01-06_ヒーローとスニーキングミッション
ナナシ、アリエルをストーキングします。
01-06_ヒーローとスニーキングミッション
「しかし驚いたよ。あんな量が命で味はそこそこのお店で100人前食べるだなんて。」
「いや、味も中々美味しかったがな。」
「それにしても一食で1万ガードルとか食費がいくらあっても足りないよ。」
2人はトニーの店を出た後、王城に向かっていた。
先程、アリエルが門番に対して任務で王城に向かっていると言っていたのをナナシは聞いており、ここまでの案内のお礼に城まで付き合うと提案した為である。
これに対してアリエルは苦笑いをしながら、それでも奢ってもらった手前断るのも躊躇われたので渋々了承した。
本当は断るべきだとアリエルは思っていた。どうもお節介な彼の事だからこのまま『結界の聖女』の件に首を突っ込まないか不安だったからである。
『結界の聖女』の任務は危険が伴うので他国の人間である彼を巻き込むべきではないと騎士としてはそう思うからである。
でもアリエル個人としては彼の圧倒的な力とそのお節介な性格に頼りたいとも思ってしまう。
その結果が現在の状況である。仕方がないのでアリエルはナナシにこちらの常識について再びレクチャーする事にした。
「先程ギルドで受け取ったハンターカードがあるよね。
あれって身分証明になるんだけど、一通り説明しておこうか。」
「そうだな。頼む。」
「まず記載しているのは呼び名とランクだね。
呼び名っていうのはハンター活動をする上で正式な名前として扱われるもので、ここは任意で選べるんだよ。
ナナシ君は私が『ナナシ』ってつけちゃったからそれが表示されているの。
呼び名は本名じゃないからナナシ君でも問題なかったみたいだね。
それからランクはギルドへの貢献度に応じて与えられる権限の様なものだね。
ランクが高いほど高額で難易度の高い依頼を受けられる様になるんだよ。
F~Aとその上にSがあるんだけど、ナナシ君は下から2番目のEになるのかな。
なんで一番下のFじゃないかというと、さっき大量に持っていったモンスター素材のせいだね。
ギルドの職員さんが言うには貢献度は十分なんだけど1ヶ月経たないとDランクにはなれないんだって。」
「なるほど、そういえば先程ギルドで魔力というものを測ったのだがそれの説明をお願いしたい。
自分の国には魔力を測ると言う習慣がなかったものでな。
どうやら自分には魔力というものがないらしい。」
「え!嘘でしょう!じゃあさっきのモンスター相手にどうやって戦ったの?
まさか本当にただの筋力で倒したなんて言わないよね。」
ナナシの魔力無し発言にアリエルが驚きの声を上げる。
それに対してナナシは疑問の表情でアリエルに聞き返す。
「その反応を見るに、どうやら自分が使っている力と魔力は別物のようだな。
自分も魔力とは違うが超常の力を使う事が出来る。
その違いも知っておきたいので魔力の説明を頼めるか。」
「・・・・うん、分かったよ。
魔力っていうのは体内で生成されるもので、超常の力を扱う元となるエネルギーの事だよ。
大半の人がこの魔力を持っていて魔法が使えない人でもそれは例外じゃないんだよ。
たまに魔力無しって人もいるけど、本当に極少数な上に色々大変みたいなんだ。
魔力がないと身体が弱くなりやすい上に魔道具も一部使えないものがあるらしいんだよ。
これってナナシ君には当てはまらないよね。」
これを聞いてナナシは自分の力について説明する。
「自分の持っている力は霊力と呼ばれるものだ。
これは自分が超常になる為のエネルギーであり才能と言われている。
自分の国ではこの力で通常より遥かに強い力を出せる様に身体を強化したり、術と呼ばれる超常の力を扱ったりできるようになる。
性質は多少違うかもしれないが一種の魔法と言っても差し支えないかもしれないな。」
「なるほど、つまりナナシ君はこの国とは別系統の魔法の様なものが使えるからあんなに強いわけだね。」
「まぁ、そういう事になるのかな。ただ君の話通りだと自分は魔道具を使えないと言う事になるな。」
「うん、そうなるね。まぁ魔道具は魔石式っていう外部から魔力を取り入れるものがほとんどだから多分大丈夫だよ。
魔道具を買う時は魔石式以外は買わないようにすればいいと思うよ。ただちょっと高いけど。」
「そうか、ありがとう。参考になったよ。」
「ふふっ、どう致しまして。」
こうした他愛も無い雑談をしている内に2人は王城に到着した。
「では、ここでお別れだな。」
「・・そうだね。本当に助けて頂いてありがとうございます。
いつかまた会うことがあれば是非お礼をさせてね。」
「いや、気にしなくていい。
お礼ならここに案内して貰った事と身分証明書を作ってもらった事で十分だ。
それより次の機会にはまたトニーさんの店で食事をしよう。」
「それってナンパ?あたしを落とそうって言うならもう少し常識を身に着けてからだね。」
「ああ、善処しよう。」
そう2人は軽口を叩きながらその場で別れる。
アリエルが王城に入るのを見送ったナナシは早速行動に出る。
「タイラント、聞こえるか?」
『なんだ、フレイム。先程からあの少女が気になるようだったが。』
「ああ、これから彼女を尾行する。」
『・・・また始まったか。いつものお節介が。
我は人が近づくのを知らせればいいのだな。』
「話が早くて助かる。では行くぞ。」
こうしてヒーローのスニーキングミッションが始まった。
まずは城壁の周りを調べ、その中で人が居ない箇所に近づき、
ピョン!!ピョン!!ピョン!!ピョン!!
空中多段ジャンプで一気に城壁を飛び越える。
この時周囲をタイラントに見張ってもらっている為、目撃者は0である。
着地したのは王城の中庭で人の行き来はそれなりにある。
ナナシはすぐさま草木に隠れながら建物の中に入る。
この時、何人かの目撃者がいたかもしれないが、その動きが素早すぎて人だと認識できなかったようだ。
そして建物の中ではタイラントが人の接近を知らせると同時に天井に張り付く事でやり過ごす。
人とは意外に上を見ていないもので、天井の角等に張り付くと意外に見つからない。
そうやって城内を進んでいると、ふとタイラントがナナシに声を掛ける。
『所で貴様、あの少女の場所は分かっているのだろうな?』
「ああ、分かっている。彼女の歩く時の足音の特徴は覚えた。
いるのは一番上の階だな。そこで彼女の足音が止まった。」
『・・・・いつも思うが貴様は本当に人間か?』
「タイラント。いつも言う事だがそれは君が一番分かっている事だろう。」
彼らにとってはいつも通りの不毛なやり取りをしながらナナシは目的の場所へと歩を進める。
場所は変わって王城の最上階_謁見の間
そこは100人は軽く入れるくらいの大きな部屋で、柱や壁の至る所に精細な彫刻が掘られており、超一流の調度品が飾られ真っ赤な絨毯が入口から部屋の奥に向かった伸びている。その内装は正に豪華絢爛、国一番の権力の象徴というべき場所である。
そしてその豪華な部屋の一番奥、ほかよりも一段高くなった場所には玉座が設置されており、そこに一人の男が鎮座していた。
年の頃は40過ぎ、茶髪で白髪混じり、青目で彫りの深い顔立ち、この男がこの国の王ダニエル=エト=ガードナーである。
彼の周りには側近が5人程、それから絨毯の両サイドには護衛の近衛騎士達がズラリと20人。
そして入口には胸当てと腰に剣を佩いた緑髪でツインテールの少女が佇んでいた。
彼女はこの国で『結界の聖女』と呼ばれる存在、アリエル=ユーリアスである。
「よく参られた『結界の聖女』よ。さぁ、王の御前へ。」
王の側近の声を合図にアリエルは剣を近くの騎士に預け、王の前の一段低い所で跪く。
「『結界の聖女』アリエル=ユーリアス。お呼び出しに従い参上致しました。」
「うむ、大義である。その力を持って結界の復活と維持に励むこと、大いに期待している。」
「御意。」
ダニエルの声にアリエルが恭しく頭を下げたまま答える。
この時、アリエルの脳みそに占めている事はというと
(やっば!ちゃんとできてるのかな。騎士学校で習ったことそのままでやってるけど失礼な事言ってないかな。
不敬罪で任務の前に斬首刑とかになったらどうしよう。)
等とビビりまくっていた。
アリエルは元々田舎の貧しい家の出である為、身分の高い人間との対応の知識等は騎士学校で習った事しかない。
故に今にも倒れそうな内心を押し殺しながらなんとかこの場に立っている状態だ。
ダニエルの方はそんな心境等お見通しで、『結界の聖女』は身分の低い者にも時折現れる為、特には気にしていない。
そのダニエルがアリエルに対して再び口を開く。
「『結界の聖女』よ、先日行われたシルド砦への遠征の途中でモンスターに襲われ護衛が全滅したと聞いている。
『結界の聖女』が砦に向かうと必ずと言ってもいいくらいモンスターに襲われるからな。
改めて護衛を準備したい所ではあるが、すぐには少し難しい。だが、結界の復活と維持は急務だ。
そなたに護衛の宛があれば有難いのだが。」
「心当たり・・・・ですか・・・・」
この時アリエルは黒髪の青年を思い浮かべた。
彼なら頼めばきっと頷いてくれるだろう。
だが、この危険な遠征に彼を巻き込むわけにはいかない。
そう思い『いない』と返事をしようとしたその時、
「なるほど、君がモンスターに襲われていたのはそういうわけだったのか。
もし良ければ君の護衛、自分が引き受けたいのだがよろしいかな。」
そこにはいるはずのない黒髪黒目の青年の姿があった。
ナナシ、王城に不法侵入です。
本来ならこの地点で豚箱行き確定なのですが、果たしてどうなることか。




