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The悪役令嬢

本日は王城に来ている。


3日と開けずに誘ってくる王子に今日は王宮を案内してあげると誘われたのだ。


約束の時間よりも随分と早くに着いてしまった為、私はジーナと共に王子宮の手前にある中庭をプラプラと歩いていた。


王城と王子宮を繋ぐ通路に面して作られた中庭はこじんまりとしていて大して綺麗な花もなく殺風景だ。


背の高い木が1本だけニョキリと生えていて、木登り好きな私としては何ともウズウズしてしまう。


だけど流石に登る訳にもいかないので我慢我慢。


「あ、シロツメクサだ!」


中庭の一角にシロツメクサが咲く場所を見つけ眺めていると「ちょっと!あなた!」と背後から声がした。


振り返るとそこには金髪というより黄色と言った方がいい髪色をした私同様にキツい顔の女の子が立っていた。


黄色い髪は見事な縦ロールで巻かれていて、振り回したら凶器になるんじゃないかと思う見事な髪型をしている。


目にも鮮やかな真っ赤なドレスがキツい顔を更に引き立てているように見える。


『うっわー!これぞ正にThe悪役令嬢だわ』


ちょっと感心してしまった。


「あなた、リリーナ・ストマイク伯爵令嬢とお見受けいたしますけど?」


「はい、そうです。どちら様ですか?」


「まぁ!私を知らないと?私アメリア・ロッティンバムですわ!」


ロッティンバム…確か公爵家だったはず。


「ロッティンバム公爵令嬢でしたか……そんな方が何か?」


「あなたに身の程を知って頂こうと思っておりましたの!」


「身の程?」


「何でもヴェルデ様に浅ましくもしがみついて婚約を願い出たとか。あなた、恥というものを知りませんの?!」


え?私がいつしがみついて願い出た?


「何か勘違いなさってませんか?私そんな事はしていませんが?」


「まぁ!知らばっくれるおつもり?あなたが無理やり婚約に漕ぎ着けた事は巷に知れ渡った有名な話でしてよ?!」


どういう話が知れ渡ってるの?!


あ、もしかしてこれもまたシナリオの強制力的な物?


嫌がる王子に纏わり付くお邪魔虫な婚約者になるべく外堀から埋められてく感じ?


こんなに早くから強制力って働くもんなの?


考えてみた所で分かんないんだけど。


「あなたに貴族としての矜持があるのならば今すぐ婚約を解消なさい!」


出来る事ならしてるってーの!!


「何をしてるの?」


背後から王子の声がして、次の瞬間腰をグイッと抱き寄せられていた。


「僕の可愛い婚約者に、君、何をしてるの?」


今日の王子、何やら迫力が凄いんだけど。


「わ、私はただ!」


「ただ?」


「こちらの方がヴェルデ様に無理やり婚約を強いたと聞いて婚約を解消なさいと申しただけですわ!」


「ふーん………何でそんな間違った噂が流れてるんだろうね?」


「間違った?」


「うん、間違った噂だね。だってこの婚約を望んだのは僕だ。僕が父上に頼んでリリーを婚約者にしてもらったんだ。ね、違うでしょ?」


「ヴェルデ様が、望んだ?」


「そう、僕が望んだんだ。可愛いリリーとどうしても仲良くなりたくて、僕が望んだ」


「そ、そんな…」


「誤解は解けたよね?もう二度とリリーに変な言いがかりは付けないでよね?いい?」


素晴らしい笑顔なのだが圧が凄いと感じるのは気のせいだろうか?


「さぁ、行こうか、リリー」


そういうと王子は私の腰に手を回したまま歩き出した。


ガックリと項垂れるアメリア様が何だかとても気の毒に見える。


「あのー、良かったんですか?」


「ん?何が?」


「アメリア様です」


「あー、別にいいんじゃない?」


「でも、何だか可哀想ですよ?」


「リリーは優しいね」


アメリア様に向けられていた視線との温度差が凄いんですが、どういう事でしょうか?


「あ、あの!」


私は意を決した。


「もしヴェルに他に好きな人が出来たら遠慮なく婚約は解消してくださいね!」


ヴェルの目が大きく見開かれた。


目玉零れ落ちそう…なんて思った事は内緒。


「どうしてそう思ったの?僕に他に好きな人が出来ると思ってるの?」


「だって私達まだ10歳じゃないですか?成人するまでの間に運命の相手に出会うかもしれないし、そうなった時に私が邪魔になるのだけは嫌かなーって」


「運命の相手…ふふふ、大丈夫、もう出会ってるから」


「え?そうなんですか?じゃあ婚約は解消した方がいいんじゃないですか?」


「リリーは可愛いね。僕の運命の相手は君だよ、リリー」


頬にチュッと口付けられ、私はその場に呆然と立ち尽くしてしまった。


我に返ると頭の中は大パニック。


私が運命の相手?!


ないない!絶対ない!


いるとしたら多分ヒロインでしょ?!


私どう見たって悪役令嬢ポジでしょ?!


王子大丈夫?!


王子は10歳にしては妙に色気を感じる笑顔でこちらを見ている。


可愛いだけじゃない王子。


何だか危険な気がしてきた。


「リリーといると僕は強くなれるんだ。だからこれからもずっと傍にいてね、リリー」


「え?誰?」


「僕だよ、君のヴェル」


「え?キャラ変わってない?」


「こんな僕は嫌い?」


うるうるした上目遣いで見られて何も言えなくなった。


狡いわ、あのタイミングであの顔は!


その後、王宮を案内されたのだが、落ち着かない思考と気持ちで上の空だった。



それから3日後、我が家に予想外の来客があった。


訪ねてきたのはアメリア様。


「この前は申し訳ありませんでした」


わざわざ謝りに来たのだ。


悪役令嬢顔だけど中身はとても良い子のようだ。


「噂を鵜呑みにしてしまい本当にごめんなさい。私、あれからとても反省しましたの」


「別にいいですよ、気にしてませんし」


「リリーナ様は優しいのですね。ヴェルデ様が心を寄せる気持ちが少し分かりましたわ」


「いやいや、心を寄せるだなんて」


「いいえ!あの目は恋する目でしたわ!私、応援致しますわ!」


「応援?!いりませんよ、応援とか」


「謙虚でもあるのですね、リリーナ様は」


めっちゃ褒められていますが違いますからね?


私、そんな人間じゃないですよ?!


「それで、あの…よろしければ私とお友達になっていただけませんか?」


アメリア様からの突然の告白に思わずキュンとしてしまった。


悪役令嬢顔なのに実はこんな可愛い人だなんて反則だ!


萌えるじゃないか!


可愛い!可愛いぞ、アメリア様!


「はい、喜んで!」


そう言うとアメリア様は恥ずかしそうに頬を染めてふにゃりと笑った。


その顔がまた可愛くて推そうかと思った。


顔はツン、性格は正義感溢れる素直なタイプ。


萌え要素しかないでしょう!


私の生活が益々楽しくなるような予感がした。



まさかあんな事を言われるとは思わなかった。


「もしヴェルに他に好きな人が出来たら遠慮なく婚約は解消してくださいね!」


一瞬世界が終わるかと思った。


でもちゃんと話を聞いてみたら僕の事を思って言ってくれたのだと分かってホッとした。


運命の相手なんてリリー以外に考えられない。


ありのままの僕を認めてくれて、僕を褒めてくれる人なんてリリー以外にいない。


リリー以上に僕の心を強くしてくれる人なんてこの先絶対現れないと思う。


リリー以上に欲しいと感じる人もきっと現れない。


リリーがいればいい。


リリーさえいてくれたら僕はずっと笑っていられる。


僕の幸せはリリー。


だからリリーも同じ位僕の事を好きになって。


僕から離れていくなんて絶対に考えないでね?


月にそんな願いを唱えられているなんて露知らず、リリーナはこっそりとベッドの中でクッキーを食べているのであった。

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