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01-05_ヒーローと少女の事情

今回は『結界の聖女』についての説明回です。

01-05_ヒーローと少女の事情


「・・・でも、お話の前に食事にしようか。今はちょうどお昼時だし。」


「・・・・そうだな。よければ奢ろうか?」


先程『結界の聖女』について話すと宣言した矢先にいきなり話の腰を折るアリエル。

だがこれには深い理由があるのだ。

そう、話そうとした途端アリエルの腹の虫が盛大に鳴ったのである。

これを聞き、赤面するアリエルを見てしまっては、流石のナナシでも止めようとは思わない。

幸いお金もあるし、ここは腹の虫を撃滅する為の弾薬として使用することを提案。

アリエルはそれに黙って頷く。


アリエルの案内の元、やってきたのはザ・庶民派、味はそこそこ、量が大事を地で行く少し寂れた感じの店である。


「いらっしゃ~い、あ!アリエルちゃん久しぶり。」


「こんにちは、トニーさん。今日は客として来たよ。」


「そうかい、給料日前なのに珍しいね。いつものパンの耳定食じゃなくていいのか。」


「そうだよ~。なんせ今日はパトロンがいるからね。」


「パトロンってそっちの黒髪の男の事かい?アリエルちゃんも隅に置けないね~。」


「そんなんじゃないですよ。トニーさん、紹介するね。

こちらナナシ君、あたしの命の恩人。」


「どうも・・・よろしくお願いします。」


アリエルの紹介にナナシは頭を下げて挨拶をする。

こういう時に自分の名を名乗れないのは不便だ。しかも紹介の仕方が大袈裟だ。

それに対してトニーは慣れた雰囲気でナナシに語りかける。


「おう、よろしくな。俺はトニー、この店の店長だ・・・と言っても俺一人だがな。

命の恩人ってのは気にするな。アリエルちゃんにとってはご飯を奢ってくれる人間はみんな命の恩人なんだ。」


「ちょっと!トニーさん!余計な事言わないでよ。

あたし、そんなに奢ってもらってないからね。」


「具体的には?」


「・・・トニーさんに給料日前に月2、3回。それと同僚に時々・・・月1、2回。」


「・・・・十分多い。」


「ははっ、まあその辺にしてやれ。何にする?できるだけ高いもの頼んでくれ。

見ての通り誰かさんのせいで儲けがイマイチなんでな。」


ジト目でアリエルを問い詰めるナナシに対して、トニーが朗らかに笑いながら注文を促す。

ナナシはトニーからメニューを受け取るが、当然読めないのでアリエルにすぐ渡す。

その動きの速さにアリエルは苦笑しながら、メニューを受け取る。


「ねぇ、何頼んでもいいんだよね。あたしはジャンボハンバーグ定食にするけどナナシ君はどんな料理が食べたい?

好きなものとか苦手なものはある?」


「そうだな、好き嫌いは特にないが出来れば植物性タンパク質が取れるものがいいな。

無理なら動物性タンパク質でも構わない。」


「え?植物性?動物性?タンパク質?」


「おい、あんちゃん。定食屋に来て成分名で注文する人間初めて見たぞ。」


「トニーさん、どういう事?」


「あぁ、アリエルちゃんには何言っているのか分からないよな。

平たく言えば、このあんちゃんは結構頭はいいけどアホだって事。」


「つまり・・・どういう事?」


ナナシの頓珍漢な返しにアリエルは困惑し、トニーは呆れる。

アリエルが理由を聞けばトニーがよく分からない返しをするものだからますます困惑する。

それに対してナナシが噛み砕いて説明する。

この会話でナナシはこの世界の教育水準が地球に比べてかなり低いことが判った。


「そうだな。こういう所では無粋な聞き方だったかもしれないな。

アリエル君、食事は栄養を取る為というのは知ってるね。

今、自分が話したのは栄養の種類の事なんだ。

タンパク質というのは筋肉を作る元となるもので、動物性と植物性というのは文字通りの意味だ。

肉が動物性で大豆が植物性タンパク質の代表かな。」


「へぇ~、ナナシ君って意外と博識なんだね。

なるほど、だから頭がいいのにアホ呼ばわりされたんだ。」


「そういうこった。世間知らずの学士さんか何かなのかね~。

服もいい物着ているみたいだし。

じゃあ、料理は俺が適当に見繕ってやるよ。」


「はい、お願いします。」


注文を取ったトニーがその場を離れたのを確認したアリエルが話を切り出す。


「じゃあ、お料理が来る前に説明しちゃおうかな。『結界の聖女』について。」


「ああ、よろしく頼む。」


ナナシも居住まいを正して、アリエルの話に耳を傾ける。


「えっとね。この国の北の方にはシルド砦っていう古い遺跡があるんだけどそこには結界が張られているの。

この国ではそれをシルドの『大結界』って呼んでて、それで昔からいる悪いものを封印しているんだけど、『大結界』を維持する為には適性のある魔力を持った女性が毎日魔力を供給しないといけないんだ。

そしてその魔力を持った者の事を『結界の聖女』って呼ぶんだよ。」


「そして君がその『結界の聖女』だと。」


「そうなの、どうやらあたしには適正があったみたいで、それが判った時から騎士団に配属されて、今回そのお役目が回ってきたっていうわけ。」


「なるほどな。所で『人柱』っという単語に聞き覚えはあるか?」


ナナシがこの単語を発した時、アリエルの顔は一瞬だが確実に動揺していた。

普通の人間ならまず見逃す様な僅かな表情の変化だが、ヒーローの洞察力からは逃れられなかった。

アリエルはすぐに笑顔に戻り説明を続ける。


「あぁ、それはきっと『結界の聖女』になるとシルド砦から離れられなくなるからだよ。

『大結界』に魔力を供給する必要がある以上、遠くにはいけないでしょう。

だからこのお役目って『人柱』とか『人生の墓場』とか言われてるんだ。

ただお給金は高いし、魔力供給以外は食っちゃ寝の生活ができるからあたしみたいな貧乏人にはありがたいんだけどね。」


「・・・・そうか。」


アリエルは一見明るく振舞っているが、ナナシからすれば無理をしているのがバレバレである。

何か隠し事をしているのは火を見るより明らかだ。

だがその原因を知るにはナナシには情報が少なすぎる。なんとかその情報を引き出せないか考えている所に注文していた料理が届いた。


「おまたせ!まずはアリエルちゃんにジャンボハンバーグ定食っと!」


「わぁ、流石ジャンボハンバーグ!この重量感!うっとりする!」


「アリエルちゃん、満足してくれたようで何よりだ。あんちゃんのはこっちだ。」


アリエルは目の前に鎮座するアリエルの顔程の大きさの巨大な肉の塊に完全に釘付けである。

先程の無理した様子は全くなく、心は完全に肉一食である。

そんなアリエルの様子を確認したトニーが次はナナシの料理を差し出す。


「ありがとう、大豆のスープにトルティーヤと付け合せに肉と野菜ですか。

要望通りですね。それじゃこれをあと50人前お願いします。」


「はぁ!50人前だと!そんなに誰が食うんだ?」


「当然自分です。戦士は食べられるときに食べて置かないと。」


「待て!仮に食えるとしてもだ、そんなに出したら材料切れで営業できなくなる。」


「え~、別に良くない?だっていつも閑古鳥が鳴いてるじゃない。」


「アリエルちゃん、ひどくない!そんな事言ってると今後パンの耳定食は出さないよ。」


「すみませんでした~~!ナナシ君!!無理言っちゃダメじゃない!」


「・・・そうか、じゃあ迷惑にならない範囲でお願いします。」


アリエルの華麗な手のひらクル~に若干呆れながら注文の内容を変更するナナシ。

この楽しげな空気をぶち壊すのは流石のナナシにも憚られた為、取り敢えず『結界の聖女』の話はここまでとした。

なお、この後ナナシは持って来られた食事20人前をペロリと平らげ、更に追加注文をした事に2人は唖然とした。

この後結局、売上への誘惑に負けたトニーが追加の料理を出し、完食された事でこの日は店じまいとなった。

補足

この異世界の文明レベルは中世です。

故に教育もそんなに進んでおらず、アリエルは食べ物の成分の話をされた時にキョトンとなったわけです。

それでもアリエルは騎士学校に行っている分まだマシな部類です。

おそらくトニーさんはこの世界では知識人なのでしょう。

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