03-21_『勇者ナベリウス』の回想(後編)
今回はルーファスの回想の後半です。
03-21_『勇者ナベリウス』の回想(後編)
「なるほど。あの『孤島の石碑』は『石碑の魔女』カトリーナが力を行使した時に残されたものなのですね。」
「その通り。彼女はあれをチートアイテムって呼んでたね。本体は手に持っている石板の方だったみたいだけどね。」
「もしかしてですが、ルーファスさんはあの孤島の地下空間にその石板があるとお考えですか?」
「彼女が隠すとしたらそこしかないと思ってるよ。おっと、話が途中だったね。それでは続きを話そう。
『ナベリウス』がモンスターを倒して、その力で人助けをする事を決めた後からだったね。」
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僕と彼女はハンター登録をした。
僕は銛で戦う前衛を務め、彼女は魔法で戦う後衛を務めた。
彼女は魔力を筆に込め、紙に文字を記す事で発動する特殊な魔法を使っていた。
そのせいで出費も馬鹿にならないし、手元には使い終わった大量の黒い本が残るから嫌だとよく愚痴っていた。
僕と彼女は人助けになりそうな事なら何でもやった。モンスター退治でも、薬草採取でも、お使いでも。
どうやら彼女の基準は報酬ではなく、その仕事がやる必要があるかどうかだったらしい。
だから本当に困っている人しか助けないし、多額の報酬をちらつかせる貴族連中の依頼を袖にする事などしょっちゅうだった。
僕と彼女はそんな感じで困っている人達を助けながらのハンター活動をすること数年、ある程度名前が知られるようになったある日の事だ。
僕が『海竜殺しのナベリウス』になる事件が起きた。そう、海竜の出現だ。
アクルスの沿岸に海竜が居付いてしまい、漁師達は漁が出来なくなり、航路に入った船は無差別に襲われるようになった。
お陰で交易も観光も漁業もストップ。アクルスは人的、経済的に多大なダメージを受けた。
そこで当然僕達にも海竜討伐の話が回って来た。彼女はこの依頼を受ける事に対して慎重だったが、事態が大きくなった結果渋々了承した。
この戦いについては本にもなっているけど実際はこうだ。
僕は彼女が用意してくれた絶対に沈まない小舟に乗り、絶対に破られない結界に守られながら海竜に近づき、全てを貫く巨大な銛で海竜を貫いた。
本では激戦みたいに書いていたけど、実際は結構あっさりカタがついたんだ。
それからはもうてんやわんやの大騒ぎだったよ。街では海竜を倒したお祝いの祭りが開かれ、人々は歌い、踊り、食べて呑み、大いに喜んだ。
僕らも街の英雄として呼ばれたけど、彼女は断固として応じなかった。
僕は彼女に理由を聞くと、「あいつらは別に私達に感謝しているわけじゃないのよ。利用できるかを知りたいだけ。だから応じるだけ損よ。」と素っ気なく答えた。
そして彼女は、「海竜を倒した報奨金でどっか遠くに行って静かに暮らそうか?」と僕に問いかけてきた。
僕は間髪入れずに頷いた。街の人と過ごす時間もそれはそれで楽しかったが、その分彼女との時間が少なくなるのが嫌だった。
これからはそういう事を気にする必要が無くなる。ずっと一緒にいられる。そう思うと嬉しくて仕方なかった。
でもその次の日・・・彼女は姿を消した。
代わりに見た事のない男がやって来てこう言った。
「カトリーナから伝言だ。
『海竜の報奨金の手続きをしていて暫く戻れなくなった。だから私が戻るまで街の人の為に働きながら待っていて欲しい。』との事だ。」
僕は男の話を信じた。何故なら彼女は昨日、海竜の報奨金で旅に出る話をしてくれていたからだ。
旅の準備の為に少し忙しくなって自分と別行動をとっているのだろうと納得出来たからだ。
でもこの時、僕は疑うべきだった。カトリーナが僕に何も言わずにいなくなるなんて事はあり得ないのだから。
その日から僕はその男が持ってきた仕事をこなすようになった。
最初は薬草の採取や動物探し、モンスターの討伐と今までやって来た仕事と同じようなものだった。
だがその後、仕事の内容が少しずつ変わって来た。まずは護衛任務が増えた。そしてその手の任務の時は決まって騎士風の男達に襲われる様になった。
次に配達の任務が増えた。大きな箱で運んでいると金属がガチャガチャと鳴る音がした。そしてこの任務の時も騎士風の男達に襲われる事が多かった。
そして極めつけは重税を敷く悪徳領主を追い出してほしいと言う依頼だ。
ここまでくればもう分かると思う。この男こそが領主にクーデターを起こそうとしている悪党だったんだ。
依頼で採取した薬草は実は違法薬物の材料で、動物探しは希少動物の密売、モンスター討伐は武器素材を集める為。
護衛任務はクーデターの要人の護衛で大きな箱の配達はクーデターの武器を運んでいたんだ。
そして悪徳領主と称されたのは、民を思いやり悪を憎む善良な領主。つまり僕は何も知らずに悪の片棒を担がされていたわけだ。
幸いな事にクーデターは失敗に終わった。僕はカトリーナから人殺しを固く禁止されていたからね。
善良な兵士や領主を殺そうとした悪党どもの邪魔をして、その結果、悪党ごと自分も捕まってしまった。
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「どうだい?これが『勇者ナベリウス』の実態だよ。何も知らないせいで騙されて、悪党に利用されて牢屋送り。例え原本があったとしても3部は絶対に出版されないと思うよ。」
「・・・」×3
自分の過去を自嘲しながら話すルーファスの顔が今にも泣きだしそうな笑顔で、それを見ていたヒーローズジャーニーの3人は胸が締め付けられそうになる。
そんな重い沈黙の中、ルーファスは昔話を続ける。
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僕が牢屋に捕まって数日、城の兵士に真実を聞かされて落ち込んでいた時の事だ。
遠くの方から激しい破壊音が轟いた。牢屋の明かり取りの窓から外を覗くとそこには僕らが倒した海竜より遥かに大きな飛竜がいた。
飛竜は僕の方へと凄まじい勢いで向かってきていた。その進路を阻もうとする兵士達は飛竜のブレスで容赦なく焼き払われていた。
僕はその姿を見た時目を疑った。なぜならその飛竜の背には【ボロボロになって黒い瘴気に身を包んだカトリーナ】が乗っていたからだ。
彼女は今までに感じたことがないような禍々しい気配を放ちながら、善人も悪人も関係なく行く手を遮るものを蹂躙した。
そして飛竜を確認してから間もなく、飛竜の突撃により一瞬で領主の城は瓦礫の山へと姿を変えた。
僕が慌てて瓦礫の中から這い出ると目の前にカトリーナがいた。
その綺麗に輝いていた漆黒の瞳は暗く濁り、カラスの濡れ羽色だった美しい髪はくすんでボサボサ、体には無数の傷と痣、そして少ししか経っていないのに酷くやつれていた。
僕はこの時、一生で一番後悔していたと思う。なんであんな得体のしれない男の言う事を信じたのか。あの時あの男を締め上げて彼女の居場所を吐かせていればこんな事にはならなかったのに。
自分への怒り、憤り、憎しみ、そして何より目の前のカトリーナの散々たる姿に対する悲しみと懺悔、ありとあらゆる感情が綯い交ぜになって、気付けば僕は彼女を泣きながら抱きしめていた。
すると不思議な事に今まで彼女を覆っていた黒い瘴気が消え、目に光が戻り、いつもの優しい笑顔へと戻っていた。
そして彼女は囁いた。
「ナベリウス。これから私の言う事をよく聞いて。
私はもう助からない。でもあなただけは絶対に助けてみせる。
だからこれから私の言う事に従って。」
僕は当然拒否した。
「嫌だ・・そんな事言わないで・・・一緒に遠くに行って静かに暮らそうって約束したよね・・・」
彼女は首を横に振った。
「私は邪神と契約したの。私自身と引き換えにあなたを助ける力を手に入れるって。
私はこれからあなたが幸せになる『物語』を書くから。
お願いだから私の言う事を聞いて。」
「いやだいやだいやだ・・・いやだ・・・」
「ねぇ、聞いて。私は色々と失敗しちゃったみたいなの。あなたには楽しい事ばかりじゃなくて悪い事や疑う事も教えるべきだった。
いい、ナベリウス。
あなたはこれからたくさんの事を学びなさい。そうしないと今回みたいに悪い人に騙されちゃうから。
たくさんの物を見なさい。その中にはきっとあなたが楽しいと思えるような素敵なものがあるから。
たくさんの人と出会いなさい。その中にはきっとあなたを幸せにしてくれる人がいるから。
そして絶対に幸せになりなさい。あなたの幸せが私の幸せなんだから。」
「いやだ・・・一緒に来てくれなきゃ・・・いやだ・・」
泣きじゃくる僕の背を軽く叩きながら彼女は優しく微笑みかける。
「ごめんなさい・・・それはもう出来ないの。だからせめてあなたの幸せを祈らせて。
これからあなたは私の事を忘れる。このアクルスであった事を全て忘れる。
それから飛竜の背中に乗って遠くの空へと旅立つ。
そこでたくさんの物に出会い、たくさん学び、たくさんの幸せをその手に掴んでね。
そして本当の幸せを見つけた時、全てを思い出して私達の出会ったあの場所まで来て。
その時に私が書き上げた最後のお話『勇者ナベリウスの物語』3部作を読んで欲しいの。
私の願いがあなたをどれだけ幸せに出来たか答え合わせをしましょう。」
「いや・・・だ・・・」
そこで僕の意識は途切れた。
そして気づいた時にはアクルスから遥か遠くの空を飛竜の背に乗って飛んでいた。
その後、僕は全てを忘れて数百年間、世界中を旅した。彼女が残した宿題、自分の幸せを探すために。
『石碑の魔女』カトリーナと悲しい別れを遂げたルーファス。
彼らは無事、幸せな再会が出来るのか。ちなみに筆者はバッドエンドは嫌いです。
次回からは『石碑の魔女』を救うためにヒーロー達が動き出します。




