ファイナル・スクイズ
プロ野球の試合は延長戦に入っていた。
一アウト、ランナー三塁。この場面で打者が選択したのは、「スクイズ」だった。ここで一点取れば、それで試合は終了する。
当然ながら、打者がスクイズしてくる可能性を、相手チームの投手も警戒していた。
なので、とっさにボールを大きく外した。簡単にはスクイズできないコースだ。
しかし、打者がバットに当ててくる。
ボールは地面に落ちた。それが転がっていく先には、三塁側の白線がある。
三塁にいた走者は、すでに動き出していた。ホームベースに突入しようとしている。
転がるボールを前にして、相手チームの投手は迷った。これから取りにいっても、ホームベースに投げるのは間に合わない。
だが、このボールが白線の外に出てくれれば、今のスクイズは失敗だ。走者も三塁へと戻る。得点は入らない。
だったら、そっちの可能性に賭けよう!
ボールを取らないという決断をした。
投手が息をのんで見守っていると、ボールの転がる勢いが落ちてくる。
はたして、どこで止まるのか。白線の内側か、外側か。この差は非常に大きい。
観客たちの視線も、ボールの動きに釘づけだ。
やがて、ボールが完全に停止する。白線の外・・・・・・には出ていなかった。
がっくりと膝をつく投手。
その様子を、一人の野球ファンが自宅のテレビで見ていた。
自分が応援しているチームが負ける! それを阻止しようとして、とんでもない行動に出た。
「これなら、どうだ!」
なんと、テレビを斜めに傾けたのである。
当たり前のことだが、画面内のボールは動かない。
ところが、この試合を、野球好きの女神さまも天上から見ていた。
で、同じようなことを思いつく。
「そうだ! 球場ごと傾ければいいんだ!」
その結果、ボールは白線の外に出た。得点は無効だ。
しかし、地球は大変なことになっていた。
なにせ、自転が一時的に急加速したのだから・・・・・・。