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49 緊急事態発生

「きゃあぁぁぁ!」

「うわーーっ!」


 みんなの悲鳴が聞こえる。空から降って来た巨大ゴブリンから、誰もが一目散に逃げようと動いた。

 ある者は前線に逃げてゴブリンに殺され、ある者は巨大ゴブリンの振るった分厚いノコギリのような武器で切られる。


「九城! 法術をかけて指揮を執れ! このままでは全滅するぞ!」

「……! 分かりました」


 大和さんの喝を受けて思考停止から復活した僕は、急いでみんなに法術をかける。


「ご武運を」

「フッ、何とかなるさ。行くぞ!」


 不器用ながら、僕を心配させないように笑ってくれたことだけはわかった。僕も自分にできることをしよう。

 そう思って、僕はすぐに部隊の再編成をし始めた。





 人生ってのは、何が起こるかわからんから面白い。だが、命懸けのものはいらんな。俺だけなら兎も角、他の若いもんはこれからがあるだろうに。


「俺が正面を受け持つ。楠と坂口は側面から攻撃しろ。松村は背後に回って隙を伺え。三原と佐久間は動き回って魔法を打ち込め。足を止めたら死ぬと思え!」


 俺は矢継ぎ早に指示を出しながら、巨大ゴブリンの前に立つ。

 改めて正面から見ると、その大きさに圧倒される。3メートル越えの化け物だ。本当に勝てるか不安になってくる。

 巨大ゴブリンの振るうノコギリを刀で受け止める。身体強化をしていながら、それでも受け止めることで精いっぱいだ。俺でこれなら、俺以外の奴はかなり厳しいかもしれん。


「気を付けろ! 物凄い力だ。まともに打ち合ったら押し負けるぞ!」


 そう言いながら、振るわれたノコギリを受け止めていく。俺が攻撃を受けている間に、楠と坂口が攻撃を加える。全身鎧の関節部に攻撃が当たるが、どれも有効打にはなっている様子はない。大型ゴブリンとは鎧の質も違うようだ。


「佐久間! 顔面を狙え!」

「了解!」


 佐久間のファイアランスが巨大ゴブリンの顔面に命中する。小さな爆発と共に煙で視界が奪われるはずだ。

 俺は刀を鞘にしまい、居合の姿勢を取った。


「松村!」

「応!」


 松村が巨大なハンマーを頭めがけて振りかぶる。力だけなら俺以上の猛者だ。あれの本気を受ければただでは済まないだろう。

 俺は精神を研ぎ澄ませ、ハンマーで殴られて体勢が崩れた巨大ゴブリンの首目掛けて刀を抜いた。残像を生み出すほどの速さで放たれた俺の渾身の一撃は、確実に巨大ゴブリンの首を切り裂いた。


「やったか?」


 手ごたえはあった。血も出ている。

 ゆらりと揺れた巨体は、しかし、倒れることはなかった。一歩下がった足には力が入り、その巨体を支え、煙から出てきた顔は、やけどの跡が治りつつあった。

 巨大ゴブリンがノコギリを振った。いや、投げたのだ。ノコギリは俺の頬を薄っすらと切り裂いて、後ろにいた佐久間をミンチにする。


「佐久間!」

「佐久間さん!」


 一瞬だけ、巨大ゴブリンから目を離してしまった。こんな強敵を相手に、絶対にしてはいけない事をした。


「グハァッ……」


 巨大ゴブリンに殴られた。咄嗟に身体強化を強めたが、ガードも受け身もとれず殴り飛ばされた。


「大和さん!」

「松村!」

「ぐ、クソッ……離せ……!」


 巨大ゴブリンに頭を鷲掴みにされた松村が見える。拘束している腕を外そうと松村がもがくが、びくともしていない。


「このっ、デカブツ! 松村を離せ!」


 坂口が猛攻を仕掛けるが意に介さない巨大ゴブリンは、そのまま松村の頭を握りつぶした。


「く……かはっ……」


 身体が言うことを聞かない。無理やり動いたら吐血した。だが、それでも立ち上がるしかない。このままでは全員が死ぬ。

 残った3人が攻撃をするも、巨大ゴブリンは足を止めることはなくノコギリを拾う。そして、大きく口を開いた。


「ぜ、全員距離を取れ!」


 俺は叫んだ。嫌な予感がしたんだ。離れなければならないと、心の底から思った。

 俺の言葉に全員が地面を蹴って後ろに跳んだその時、巨大ゴブリンが吠えた。耳を劈く爆音は衝撃波を伴って、周囲のものを弾き飛ばす。

 近くにいた3人はその直撃を受けて、大きく弾き飛ばされる。俺の近くまで吹き飛ばされた楠の耳から血が出ている。鼓膜をやられたのかもしれない。

 巨大ゴブリンが俺の方にやって来る。起きているのが俺だけだからか、二人いるからかはわからないが、殺す気なのはわかる。


「年貢の納め時か……」


 せめて若いもんだけでも生き残ってほしい。

俺は無理やり立ち上がると、刀を構える。一撃だけでも防いでみせる。

 巨大ゴブリンがノコギリを振り下ろしに合わせて、俺も刀を振るった。この状態なのに、人生最高の一撃だったと思う。だが、それは虚しく空を切った。


「緊急の連絡があったから急いで来てみれば、これは本当にピンチというものですわね」


 俺の前には紫の髪を靡かせた女の子がいた。あの嬢ちゃんが、あの巨大ゴブリンを蹴り飛ばしたのだ。

 嬢ちゃんはスクロールを取り出すと、俺の体の痛みがあっという間に引いていく。


「神崎が言っていたわ。普段から使わないと、スクロールは身につかないって。大和さんは生き残っている人の救出をしてくださいな」

「ま、待て。あれを嬢ちゃん一人で相手するつもりか!?」

「そうよ? 不完全燃焼で暇なのよ」


 事もなげに言い切った嬢ちゃんは、散歩でもするかのような足取りで巨大ゴブリンに向かって歩いて行く。

 俺はその後姿を見送るしかなかった。


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