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04-13_ヒーローと井戸亜の昔話

今回は井戸亜の昔話をお送りして参ります。

04-13_ヒーローと井戸亜の昔話


「取り敢えず、葉山は医務室に行ってくれ。フレイムとあれだけ激しい戦いをしたんだ。

一応大丈夫だろうが見てもらった方がいいだろう。フレイムと蒼太君はその付き添いを頼む。」


「ちょっ!井戸亜さんとアリエルはどうするんだよ!」


これは蒼太とアリエルの能力確認が終わった直後に井戸亜が発した一言である。

これを聞いた純は当然の事ながら顔を真っ赤にして抗議し、それに井戸亜は飄々とした様子で話を進める。


「僕とアリエルさんはここで待っているよ。僕は彼女の魔法の先生として少しお話があるし、医務室での確認は一応だからすぐに済むと思うから。」


「葉山、蒼太君。行くぞ。」


「はい・・・フレイム兄さん。」


「おい!待てよ!フレイム!」


井戸亜の指示に従い、ナナシが純と蒼太を引き連れて医務室へと向かう。

2人っきりになった所で井戸亜がアリエルに話を振る。


「アリエルさん、まずはここにいる者の訓練風景でも見ながら話を聞いて欲しい。

ここに今いるのは新人のヒーローばかりだが君から見てどう思う?」


「みんな凄く強いですね。あたしは故郷では『結界の聖女』って呼ばれていましたが、きっとあたしの結界じゃ数回攻撃を防ぐので精一杯でしょうね。」


演習場ではヒーローの新人達は拳を武器を振るい、炎を氷を稲妻を放ち、地を駆け空を舞い、壮絶な訓練を繰り広げていた。

井戸亜とアリエルはその光景をぼんやりと眺めながら話を続ける。


「『結界の聖女』・・・君はガードナーの出身か?」


「はい、そうです。イトアさんもアナシスの人だったんですよね。あちらではどんな方だったんですか?」


この瞬間、ほんの一瞬だけ井戸亜の表情が僅かに曇るが、アリエルに悟られる前にその雰囲気は引っ込む。そして穏やかな表情で井戸亜が言葉を紡ぐ。


「フラム王国の宮廷魔術師、魔法戦略室室長イドニア。それが僕の昔の名前だよ。」


「えっ!フラム王国って・・・もしかしてこの本の著者をご存じですか?」


そう言ってアリエルが一つの本を取り出す。本のタイトルは『ウォルト魔術全集』である。

これを見た瞬間、今までどこか飄々としていた井戸亜の雰囲気が鳴りを潜め、その表情は鬼気迫るものへと変わる。


「アリエルさん。すまないがそれを見せてもらっても・・・」


「・・・どうぞ。」


井戸亜の変化に動揺しながらアリエルは『ウォルト魔術全集』を手渡す。

それを受け取った井戸亜は凄まじい速度で本を読み始める。それから待つこと1分ほど、最後のページまで読み終えた井戸亜が震える声でアリエルに問いかける。


「アリエルさん。君のいる時代はアナシス共通歴で何年だい?」


「共通歴2027年ですが・・・」


「今もフラム王国は存在するのかい?」


「はい、世界有数の大国です。」


「フラムで戦争があったりは?」


「いえ、そういう話は聞きません。隣国のグランシアとも友好関係にあったはずです。」


この瞬間、井戸亜の瞳からひとりでに水滴が溢れ出す。

その様子にアリエルが動揺する中、井戸亜はそれを気に留める事もなく嗚咽を漏らしながら呟く。


「良かった・・・うぅ・・・『ウォルト君』はあの戦いを無事に越えたんだ・・うぅ・・ぅ・・・」


「・・・イトアさん。」


ボロボロと涙を流しながら必死に声を抑える井戸亜を静かに見守るアリエル。

それから少しの時間を置き、井戸亜が落ち着いたところで今だに涙の跡が残る表情で言葉を紡ぐ。


「アリエルさん、すまない。見苦しいところを見せてしまったね。」


「いえ・・・イトアさん、事情を聞いても?」


「あぁ、少し長くなるけど構わないかい。」


「はい、お願いします。」


そう前置きをしてから井戸亜は自分の前世について語り始める。


「この本は僕が死んでから3年後の共通歴2025年に出版されたものなんだ。

そしてこの本の著者は僕の友人ジーニアス=ウォルトだ。」


「・・・・」


「僕にはね。前世でイドニアと言う名前の他にもう一つの名前があったんだ。

魔王軍四天王_魔術長イルブラント。私利私欲の為に魔術の研究に全てを捧げ、国中に悲劇をまき散らした最低の下衆。それが僕の前世だ。」


「!!!」


「僕はね、前世では孤児でね。その僕を拾ってくれた貴族がいたんだ。それがイドニア男爵夫妻。

僕は彼等が僕の魔法の才能に目をつけて拾ったのだと思っていたから、どんな目に遭うのかと身構えていた。

でもそこで与えられたのは真っ当な親の愛情だった。彼等は僕を愛し、優しい言葉と衣食住、それからしっかりとした教育を与え、抱きしめてくれた。

あとから知った話だがどうも僕はそのイドニア夫妻が昔亡くした実の子供にそっくりだったらしい。

それを知った時、僕はそれでも構わないと思った。その息子の代わりにこの優しい夫婦を慰められるならそれでも構わないと。

でもそれを2人に話した時、彼等は何って言ったと思う?

『確かにきっかけはそうだったかも知れないし、今でも昔死んだ息子の事も愛してる。でもそれと同じくらい『ジン』の事も愛してるって。』

そう言ってくれたんだ。」


両親の事を語る井戸亜の表情は穏やかでとても優しかった。

だがその表情が少しずつ曇り始める。


「だがそんな日々はそう長くは続かなかった。父さんと母さんが事故で死んだ。僕が15の時だ。

その瞬間、僕が魔術を研究する目的は一つになった。『両親にもう一度会いたい。』ただそれだけの為にありとあらゆる努力をし、ありとあらゆる犠牲を払った。

法に触れる事も人の道に反する事も何でもやった。そしてそれに目を付けた魔王が僕を魔族に誘った。

僕は喜んで魔族になった。魔族の使う魔術があれば両親に会えるかもと思ったからだ。

そして散々悪事を働いた挙句、1人のヒーローに倒された。それが僕の碌でもない前世だよ。」


「・・・」


アリエルは井戸亜から語られる壮絶な前世に言葉を失った。だが同時に疑問も持った。

少しの間を置き、アリエルがその疑問を口にする。


「何故、そんな大切な話をあたしにしてくれたんですか?」


「・・・それはこの本だね。この本の著者ジーニアス=ウォルトは僕の友人だと言っただろう。

彼と出会ったのは僕が死ぬ数日前、彼の博識さと魔術に対する情熱、そして純粋に魔術の研究を楽しむ姿勢。

その姿が僕に両親がいた頃の自分を思い出させてくれたんだ。ただ魔術を純粋に楽しむ、両親が愛してくれた『ジン』の記憶をね。

だからジーニアス=ウォルトは僕の親友なんだ。そして死ぬ前に僕の全てを託したただ一人の人間。

この話をしたのは、彼の無事を教えてくれた君に対するお礼かな。」


全てを話した井戸亜の顔はとてもスッキリしていた。

長年気に掛けていた心配事が解消した。そんなカラッとした爽やかさが彼の表情から伺える。

そんな彼がアリエルに対して、穏やかな声で話を続ける。


「これから君はまたアナシスに戻ってフレイム達と共に『名前ある者の神』と戦うのだろう。

勿論君にはそれを拒否する権利もある。でも君はそれをしないんだろうね。」


「はい、あたしもナナシ君に助けてもらった人間です。力不足かも知れませんが、それでも彼の力になりたいです。」


「よし、ではこちらにいる間は全力で君のサポートをさせてもらうよ。

あと向こうに行った時のトレーニングメニューも僕が考えよう。

どうせフレイムの事だからヒーロー式の無茶なトレーニングでもしているんだろう。」


「本当ですか!ありがとうございます!やった~!少ししかしてないけどあの地獄から逃れられるよ~。」


「・・・よっぽどヒドイ目にあったんだね。まぁ、完全には無理だけど、かなり負担を軽減できると思うから期待するといいよ。」


こうして魔法使い用のトレーニングメニュー作成を約束してくれた井戸亜に対して、ここに来て一番の笑顔を向けるアリエルであった。

井戸亜の全面的なバックアップを得られ、ナナシの訓練から逃れられる様になったアリエル。

でも井戸亜って前世では究極の魔術バカでしたのでそれはそれできつそうですね。

次回は医務室に行ったナナシ、純、蒼太の話です。



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この井戸亜ですが前作からの登場キャラです。

詳しく知りたい方は『ヒーローは二度死ぬ 転生先はゲームの世界? 世界を守ったヒーローが今度は村の平和を守ります。』をご覧ください。

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