04-21_ヒーローと井戸亜先生の魔術講座
今回は井戸亜先生と魔術のお勉強をします。
ちょっと情報量多めです。
04-21_ヒーローと井戸亜先生の魔術講座
「思ったより時間が掛かったね。どうせ赤坂のせいだろう。アイツは後で折檻だね。」
「うわぁ~、イトアさんってアカサカさんに恨みでもあるのかな。」
「さぁな。それより井戸亜さん。早く話を進めて下さい。」
ここは井戸亜の研究室。ナナシ達は電話を受け取ってすぐにここに向かったのだがどうやら井戸亜が思っていたより遅かったようだ。
呼吸をする様に列人に濡れ衣を着せる井戸亜にドン引きするアリエル。
そしてそれについては大して気にしていないナナシが話を促す。
「あぁ、そうだね。早速だが奥のVR室まで一緒に来て欲しい。そこで説明をする。」
そう言って井戸亜がこの場にいる者を奥の部屋まで先導する。
そこには機械に囲まれたベッド型のデバイスが5台設置されていた。
その光景にアリエルは何か分からないけど何となく凄そうなものという事だけは理解できたようで、部屋全体を目を見開きながらマジマジと観察する。
その様子に少し笑みを漏らしながら井戸亜が機材の説明をする。
「アリエルさん、それはVRB (ヴァーチャルリアリティベッド)。仮想空間にアクセスするための機械だよ。
悪いけど細かい事の説明は時間がかかり過ぎるから省略するよ。取り敢えずベッドに横になってくれるかな。」
「はい・・・分かりました。」
アリエルは井戸亜に言われるままベッドに横になる。
他の者は既にベッドの上で目を瞑っていたのでアリエルもそれに倣う。
それから数秒後、アリエルの見ている風景に変化が訪れる。
「えっ!ここはどこ?」
そこはだだっ広い草原で今まで寝ていたベッドも機材も白い壁も存在しない。
そして先ほどまでベッドで寝ていたナナシと純と蒼太がアリエルの横に平然と立っていた。
その光景に困惑しているアリエルだが、その前方の空間に更なる変化が訪れる。
「やぁ、初めてのVRの感想はどうだい?」
目の前の空間自体が歪んだかと思うとそこには飄々とした表情の井戸亜がいきなり現れる。
その様子に困惑し疑問を漏らすアリエルに、意地悪な笑みを浮かべながら井戸亜が答える。
「えっと・・・ここはどこですか?あたしは確かイトアさんの部屋にいたはずですが・・・」
「ご心配なく、今でもアリエルさんは僕の部屋にいるよ。これは・・・極めて現実に近い幻覚と言ったところだね。」
「嘘ッ!これが幻覚なんですか?」
「とは言ってもここで得られた知識はちゃんと覚えているし、訓練の結果だって無駄にはならない。
まぁ筋トレ関係は流石に無理だけどね。」
「・・・・」
「さて、時間も惜しいし、早速魔術の訓練に入ろう。まずは座学からだ。」
その言葉をきっかけに何もない空間からホワイトボードと人数分の机と椅子と筆記具が姿を現す。井戸亜は身振りで全員に席に着く様に指示をする。
これから始まるのは井戸亜先生主催の魔術講座である。
「まずは基本からだ。フレイム。君が術を発動する時の様子を出来るだけ細かく説明してくれ。」
「はい。まず頭の中で使用したい術を出来るだけ細かく、正確に思い描きます。
次にそれを行うために必要な霊力を身体から取り出します。そしてそれを必要な所まで移動させ、術の形に変化させ、放ちます。
ここで重要なのは術を可能な限り緻密にイメージする事と必要な霊力を正確に早く移動させる事です。」
「うん、結構。基本的に霊力も魔力も扱いは同じなので魔術についても同じ手順で大丈夫だ。
魔法を行使する上での初歩的かつ最も重要な要素としては『感知』『移動』『増減』『変化』『放出』と言うのがある。
『感知』は自分の中にある魔力をしっかり掌握する事、『移動』は必要な場所に魔力を動かす事、『増減』は必要な量の魔力を正確に供給する事、『変化』は魔法の形をしっかりイメージし望んだ形へと変える事、『放出』は変化後の魔法を現実世界に反映させること。
魔力があるのに魔法が使えない人間は大抵この内のどれかがうまくいっていないのが原因だ。大抵の魔法使いはこれを感覚でやっているが知識を得るだけで魔術の効率は格段にアップする。
アリエルさんにはこれからこの手順を一つずつ確認してもらおうと思う。」
「えっと・・・趣旨は理解できましたけど、具体的には。」
「そうだね・・・ではちょっと実技に入る前に蒼太君に質問だ。
例えば氷を術で作る時にどうやっているかい?」
「えっとですね・・・まず氷の温度、質量、形状等のデータを数字として算出して、それに必要な霊力を割り出します。
そこから必要な霊力を体内から捻出し、それを現実世界に投影する事で術を発動させます。」
「えっ??」
「うん、蒼太君は完全に左脳だけで術を発動させているみたいだね。術の情報を全て数字情報に置き換えてそれから発動させている。
確かに精度は高くなるけど恐ろしいほどの計算速度が必要になって来るね。」
「えっと~~、取り敢えず真似できそうにないって事だけは分かりました。」
「では次、葉山はどうやって術を発動させている。」
「俺の場合はぶっ壊したい物の強度に応じた霊力を拳や足に込めて殴ったり蹴ったりするだけだ。
殴りたいか、斬りたいか、貫きたいかによって形状を変えたりするけどな。」
「葉山は完全に右脳型の様だね。桁違いの霊力と生まれ持った才能で術を扱っているタイプだ。
この手のタイプは完全に感覚頼りだからひたすら反復練習をして身体に感覚を染み込ませる必要がある。」
「ちょっと両極端すぎる気もしますけど。」
「まぁ、普通は数字と感覚の両方を使ってイメージを固定していく人が多いと思う。
『1000℃の炎はこんな感じの色で燃える』みたいな感じでね。必要な魔力量については反復練習あるのみだね。」
「ちなみに『すべてのものを焼き尽くす1兆℃の炎』とかを作ろうとしたらどうなりますか?」
「それだとイメージに保有魔力が追い付かず、魔法失敗の上、魔力切れを起こすね。」
「なるほど、それでまず『感知』が必要なわけですね。自分の保有している魔力をしっかり把握するために。」
「それから先ほどは『1兆℃の炎』を作ろうとすると魔力切れを起こすと言ったけど、『移動』と『増減』さえきちんとしておけばイメージに引っ張られた供給が起こらないから、相応の炎が発動するだけで済む。」
「つまり魔法の威力はここと『変化』イメージで決まるわけですね。」
「その通りだよ。そして『放出』で魔法のイメージをどれだけ正確に現実に反映できるかが決まる。言うならばイメージを現実に反映する際の変換効率と言ったところかな。
理屈の説明はこんな所でいいだろう。では練習を始めようか。」
説明を受けた所で井戸亜指導の元、アリエルの魔法訓練が開始された。
訓練内容は自分の中の魔力の確認、魔力の移動と量の調整の練習、井戸亜の魔法を見る事によるイメージトレーニング、微弱な魔法の発動を繰り返す事による『放出』のトレーニング。
休憩を挟みながらこれらの訓練を繰り返し行う事、およそ10時間。この時点でアリエルの魔力操作はここに来た時に比べて格段に上達していた。
だがこの時アリエルは慌てた様子で一つの疑問を口にする。
「イトアさん。訓練を始めてかなり時間が経っていますが、もしかしてもう朝になってたりしませんか?」
そう、アリエルは出発の時間が来たのではという事を危惧していたのである。だが井戸亜は慌てる事なく質問に答える。
「その心配はないよ。何故ならここは現実空間より時間の動きが100倍遅いから。」
「へっ!!」
この時、井戸亜はアリエルに地球のVR技術の最も凄い点である時間圧縮技術について説明する。
この技術は現実世界での1秒を100倍の100秒に引き延ばしたり出来る技術で、今アリエルが感じた10時間は現実世界では6分しか経過していないのである。
しかもこの空間の利点は脳以外の肉体的な疲労がない為、休憩が少なくて済むし、点滴などで糖分接種をすれば脳の疲労も軽減する事が出来る点だ。今回も現実世界では眠った後にブドウ糖の点滴が行われている。
ただしこれには起きた後、恐ろしく脳が疲れるという欠点はある。それでも現実で座学やイメトレをするよりは遥かに効率がいいのは事実の為、この時代の教育関係はほとんどこのVR空間で行われている。
もっとも100倍というのは一般人より頑丈なアリエルにだから行っている事であり、普通の人間は10倍くらいが推奨である。ちなみにナナシ達、最強の10人は1000倍速とかを平気で行う。
これを聞かされた時、アリエルは自分がファンタジー世界の人間のくせに、こちらがフィクションではないかと疑ったほどである。
そんな鳩がレーザー光線で焼き鳥にされたような顔をしているアリエルに井戸亜が悪夢の言葉を呟く。
「さて、これで時間がたっぷりある事が分かってくれただろう。取り敢えず現実空間で30分、こちらで言えば50時間を目安に訓練を続けようと思う。
あと40時間、しっかり頑張ってくれ。」
「えっ・・・・イトアさんの鬼~~~~~!!!悪魔~~~~~!!!大魔王~~~~!!!!」
眉一つ動かさず無茶振りをする井戸亜にアリエルは魂の叫びをぶつける。
だがこれがいけなかったのだろうか。この後の井戸亜の指導はスパルタそのものだったという。
未来のVRいいですね。自分も仮想空間でたっぷり趣味に没頭したいです。
でもそのせいでアリエルは地獄を見るわけですけど。
次回は仲間同士の交流を交えながら今後の予定についての話をしていきたいと思います。




