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「そう緊張するな。できることだけすればいい」

「そう言われましても、大和さん。命懸けの戦いを前に、緊張しない人なんていませんよ」


 あ、待ってください。いましたね。僕の知る限り、あの人だけはいつも通りの笑顔をしていました。

 神崎、とだけ名乗った彼は、様々な面で特殊でしたね。

 最初に会った時は驚きました。僕を射殺さんばかりの目で見てましたから。ものすごく緊張して、冷や汗をかいたことは記憶に新しいです。あれを思い出すと、今の緊張の方がマシですね。


「しかし、こんな作戦とはな。神崎らしい」

「剣と魔法の世界ですから、直接戦うことばかり考えていました。それに、この作戦は卑怯ですよ」

「結界内部からの飽和攻撃。一番こちらの損害が減る作戦だ。それに、生き残らねば話にならん」

「『正々堂々というものは、脳筋が勝てない時にする言い訳ですよ』でしたね」


 恐らく、神崎さんは才能とステータスに恵まれていない。それは、戦い方を教えている方々からの報告でも明らかだ。本人は生産職らしく、だからこそ、ステータスに恵まれた戦闘職と正面から戦うような真似はしない。


「九城、お前さんの素直さは得難き長所だ。だが、リーダーとして皆を引っ張るなら、神崎のような“狡さ”を身に着けた方がいい。神崎ほどになる必要はないがな」


 僕は大和さんの言葉に苦笑いを浮かべた。

 才能はあるのに、真っ直ぐすぎて活かしきれていない。多少はグレーな手段を取れるようにならないと、その内大変なことになるぞ、と地球にいた時、先輩が言っていた。本当にそうだと思う。


「わかってはいるんですけどね。なかなか難しいですよ」

「その素直さは生来のものか。ま、見本が近くにいるのだから、ゆっくり取り入れていけばいい。成長とは一日にしてならぬものだからな」

「そうします」


 大和さんと話していると、作戦開始時刻になった。僕は里見さんに声をかける。


「私が法術をかけたら、全力で攻撃をお願いします」

「は、はい!」

「大丈夫ですよ。みんな緊張しています。いつも通りにするだけですよ」


 里見さんは若い女性のエルフで、真っ赤な髪を後ろでまとめているのが特徴だ。僕も火属性魔法は使えるが、それでもエクスプロージョンはまだ使えない。

 僕は里見さんを安心させるように優しく声をかけて、法術をかける。

法術は広範囲にステータス上昇などの付与ができるスキルで、単体にかけるのは不向きだが、仕方ない。神崎さんがくれた魔力回復ポーションを飲もう。


「いきます!」


 里見さんが声を張り上げた。その数秒後、ゴブリンの大群の真ん中で大爆発が発生した。爆風と轟音がここまで届く。

 その結果を確認することなく、僕は矢継ぎ早に命令を下す。


「全員、スクロールを構えてください!……攻撃開始!」


 多くの魔法が敵に向かって飛んでいく。その壮観な光景に目を奪われてしまった。実際には、魔物とはいえ命を奪っているのなのに。


「両翼端、殲滅を開始してください」


 広がった両翼を狙い、徐々に幅を狭めていく。そうすると、必然的に中央にゴブリンたちが集まっていく。


「中央、高威力のスクロールで攻撃をしてください」


 中央から高威力の魔法が放たれる。これまでのファイアボールなどとは違い、高威力のファイアランスや、射程の長いファイアアローが飛んでいき、何体ものゴブリンを屠っていくのが見えた。


「九城さん、こちらに向かってくる敵がいます!」

「数は?」

「3つです」

「大和さん、楠さん、坂口さんで対応してください」


 僕は急いで法術を彼らにかけて送り出す。僕もこの中ではかなり戦える方だが、指揮官が不在では混乱が生じるため、他人を送り出すしかない。

 すぐに戦闘が始まった。結界内部に踏み込んだ3匹に、それぞれが切りかかる。

大型ゴブリンはステータスが高いのか、大和さんでさえ簡単に倒せていない。今すぐにでも加勢に加わりたいが、結界がなくなる前に、できるだけ敵の数を減らしておきたい。

 その後、しばらくの間戦っていた大和さんが1匹の大型ゴブリンを倒した。その勢いのまま楠さんに加勢し、これまた大型ゴブリンを屠る。そして、3匹目を3人で倒した。


「ふー、年寄りにはキツイわ」

「助かりました。攻撃が通らなくて困っていたんです」

「なに、構わんよ」


 3人に一応回復魔法をかけて、魔力回復ポーションを飲んでもらう。疲れは取れていないので、結界が消滅するまで待機だ。

 それからしばらくして、結界が消滅した。

魔法が飛び交う中をゴブリンが走って向かってくる。


「だいぶ減りましたが、それでも残っていますね」

「でもまあ、これだけなら何とかなるだろう」


 戦闘職が前に立ち、その後ろから魔法職や生産職のスクロールによる攻撃が行われている。魔法の密度が減ったが、命中精度は上がっているようだ。

 だが、もう潮時だろう。生産職は下がらせて、左右の打ち漏らしを担当してもらうように指示を出そうとしたところ、そいつはやって来た。いや、落ちてきたというのが正しい。

 ドォンッと地面を揺らし、何人か人を踏み潰したそいつは、ドスのきいた低い声で唸るように笑った。


「全員、デカブツから離れろ! 俺たちが相手をする!」


 大和さんが怒声を上げる。突然の事態に止まっていた時間が動き出した。


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