03-32_ヒーローと魔女たちの雑談
孤島での戦いの後の話です。今回は篝と由奈にスポットを当てていきます。
03-32_ヒーローと魔女たちの雑談
「あっ!由奈さん!よかった、目が覚めたみたいだね。」
「あなたは・・・もしかしてあの時の魔女の人かな。」
あの孤島での戦いが終わってすぐの事、篝とナナシは気絶したアリエル、ルーファス、由奈を箒にのせてホテルまで運び、ベットに寝かせ、篝が看病をしていた。
それから一日経ち、ナナシは『名前ある者の神』ユーナに戦いの終わりと由奈の救出を報告しに行き、篝は今もこうして看病をしている中、最初に目を覚ましたのが由奈である。
篝と由奈はこの時が初対面であるのになぜか由奈は篝がドラゴンを焼き尽くした魔女である事を知っている。
篝は由奈が知ってはいけない情報を知っている可能性がある事に気づき、取り敢えず猫かぶりをしながら会話する事にした。
「えっと~、お姉ちゃんは確かに魔女だけど由奈さんとは初対面のはずだよ。」
「・・・そう・・なのね。私はてっきりドラゴンを焼き払ったヤンキーの魔女さんだと思ったから。」
「・・・えっとね~。お姉ちゃん確かに孤島でドラゴンと戦ったけど、ヤンキーなんて知らないよ。」
「えっ!ほら、あなたそっくりで赤い髪と目で魔女っ子の恰好をして、ココワシガレットを口に咥えたヤンキーが「おっと~。それ以上喋るんじゃねえぞ~、お嬢さん。」」
この瞬間、篝が由奈に対して、眉をハの字にしてメンチを切りながら口止めをする。今のお年寄りの姿の由奈にヤンキー篝が詰め寄っている姿は絵面としては最低である。
由奈はこの時、篝=ヤンキーである事を確信したが、どうやら触れてはいけない事だったようだ。篝の言葉に由奈は高速で首を縦に振り、服従の意を示す。
それに満足した篝は再びお姉ちゃん(笑)に戻り、話を切り出す。
「いい。由奈さんはあの孤島でドラゴンと戦う『魔法少女ミラクル篝ちゃん』しか見ていない。オ~ケ~?」
「・・・もちろんよ。私はドラゴンと戦う『ミラクル篝ちゃん』しか見ていないわ。」
ここで『魔法少女』を付けないのが由奈の最後の抵抗だろうか。取り敢えず口止めが成功した事に笑顔を浮かべる篝が話を続ける。
「よし、それじゃあ念のため、お互いの状況確認をしましょうか。」
「そうね、お願いするわ。」
ここで篝が由奈に対して今までの経緯を説明する。それを聞いた由奈は、
「そう・・・良かった・・・ナベリウスもアクルスのみんなも無事なのね。」
「うん。お姉ちゃん達、ヒーローズジャーニーが『魔女の石碑』を破壊して問題解決。ただ由奈さんはお婆ちゃんになっちゃったけど。」
「それはほら、私、こう見えて数百年生きているわけだから、むしろ石碑が壊れて白骨死体にならなかっただけマシだと思わないと。」
「まぁ、言われてみればそうなんだけど、由奈さんって結構メンタル強いね。」
「そうじゃないとあの馬鹿共の恨み節を数百年やり過ごす事なんて出来ないわよ。」
数百年間囚われていたにも関わらず、その事についてあっけらかんと語る由奈に篝が若干呆れながら応じる。
その様子にクスクスと笑いながら答える由奈だが、少しの間をおいてその表情は真剣なものへと変わる。
「篝さん、あなたには本当に感謝しているわ。あなたがあのドラゴン達を一掃してくれていなかったら負のエネルギーがナベリウス達を飲み込んでいたかも知れないから。
アリエルさんも頑張ってくれていたけど、篝さんが負のエネルギーの大半を吹き飛ばしてくれていなかったら耐えられなかったと思うの。そうしたら私は私でいられなくなっていた。
今回みんなが無事でいられた真の立役者はあなたよ。」
由奈のこの言葉に篝は首を傾げながら応える。
「う~ん、それはちょっと買いかぶり過ぎかな。多分アリエルちゃんは今回より強い瘴気でも頑張って止めただろうし、一瞬でも止めればフレイム君が瘴気を焼き払っただろうから。
きっと結果としては同じだったと思うよ。まぁ、みんなが少し楽が出来たならお姉ちゃんの仕事も無駄ではなかったとは思うけど。」
「随分謙虚なのね。10000以上のエンシェントドラゴンを葬った大魔女の言う言葉とは思えないわ。」
「そうでもないよ。ただあんな弱っちいトカゲ倒したくらいでいちいち自慢していたら、フレイム君に呆れられるってだけの話。」
「・・・あなた達は普段どんな化け物と戦ってるのよ。あのドラゴン達ってこっちの世界を数回滅ぼせるだけの戦力があったのよ。」
「お姉ちゃん達って地球を100回くらい救ってるから。それよりも由奈さんはこの後どうするの?」
篝が終了とばかりに由奈に話を振る。それに対して由奈は少し考える素振りを見せた後にゆっくりと口を開く。
「そうね。今後は普通のお婆ちゃんとして、ナベリウスとこのアクルスで静かに暮らしていきたいわね。
だってナベリウスが言ってくれたもの、『一緒に生きよう』って。」
「そう、じゃあ最後に質問。なんで『日本語辞書』なんて用意したの?今回のナベリウスへの宿題だけだったらこっちの言葉だけで十分だったのに。」
柔らかな表情で質問を口にする篝に由奈はこれまた穏やかな口調で、眠るルーファスの方に視線を向けながら答える。
「あれは私の作品を楽しんで欲しかったからよ。好奇心旺盛なナベリウスの事だから昔住んでいた家の地下室に本の山を見つけたら、絶対に読みたくなると思うのよね。
でも本を開いてみたら謎の文字、あの子なら絶対に解読しようとするわ。そんな時登場するのが『日本語辞書』。
頑張って翻訳した結果、全部娯楽小説だった時のあの子の顔が見たくてね。
悔しがるのか、それとも純粋に楽しむのか。どちらにしてもあの子の心の深いところに私の作品が残ってくれたと思うのよ。
そうやって作家、香取由奈はあの子の中で生き続けたかった。それが私の描いたハッピーエンドなの。
私はデウスエクスマキナの存在を知らなかったから。」
「なるほど、じゃあ私達の存在を最初から知っていたら?」
「そしたら、迷わずあなた達にデウスエクスマキナになってもらっていたわ。
私も悲劇より喜劇が好きだから。」
「そういえば、あなたの分身の『石碑の魔女』代行がこんな本を書いたけど。」
「どれどれ・・・これは酷いわね・・・よし、目標が一つできたわ。」
「えっ!それって何かな?」
「『勇者ナベリウスの物語_再会の章』を出版できるレベルに改稿する事。」
「それはいいね。お姉ちゃん応援するよ。」
こうして新たな目標を見出したかつての『石碑の魔女』香取由奈は再び歩き出すだろう。
だが今は二重人格の偉大な炎の魔女さんとの穏やかな会話を楽しむのであった。
今後の目標を見つけた由奈と何とか口封じに成功した篝。
次回、そろそろヒーロー達には旅立ってもらおうと思います。




