03-19_ヒーローと歴史学者の正体
今回はルーファスの正体について迫りたいと思います。
03-19_ヒーローと歴史学者の正体
「これからルーファスさんに会いに行こう。」
これはカトリー家に泊まった次の日の朝、ナナシが放った一言である。
前日の夜、カトリー夫妻はヒーローズジャーニーの事情と目的を聞いて、発掘調査の許可を領主に取り付けてくれる事を約束してくれた。
その際に説得の材料としてルーファスの研究資料 (でっち上げ)を見せて欲しいという事になり、冒頭の一言となったわけだが、
「朝一番だから、この間教えてもらった宿屋にいると思うけど、いきなり行っても大丈夫かな?」
「それに資料を作り始めたのは2日前だからまだできてないかも知れないよ。素直に連絡を待った方がいいんじゃないかな。」
アリエルと篝が無駄足になる可能性について口にするが、今回のナナシは引かなかった。
「資料の受け取りについては口実だ。今までの話から一度ルーファスさんに探りを入れた方がいいと判断した。」
「ん?探り?」
「あぁ、実は昨日一日屋敷の中を調べてみたのだが、『石碑の魔女』に関する物は何も見つからなかったんだ。」
「ちょっと!いつそんな事したのよ!一歩間違えれば犯罪だよ!」
「大丈夫、痕跡は残していない。篝さんがよく言っているがバレなければ犯罪じゃない。」
「なんかお姉ちゃんに対して、熱い風評被害が巻き起こってるんだけど。」
「そこは事実だから仕方ないとして、本当にそういう事は自重してよね。いつか本当にしょっ引かれちゃうよ。」
またしても話が横道に反れかけた所でナナシは軌道修正すべく一度咳払いをし話を仕切りなおす。
「コホン、そこで『石碑の魔女』と何かしらの関係がありそうなルーファスさんに事情を聞いてみようと思うんだ。」
「そう言う事なら反対する理由もないし、お姉ちゃんはそれでいいと思うよ。」
「それじゃ、行くのはいいとして、カトラ君とリルちゃんは呼ぶ?」
「いや、今回はいいだろう。せっかく仲直りしたのだから親子水入らずの時間も必要だろう。」
こうしてヒーローズジャーニーはカトリー夫妻に挨拶を済ませた後に屋敷を後にする。
そして(アリエルの訓練も兼ねて)走る事少し、ルーファスが泊まっている宿にたどり着いた。
宿はどこにでもある3階建ての木造建築だった。内装も可もなく不可もなく、素泊まり100~200シータのまさに大衆宿である。
ナナシ達は受付でルーファスを呼んでもらえるように頼み、食堂で待つこと暫し、起こされたばかりらしく少し寝不足気味なルーファスがやって来た。
「やぁ、こんな朝早くにどうしたんだい?もしかして領主のアポが取れたのかな?」
「はい、まだ取れてはいませんが伝手を見つけました。おそらく2、3日中には探索の許可を取れるでしょう。」
「ほぅ、領主のアポではなく、探索の許可の方か。という事はこの街の有力者にでも会って許可を申請して貰ったのかな?」
「・・・やはりそういう狙いだったんですね。」
どうやらルーファスは親子喧嘩の仲裁にナナシ達を利用したようだ。
領主にアポを取ろうと思えば、役所に行くのが通常の手順だがそれでは時間がかかり過ぎる。
そこで次に取る手段としては直談判もしくは伝手を頼る事だ。この場合直談判は全く信用がない状態からやらなくてはいけない為、成功率は限りなく0に近い。
したがって伝手を頼る事になるのだが、外国から来たナナシ達の伝手と言えばカトラとリルもっと言えばその両親しかいない。
となれば当然親子を仲直りする為、動かざるを得なくなる。まぁそういう損得勘定無しで今回は仲直りをさせたのだが結果としては同じである。
今まで見せていた人の良さそうな顔から一転、食えない笑みを浮かべるルーファスに対して、ナナシが無表情で話を切り込む。
するとルーファスも飄々とした様子で切り返す。
「そりゃそうだよ。親子喧嘩なんて見ていて気持ちが良いものじゃないだろう。」
「ましてや『石碑の魔女』の関係者なら尚更の事、ですよね。」
ナナシのこの言葉にルーファスはため息をつきながら答える。
「やはり君達は『彼女』の書いた文字が読めたか。これも『物語』の思し召しだろうか。」
「・・・あなたは一体何者ですか?」
ルーファスの口から出た『物語』の一言にナナシが息を呑みながら質問を重ねる。
それとは対称的にルーファスは柔らかい笑みを浮かべながらその問いに応える。
「君達になら話してもいいかも知れないね。
僕が何者か?という問いの答えだけど、実は僕もそれを探している所なんだよ。僕はずっと何かを探しながら世界を旅し続けてきた。
火が噴きあがる山も、砂が海の様に広がる砂漠も、凍った湖や氷の山も、大森林の中の遺跡も、ありとあらゆる場所を僕は旅し続けた。
もうどれくらい旅をしているかなんて憶えていない。でも旅を続けて色んな事を知らなくてはいけない。それだけが僕の存在理由なんだよ。」
「・・・」
「『彼女』は僕にたくさんの事を学べと言った。そうしないと悪い人に騙されるからと。
『彼女』は僕にたくさんのものを見ろと言った。その中にあなたを楽しくしてくれるものがあるからと。
『彼女』は僕にたくさんの人に出会えと言った。その中にあなたを幸せにしてくれる人がいるからと。
『彼女』は僕に幸せになれと言った。それが『彼女』の幸せなんだって笑いながら僕にささやいてくれた。」
「・・・」
声を重ねる度にルーファスの言葉はその重さをどんどん増していくようでヒーローズジャーニーの3人はただ黙って聞く事しか出来なかった。
決して大きくなく、ただただ穏やかな声のはずなのに、そこにはただただ『彼女』への想いだけが重く積み重なっていた。
「僕はね、ずっと『彼女』を『石碑の魔女』カトリーナを探しているんだ。」
「・・・それが『勇者ナベリウスの物語』の3部を探している理由ですか。」
「そうだよ。僕のかつての名前は『ナベリウス』。
今はルーファスと名乗っているが本当は自分が何者なのか分からない。
『石碑の魔女』カトリーナによって生み出された英雄の残滓だよ。」
ルーファスが語る言葉は余りにも現実離れしていて、100人が聞けば100人が老人の妄言だと黙殺しただろう。
だがヒーローズジャーニーはそれを否定できない程度には超常に慣れ過ぎていた。
そしてこの老人の言葉を嘘だと断じるには『彼女』への想いがあまりにも純粋過ぎた。
ルーファスから語られるその正体はかつてこの国で海竜と戦った英雄『ナベリウス』。
果たして彼が語った言葉は真実なのか。
次回、ルーファスが語る『ナベリウスの物語』の真実をお送りして参ります。




