04-17_『ブルーゲイル』神崎蒼太
今回は蒼太の戦闘回です。
04-17_『ブルーゲイル』神崎蒼太
「さて、では自分達も行くとするか。」
ここは地下高速通路のメンテナンス区画へと向かう通用口。
この言葉とともにナナシが狭い通路を先行し、それにアリエルと蒼太も後ろを付いていくのだが、
「ちょっと!2人共速過ぎだよ!!」
「・・・」×2
そう、狭い通路だろうと時速200キロ以上で進むヒーローに一般人アリエルがついて行けるわけがない。
場が気まずい沈黙に包まれる中、最初に口を開いたのはナナシだ。
「アリエル、魔法には確か肉体強化があったはずだが、どの程度の速度で走れる?」
「う~ん、時速50キロくらいなら。」
「・・・」
「・・・遅すぎるな。それでは怪人を取り逃してしまう。」
「うっ!ゴメン。あたしの事は置いて行って。」
流石に今は任務中なのでアリエルを負ぶって進むわけにもいかず、かといってここに置き去りにするのも危険だ。
2人が途方に暮れている所に今まで黙っていた蒼太が口を開く。
「あの・・・もしよければ乗り物を作りましょうか?」
「えっ!」
「わぁああ~~!ごめんなさい!!・・・僕みたいなミジンコが作ったいつ壊れるか分からないポンコツになんて乗りたくないですよね!!
差し出がましい事を言ってごめんなさい!!・・・これから土に還りますので許してください!!」
「いやいや~、土に還る必要はないからね。それより乗り物が作れるんだ。」
「はい・・・一応、氷の壁でアリエルさんを保護する事も出来ますから事故の心配はないと思います。
ただ・・・僕の術で作った物なんて弱っちいですから怪人には簡単に壊されるかも知れませんが。」
「・・・ナナシ君。乗り物の安全性は?」
「自分が本気で殴っても2、3発なら持ち堪えられる。」
「うん、限りなく安全だね。じゃあ、ソウタ君。お願いしてもいいかな。」
蒼太に聞いても埒が明かないと判断したアリエルはナナシに確認を取る。
ナナシから安全のお墨付きを頂いた所で、アリエルは蒼太に乗り物作成を依頼。
「では、行きます・・・『クリエイトキャリアー(木枯らし)』。」
蒼太が術を行使した瞬間、アリエルの目の前に青白い冷気が漂いそれから数秒後、車輪が2つとハンドルと座席とそれを覆うカバーが付いた氷の乗り物(屋根付きバイク『木枯らし』)が姿を現す。
「ソウタ君・・・これって・・・」
「すみません!!・・・お気に召しませんでしたか。そうですよね。僕みたいなアオミドロが作った乗り物なんて気に入るわけないですよね。」
「いや、これって凄いね。この席に座ればいいのかな?」
「えっ!・・・そうですか。アリエルさんは優しいから僕に気を使って言ってくれているんですね。
そうです・・・そこに座って頂ければ大丈夫です。僕の少し後ろを付いて行くように設定してますので。
それから・・・自分で動きを指示したい時はそのハンドルを持ってください。どう動きたいか思い描けばその通りに動きますので。」
「・・・ナナシ君。これって高性能すぎない?」
「ツッコんではダメだ。下手に褒めるとそこからネガティブ思考に突入するのが蒼太君の怖いところだ。」
こうして自称アオミドロが作ったバイクのお陰で、アリエルの移動手段も確保できたところで、3人は怪人の元へとその足を進める。
それから狭い通路を一直線に進む事暫し、今までより少し開けた場所に差し掛かる。
「どうやら、この先がメンテナンス区画の様だ。」
「怪人の気配がしますね・・・数はおよそ10。それから隠れている気配がもう10ほどいます。」
「えっと~、結構いるみたいだけどどうするの?」
「不意打ちで仕留める。まず自分が1人で出て見えている10匹を始末する。」
「そして・・・隠れている10匹がフレイム兄さんを襲ったところで僕が不意打ちですね。」
「・・・ヒーローって正義の味方じゃないの・・・」
「綺麗事で戦場に勝利出来れば苦労はしない。」
「そうです・・・特に僕は弱っちいですから、勝つために色々やらないと。」
「・・・」
ただでさえ反則級の力を持つヒーロー2人が不意打ちを敢行しようとする圧倒的な卑怯、ガチガチのセメントプレイにアリエルはドン引きする。
そしてそんなアリエルを無視してヒーロー2人は目だけで合図をした後に行動を開始する。
まず動き出したのはナナシだ。
『変身』
ナナシは自分の契約精霊、暴龍タイラントドラゴンと静かに交信をし、その姿を変貌させる。
その身に纏うのは真紅のプロテクター、腕には強固で殴る事に特化したガントレット、脚には走る事と蹴る事に特化したグリーブ、耳と肘と踵には炎を象った装飾。
頭部全体を覆うマスクを被り、その眼は他の部分よりも深い赤。これこそ日本最強の炎の格闘士のヒーロー『名無しのフレイム』である。
変身を終えたフレイムは早速狼怪人達へ不意打ちを敢行する。
『紅蓮連撃』
「!!!!!」×10
完全に油断して全く無警戒だった狼怪人達は、フレイムが放つ灼熱の連撃を前に何もさせてもらえず、一瞬で塵芥と化す。
だが相手は組織的に動く怪人。この程度で終わるわけがない。味方がやられた事に気づいた怪人達が物陰からフレイムを急襲する。
『変身』
だがヒーロー側も無策で突っ込むほど馬鹿ではない。
物陰に隠れていた蒼太がその姿を変貌させると同時に迎撃に向かう。
全身を覆う銀色のスーツと青い氷の手袋とスケートシューズ、頭全体を守る銀色のマスクと永久氷壁を思わせる獣の頭部を象ったヘッドギア、目の部分は全て飲み込むような蒼。
これが『氷狼フェンリル』と一体となった、風と氷の万能術師『ブルーゲイル』神崎蒼太である。
『氷烈斬』
「!!!!」×10
一瞬の出来事だった。フレイムへの攻撃に気を取られていた狼怪人達は蒼太の攻撃に対応できず、10本の氷の刃でその首をはね落とされる。それも10体同時にタイムラグ一切無しで。
その凄まじい光景を安全な『木枯らし』の中で目を丸くしながら眺めるアリエル。自分と住む世界が余りにもかけ離れたその光景に頭がついていけずにいた。
今だ蒼太が生み出した風と氷の残滓が残る中、蒼太はフレイムに近づく。
「フレイム兄さん・・・うまくい・・・」
「えっ?」
だが勝利の余韻は束の間だった。
うつ伏せに倒れる蒼太。今起こった出来事にアリエルの顔色が一気に青ざめる。
先ほどまで戦っていた怪人達よりも大きな黒い狼怪人がその右手の爪で、蒼太の背中を引き裂いた。
もう一体怪人が隠れていた。しかもその出で立ちからして、怪人組織の首領だろうか。
アリエルはその姿を見ただけで身震いした。アナシスのモンスターで言えばSランク以上、下手すれば災害指定級の強敵である事が一目で分かったからだ。
そしてその鋭い爪を蒼太は無防備に背中で受けてしまった。死んでないにしても無事では済まないだろう。そんな最悪の予感がアリエルの頭をよぎる。
一方、黒の狼怪人は残虐な笑みを浮かべながらナナシとアリエルに視線を向ける。
「ヒーローと・・・サポート役のお嬢ちゃんって所かな?
多少腕は立つようだが、囮を倒したくらいで油断したんじゃ世話ねえな。」
「・・・」
「あ~~あぁ~~。ヒーローの方はだんまりかよ。
でもお嬢ちゃんの方はいい顔してくれるぜ。最高にそそるな。
よし、決めたぜ。ヒーローの方はそのすかした顔が恐怖で歪むぐらい甚振って、女の方は俺の玩具にしてやる。
手足をもいだ後に犯すのは最高に気持ちいいんだよな。ついでに邪神様のエネルギーにもなるし一石二鳥だぜ。」
下卑た笑いを浮かべながら舌なめずりをする怪人。
その言葉と同時にナナシ達は無数の漆黒の狼に囲まれる。
アリエルの表情が恐怖で歪む中、ナナシは・・・・思わずため息をつく。
「蒼太君。もう打ち止めみたいだ。寝たふりはその辺でいいぞ。」
「えっ!!」
「はい!・・・ごめんなさい!!僕が臆病だからこんなに弱い相手にまだるっこしい方法使って!!僕なんて海に不法投棄されたプラスチックくらいの価値しかないゴミクズなんです!!」
「・・・蒼太君、落ち着くんだ。一応敵はまだいるのだから。」
いきなり起き上がり何事もなかったようにネガティブ発言を展開する蒼太に一同は唖然とする。
実は蒼太は最初から黒の狼怪人が隠れている事を知っていて、わざと敵に聞こえる声で作戦会議をし、おびき出したのである。
爪で切り裂かれても平気だったのは、あらかじめ身体に氷のバリアを張っていたからだ。
ちなみにこの事はフレイムも前もって聞かされている。蒼太の能力は氷と『風』を操る事、つまり空気振動をフレイムの耳元だけに聞こえる様に調整して作戦を伝えていたのである。
アリエルに教えなかったのは、本当にやられたと思わせて囮の成功率を上げる為。
卑屈故に勝利に対して一切の妥協をしない。それが天才神崎蒼太の真に恐ろしいところである。
「おい!このクソヒーローども!!俺様の前でコントかますとはふざけるのも大概にしやがれ!!俺様は『黒狼』の首領だぞ!!使い魔共!やっちまえぇーーーー!!」
敵は今だ健在。黒の狼怪人が自身の使い魔達に襲撃を指示する。だが・・・
「おい!どうしたテメェら!!・・・そんな!馬鹿な・・・」
使い魔達に反応は無い。何故なら・・・
狼怪人と使い魔の下半身は氷漬けになっているからである。しかも本人達に気づかれることなく。
怪人の間抜けな様子にフレイムは再びため息をつきながら言葉を漏らす。
「はぁ・・・蒼太君が何の策もなく敵に姿を晒すと思うのか。貴様の目の前にいるのは日本ヒーロー連合No.4『ブルーゲイル』だぞ。」
「はああああぁぁ!!!!『ブルーゲイル』だと!!!」
「ごめんなさい!!・・・僕みたいな蛆虫がこんな場所にしゃしゃり出て!!本当にごめんなさい!!」
全ての怪人から恐れられる日本ヒーロー連合最強の10人の1人がこんな卑屈少年だと誰が想像できただろうか。
目の前の怪人が狼狽える中、今まで卑屈だった少年の気配が鋭利な刃の様に変化する。
「では・・・速やかに終わらせます。『無限氷刃』!!」
蒼太が死刑宣告とともに術を発動すると現れたのは蒼の世界。蒼太の周りには静かに風が渦巻き、絶対零度の冷気が作りだしたもの。それは、
刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!刃!
万では利かない夥しい物量、まさに無限の氷の刃が蒼い輝きを放つ。そして
グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!グサッ!
怪人と使い魔達の喉元へと寸分たがわず、突き刺さる。怪人は悲鳴一つ上げる事が出来ずに絶命。
可能な限り静かに素早く倒すあたり、蒼太の卑屈から来る慎重さが窺える。
「蒼太君、流石だ。君もヒーローになって少しずつ強くなっているようだな。」
「えっ!そうですか・・・恐縮です。少しはお役に立てるようになったなら嬉しいです。」
「・・・・」
ナナシが感心して蒼太を(褒めすぎると逆効果なので慎重に)褒める中、アリエルは背筋が凍る思いをする。
この少年はその気になれば国一つの軍隊を一瞬で滅ぼすだけの力を有している。
よくよく考えればナナシや篝や純、他のヒーローだってアリエルの世界アナシスに行けば楽に国を滅ぼすだけの力を持っている。
彼等は確かに善良だ。だが彼等の善良さだけに頼って何の対策も取らないのでは余りに危険ではないだろうか。
人として彼等を信じたいアリエルと騎士として彼等の力を危険視するアリエルが葛藤する。
だがそんな中、
「フレイム兄さん・・・もしかして僕、釘打ち用のトンカチくらいは役に・・・すみません!!調子にのり過ぎました!!僕なんて釘を打とうとするチンパンジー以下です!!」
「こらこら、謙遜は良くないと言っただろう。君はトンカチどころかネイルガンくらい役に立っているぞ。」
「そんな~!!・・・僕が文明の利器と同レベルだなんておこがましいにもほどがあります。僕なんて所詮錆びて打ち付けようとするとそれだけで折れる釘くらいの価値しか・・・」
「・・・はぁ~~~。」
「ん?どうした、アリエル。ため息なんかついて。」
「いえ、何でもないよ。」
「それより、蒼太君を復活させる方法を一緒に考えてくれ。どうやら褒め加減を間違えてしまったようだ。」
「・・・心配するだけ無駄かな。」
勝手にネガティブ思考に嵌る蒼太とそれを必死でフォローしようとするナナシを見ると、今まで考えていた事が馬鹿馬鹿しく思えてしまうアリエルだった。
蒼太君、マジ万能すぎます。この子本当に大概の事は一人で出来るから、書く側としては扱いが難しいんですよね。
次回、この世界の日本の歴史について触れて行きたいと思います。




