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57 景色の変わらないマラソンは辛い

「なるほど。摺木がこの転移の元凶だったんですか」

「口ぶりからすると、恐らくそのようです。ただ、それ以上聞き出すことはできませんでした」


 聞き出す前に殺しちゃったし、あれ以上あいつの声を聞きたいと思わなかったんだよ。でも、そうなると地球に戻る方法はなさそうだな。俺は困らないけど。

 爽やか君は何やら考えている。地球に戻りたいという人をどう説得するのか考えているのだろう。

 え? 今の状況を説明しろ? あー、はいはい。わかりましたよ。ざっくり言うと、山越えの最中だな。あの建物から見えた山を登っているのさ。で、今は昼飯食って休憩中。マジ山登りキツイわ。


「九城、そろそろ出発だ。日暮れまでにこの山を越えてしまいたい」

「わかりました。少しペースを上げましょう」


 わぁお、マジか。おっさんにはキツイぜよ……。

 俺は営業スマイルを顔に張り付けたまま、心の中でうなだれた。

 今、この集団の先頭にいるのは髭熊だ。何でも登山が趣味らしく、海外の有名な山々を踏破してきた猛者らしい。一体何者なんだ、髭熊は。

 髭熊が爽やか君を先頭に連れ去って少しすると、皆がぞろぞろと立ち上がる。


「ほら、座ってないで行くわよ」

「何でアイナは元気なんだ……」

「何で、って楽しいじゃない」

「嘘だろ……」

「本当よ」


 これはあれか? クライマーズハイとかいうヤツか? 疲れや苦しさを越えると楽しいと聞くが、それはドMの理論だろ。……は! まさか、アイナは……!


「痛ぇっ!」


 脛を蹴るな! アイナ! 何だそのジト目は。俺はアイナの性癖を知っただけだ。……痛いって! 蹴らないでっ!

 そんな馬鹿ばかしいやり取りをしながら山を歩く。今日の朝からずっとこの調子だ。風景が森の中だから全く変化が無くて、本当につまらない。

 学生時代のマラソンってグラウンド走るとつまんないけど、マラソン大会になって学校の外に出ると少し楽しいよな。すぐに風景を楽しむ余裕なんてなくなるけど。


「ここで今日は休憩ですって。……大丈夫ですか、神崎さん?」

「えぇ……だいじょ、ぅぶです……」

「何処も大丈夫じゃないじゃない」


 アイナも門番君も何でそんなに元気なの? これが若さか……。俺は限界だよ。

 寝泊まりする場所は、大きな岩を風除けとして皆はそれぞれテントなどを組み立て始める。既に暗くなっており、慣れない組み立てを頑張っている。

 俺以上にへばっていた人も組み立てに参加しているじゃん。頑張れよ。……俺? 俺はマジックバッグに組み立て済みのテントが入ってるから、取り出すだけで終わるよ。


「つくづくマジックバッグって便利よね」

「それは同感だ。だが、これだけ便利だと怖いな」

「持っていない人から恨まれるわね」


 ま、俺とアイナに喧嘩を売ってくるようなヤツは、ここにはいないけどな。昨日一日で俺とアイナの評価は爆上がりしているから、寧ろ、持っていて当然という雰囲気だ。だが、もしこの世界のジモティーがいたらそう簡単にはいかないだろう。こんな便利アイテム、諍いの種にしかならない。だって創作の世界ではそうだったもの。


「神崎さん、天導さん。ご飯ですよ」


 俺はご飯じゃないぜ? 門番君。しかもそれは美味しいご飯のお供だよ。

 俺達は門番君に呼ばれ、シェフのもとに向かう。鬱蒼とした森の中にキッチンがあるシュールな光景だ。布と棒で簡易的に屋根が作られ、ランタンにも傘をかぶせて光が下方向にしか行かないように改良しているので、光が外に漏れる心配はない。空飛ぶ即死トラップへの対策も完璧だ。あいつは火葬の炎と建物に攻撃していたので、目立たないように頑張ったのだ。

 俺達は木製の器になみなみと注がれたスープと、フラの実を貰って元の場所に戻る。


「美味しいわ」

「限られた食材でよくここまで美味い料理が作れるな」


 食事を終えて器を返却すると就寝だ。俺は前半の不寝番を担当するので起きたままだが、アイナはお休みだ。


「おやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」


 不眠症の俺は疲れていても寝れる時間ではないが、何人かは舟を漕いでいた。彼らも疲れているのだろう。俺は彼らを起こさず、交代の時間まで不寝番を続けた。翌朝は日の出とともにシェフのスープを飲み、片付けて出発だ。

 そんなことを1週間もしていると、あまりに代わり映えしない風景と毎日にうんざりしてくる。正直、シェフの料理がなければ何処かで折れていた人もいたと思う。

 そう、俺達は森を抜けた。そして、人のいる痕跡を見つけたのだ。


「道がありますね」

「人のいる証拠でしょう」


 オイオイオイオイオイオイ、ジモティーいるじゃんよ! テンション上がってきたー!


「どちらに向かいますか?」

「……右……いえ、左に行きましょう」


 森から抜けて見えた道は左右に続いている。爽やか君は迷った末に左を選択した。人がいる可能性をしった皆の顔色は明るい。心なしかペースも早いようだ。

 俺はマジックバッグから擬装用バックパックを取り出して背負う。中は空っぽで軽量金属のフレームが入っており、荷物が入っているように見える上に、椅子代わりにもなる優れモノだ。勿論、アイナも背負っている。

 最後尾からのんびりと周囲を見回す。左手には鬱蒼とした森と、そのはるか奥に山が見える。俺達はあそこを通ってきたのだろう。右手には地平線まで草原が続いていた。テレビで見たサバンナみたいだ。

 ……見渡す限り何もないけど、大丈夫だよね?



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