〇6A1です)
この当時、オランウータンのぬいぐるみは、持ち主の性悪幼馴染に誘拐されていました。




