03-20_『勇者ナベリウス』の回想(前編)
今回はルーファスことナベリウスの過去について触れてまいります。
03-20_『勇者ナベリウス』の回想(前編)
「事情は分かりました。ところであなたの事はルーファスとナベリウス、どちらで呼べばいいでしょうか?」
これはルーファスがかつて英雄『海竜殺しのナベリウス』であると告白した後にナナシが発した一言である。
それに対してルーファスは少し呆れながら応じる。
「・・・ルーファスでいいけど・・・あの話本気で信じたの?」
「はい。あなたの言葉に嘘はありませんでした。」
「・・・全く敵わないね。あんな与太話を信じるだなんて。」
「でも、本当なんでしょう。重ねて言いますがあなたから出た言葉は本物でした。」
無表情でルーファスの言葉を肯定するナナシに対して、ルーファスは柔らかな表情で語り始める。
「ありがとう。では、僕を信じてくれた君達を僕も信じる事にするよ。これから話すのは僕の昔話だ。」
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僕が最初に見たのは青い空と青い雲に白い砂浜。そして大きな石の塊とその横に佇む一人の少女だった。
彼女の名前はカトリーナ。将来『石碑の魔女』と呼ばれるようになる女性。
黒髪と黒目でこの辺では珍しい平たい顔、それでいてどこか神秘的な美しさを持った少女で手には筆と石板を持っていた。
少女は僕の顔を覗き込みながら何か呟いた。
「ほぅ、この石板に文字を書くと石碑の方に文字が写って、それが現実のものになる。
ちょっと調子に乗って日本昔話風に書いちゃったけどうまくいったみたいね。
転生したってだけでも驚きなのに、こんなチートアイテムが手に入るなんて幸先いいわねぇ。」
「・・・」
僕は彼女の言っている言葉の意味が分からなくて黙り込む。
いや、言葉自体は分かるのだが、その内容が自分に与えられた知識とあまりにもかけ離れていて理解できなかったのである。
そもそも僕自身が僕について何も知らなかったから無理もない話なんだけどね。
彼女は目を見開いて黙って様子を窺う僕に気づいたらしく声を掛けて来る。
「えっと初めまして。私の名前はか・り・な。あなたの名前は?」
「カトリーナ・・僕の名前・・・無い。」
「カトリーナって・・・まぁいいや。
そっか、『少女は少年に出会いました。』としか書かなかったもんな。人に会いたくてつい書いちゃったけどまさか人が生まれるとは・・・
今後はこの手の事を書くのは禁止だね。それはそうとこの子は私が生み出したって事になるんだよね。
じゃあこの子は責任をもって私がお世話しないとね。まずは名前・・・まぁ適当に『ナベリウス』にでもしておくか。
確かどこかの悪魔か神様の名前だったと思うけどなんかそれっぽくてかっこいいし。
じゃあ、あなたは今日から『ナベリウス』よ。」
「ナベリウス・・・名前・・・」
「そう、それがあなたの名前。」
どういう意図でその名前にしたのかは分からないが、その時僕はナベリウスになった。
それから僕とカトリーナの孤島での奇妙な共同生活が始まった。
彼女は僕に色々な事を教えてくれた。
その頃の僕は赤ん坊の様なもので、あれは何?これは何?となんでも知りたがったのを、彼女は面倒くさがらずむしろ楽しそうに教えてくれた。
彼女はとても話好きだった。
彼女は自分の事を作家だったといい、たくさんの物語を聞かせてくれた。
少年とロボットの話や明るい少女の話、それから手に汗握る冒険の話。彼女の話す物語はジャンルを選ばず、どれもとても楽しかった。
ただロボットの話をした時に僕が「ロボットって何?」と聞いた時は少し困った様子だったが。
彼女が石板に文字を書くことで『石碑』にそれが写し取られ、それは現実になった。
『少年と一緒に果物を食べた』と書けば、食べきれないほどのたくさんの果物が生った木々を発見し、『少年と一緒に魚をたくさん釣った』と書けば、入れ食い状態でたくさんの魚が釣れた。
その果物や魚を街に売りに行ってお金に代えてパンや服、身の回りの物を買った。
僕が一回、「石碑から直接欲しいものを出さないの?」と質問したら、「それは色々と自然の摂理に反するからしない。それにあなた以外は何かを生み出すべきではないと思うの。」と答えた。
その時、いつも笑顔の彼女の表情が少しだけ曇っていたのがとても印象的だった。
一緒に食べて、一緒にお話をして、一緒に寝る。単純でささやかだけどとても楽しい日々だった。
そんな僕と彼女の幸せな日常に事件が起きた。
彼女が船で出かけた帰りの事だ。彼女がモンスターに襲われた。
モンスターは鳥型で数も多い。今から彼女を助けに向かっても間に合わない。
そう思った僕は咄嗟に木と石で作った狩猟用の槍をモンスターに向けて投げた。
すると槍は魔力を帯びて凄まじい勢いでモンスターを貫いた。それも一匹じゃない、10匹以上いた鳥のモンスターを一度に全てだ。
彼女は少し驚いていたが、その後すぐに笑顔でお礼を言い、そして喜んでくれた。
「この力があればきっと人の為になる。そうすれば友達がたくさん出来て幸せになれるよ。」
そう笑顔で語る彼女を見れた事が一番嬉しかった。
この時僕は『英雄ナベリウス』への道を踏み出す事になった。
こうして生まれた英雄ナベリウスはどのような道を歩みルーファスとなるのか。
次回、ナベリウスの回想後半をお送りします。




