03-30_ヒーローと『物語』の終わり
いよいよ、アクルス編ラスボス『魔女の石碑』との闘いです。
03-30_ヒーローと『物語』の終わり
「ん?どうかしたの、ナナシ君。」
「・・・どうやら篝さんの方は派手にやっているようだな。こちらも急ぐぞ。」
今まで割と情けない感じでアリエルに引き連れられていたフレイムの様子が一転する。
上空から聞こえる激しい爆発音と眩い閃光。戦況の変化にフレイムが動く。
フレイムはアリエルの前に出て先頭を進む。目の前には緩やかにカーブした長い下り坂が螺旋を描きながら続いていた。それを走る事暫く、3人は孤島の地下にある大空間へとたどり着く。
まず最初に目につくのは真っ黒な瘴気を放つ禍々しい『魔女の石碑』。
そこにはあの『勇者ナベリウスの物語_終わりの章』が日本語で書かれていた。
そしてその傍らには同じく真っ黒な瘴気に身を包まれた、淀んだ黒い瞳とくすんだ黒髪の幽鬼の様にやつれて生気のない少女が、右手に手のひらサイズの石板を持って佇んでいた。
少女を見たルーファスは目を見開き絶叫しそうになるのを必死で堪えながら、優しく彼女に語り掛ける。
「ユナ、久しぶりだね。僕だよ。ナベリウスだよ。」
「な・・・べ・・り・・・う・・・・す?」
『石碑の魔女』香取由奈は焦点の合わない目で、必死にルーファスの声の方に向き、その姿を探す。
その声に応えるようにルーファスは彼女の元へと近づき、その身体を抱きしめようとする。まさにその時
「さんにん・・・いる・・・なべりうす・・・だれ・・・どれが・・・・うす・・・」
「!!!」
うめき声と共に由奈の身体が立ったまま痙攣を始め、そしてナベリウスを求めて錯乱し始める。
「ものがたりにはさんにんいない・・ふたりがにせもの・・・もしかしたらぜんいんにせもの・・かえせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!・・わたしのなべりうすをかえせぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!」
「落ち着いて!ユナ!」
「かえせぇぇぇえええ!!!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!」
由奈は怨嗟の声を喚きながら、涙、よだれ、鼻水、ありとあらゆる体液を顔面から垂れ流し、どす黒い瘴気をまき散らす。
そしてそれに呼応するかの様に石碑の方からも瘴気が無尽蔵に溢れ出し、ルーファスを今にも飲み込もうとする。
『守護方円』
アリエルが作り出した透明な結界が瘴気の行く手を阻み、ルーファスを守る。
だが瘴気を受け止めるアリエルの額には大量の脂汗が浮き上がる。
「ナナシ君・・・この瘴気・・・重い・・・早く何とかして・・・」
瘴気の圧倒的な質量を前にアリエルの結界は今にも押し潰されそうになる。
由奈は邪神に力を受けた存在、怪人になりつつあった。その力はヒーローの力を持たないアリエルが相手取るには荷が勝ちすぎたようで、結界も長くは持たないだろう。
そんな緊迫した状況の中、この中で唯一邪神の力に高い抵抗力を持つフレイムが動く。
『チェンジフェニックスフォーム』
フレイムがフォームチェンジを行うとともに耳と肘と踵の飾りが燃え盛る火炎のように大きく膨れ上がり、背中には巨大な鳳凰の翼が姿を現す。
『鳳凰炎舞脚』
フレイムは由奈の瘴気に対して鳳凰の羽ばたきで対抗。その背の翼が広がり、フレイムは巨大な火の鳥へとその姿を変え、そして飛び立つ。
その動きは疾風迅雷にして正確無比、洞窟という狭く限られた空間であるにも関わらず、ものの数秒で黒の瘴気のみを寸分たがわず焼き払う。
フェニックスフォームは『名無しのフレイム』のフォームチェンジの中で最も速く、最も精密な動きができ、最も範囲殲滅能力に優れている。
凄まじい熱量を操っているにも関わらず、アリエルやルーファスにはもちろん、由奈の身体にも一切炎は触れていない。
その事に邪神の力に憑りつかれた由奈は少し困惑するような様子を浮かべながら、それでも瘴気を生み出す事をやめない。
「かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!かえせ!」
『鳳凰飛天翼』
フレイムの背中の翼から舞い散った炎が由奈と石碑の周囲を取り囲み、瘴気を生まれるすぐ傍から焼き払う。
赤と黒がせめぎ合う光景。それを結界の中で息を呑みながら見守っていたルーファスが由奈の姿に変化を見つける。
「ユナの瘴気が消えていく・・・髪の毛が白くなっていく・・・黒目が薄くなっている・・・」
「なべりうす・・・どこ・・・みえない・・・こえを・・・きかせて・・・どこ~~・・・どこ~~~・・・」
今まで瘴気のせいで淀んだ黒が支配していた髪の毛と瞳の色素が剥がれ落ち、その容貌は老婆の様にしわくちゃになっていた。
ナベリウスを探してすすり泣く由奈にルーファスが声の限り叫ぶ。
「ユナ~~~!!僕はここだ!!待ってて!!今助けるからッ!!」
「なべりうす・・・おねがい・・・あなたのてで・・・おわ・・ら・・せ・・・て。」
由奈の言葉は『勇者ナベリウスの物語_終わりの章』の『少女』の最後の言葉。その言葉と同時にルーファスは『勇者ナベリウス』へと姿を変貌させる。
そして由奈は終わりの言葉を紡ぐ。
「ねぇ、なべりうす、さいごにおねがいがあるの。」
「・・・」
「わたしのほんとうのなまえをよんで。さいしょにあなたにじこしょうかいしたなまえを。」
「・・・嫌だァァァッ!!!一緒に生きよう!ユナァァァアアアアアアアアア!!!!!」
勇者ナベリウスはその手に持つ銛を放り投げ、老人ルーファスへと戻り、由奈を力の限り抱きしめた。
この瞬間、現実が『物語』を追い抜いた。
由奈の右手から石板が転がり落ち、その瞳に生気が戻り、暖かな涙が溢れる。
少女を『物語』から解き放つべくヒーローは動き出す。
アリエルは由奈が落とした石板を拾い上げ、叫ぶ。
「ナナシ君!!お願い!!」
【超変身フレイムアバター】
アリエルが石板を投げると同時にフレイムもその姿を変貌させる。
炎の翼は無くなり、耳と肘と踵の装飾も通常のサイズへと戻り、代わりにフレイムの周囲の景色が歪む。
今のフレイムは炎の化身。その身に数千万度の炎を内包し、全てを焼き尽くす灼熱の業火となる。
その熱量はやがて右手に集約される。そして、
『超必殺フレイムナックル』
超高温の拳が由奈の石板と終わりの章の石碑を纏めて粉砕する。
負の力に汚染され黒く染まった邪神の一部はキラキラと火の粉となって舞い散り洞窟内を明るく照らす。
それはまるで数百年の時を経て再会した男女の老人を祝福するかのようだった。
無事、魔女の石碑を破壊し、『物語』を乗り越えたヒーロー達。
次回からは『魔女の石碑』を破壊したその後の話をお送りします。
まずは『名前ある者の神』にスポットを当てる予定です。




