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03-13_ヒーローと強制送還

今回は家出兄妹の自宅に突撃します。

03-13_ヒーローと強制送還


「さぁ、年貢の納め時よ。今日はあなた達を親御さんの元に届けるからね。」


「・・・」×2


家出兄妹の事情が判明した次の日の朝。

アリエルから言い渡される非情な一言にカトラとリルは意気消沈した様子で無言で項垂れる。


「もういい加減諦めて朝ごはん食べようよ。ご飯食べないとご両親の説得だって出来ないよ。」


「君達は跡継ぎ修行が嫌で家出したのだろう。だったらその理由をしっかり伝えて相手を納得させないと何も解決しないぞ。」


「・・・・もぐもぐ。」×2


そこに篝とナナシが更に説得をすると2人は諦めた様に食事を口へと運ぶ。

ちなみに朝ごはんはトーストとジャムとハムエッグとサラダとポタージュスープと言うザ・洋風スタイルである。

流石に高級ホテルの朝食だけあって味は非常によく、2人は一口目をきっかけに勢いよく食事にがっつく。

それを見たヒーローズジャーニーの3人も食事を始める。この時篝が野菜を残そうとして、ナナシとアリエルに刺すような視線で睨まれ、半泣きになりながら食べていたのはご愛敬である。

こうして食事を終えた5人だが出発する前に事情だけは確認しておこうと言う事になった。


「ところで、2人はなんで跡継ぎ修行が嫌なの?」


「だって、修行って朝から晩まであって全然遊べないんだもん!」


「その上、わけの分からないお勉強とか写本とか瞑想とか退屈な事ばっかり、正直やってられないよ!」


如何にも子供らしい意見である。おそらく教育熱心な親御さんなのだろう。

しかし話を聞く限りでは息抜きなどが行われておらず、子供には苦痛である事は簡単に想像できる。

これには3人も同情し、説得に協力する事にした。


「うん、事情は分かったよ。流石に息抜きなしで修行ばっかりじゃ辛いよね。」


「そうだね。お勉強も大切だけど、それと同じくらい遊ぶのも大事だからね。」


「確かに写本や瞑想だけでは体が鈍ってしまう。有酸素運動と無酸素運動もバランス良く取り入れなくては立派な戦士にはなれない。」


ただしナナシは同情の方向が違うみたいだ。この瞬間、4人はナナシに説得させる事の危険さをいち早く察知し、親御さんと話す時は黙らせる事を心に誓った。

何はともあれヒーローズジャーニーの3人が協力してくれる事が分かった家出兄妹は自分達の家に彼らを案内する事にした。


歩く事暫し、彼らがやって来たのは街の中でも一等地にある大きなお屋敷、今のカトラとリルの服装からは想像できないまさに上流階級の住む豪邸であった。

カトラとリルが先頭に立ち門番に話掛けると、門番は恭しく彼らに対応する。


「門番さん、お勤めご苦労さん。悪いけど父上と母上にカトラスとリリウムが戻ったって報告してくれるかな。」


「はっ、よくぞお戻りになりました。使用人一同心配しておりました。」


「うん、ありがとう。それからこちらの方々は私達が家を出ている時にお世話になった方です。丁重におもてなしをお願いします。」


「はぅ!カトラス様、リリウム様。心得ております。」


カトラスことカトラとリリウムことリルは、今までの下町の子供風の雰囲気から一転、いいとこのお坊っちゃま、お嬢様然とした態度で門番に指示を出す。

その光景にアリエルと篝は呆然とし、ナナシは黙ってそれを観察する。


「・・・2人共、いいとこの子だったんだね。お姉ちゃんびっくりだよ。」


「なるほど・・・だから食べ放題の時にあまりがっつかなかったんだね。」


「アリエル姉ちゃん・・・それは関係ないよ。」


「それより執事さんが来たからみんなの案内をお願いするね。」


リルの言葉のすぐ後に執事がやって来て彼らを応接間へと通す。

家の様子は落ち着いた中に高級感溢れる、一見するとセレブリティな雰囲気だが、所々に魔方陣や魔道具がある所からやはり魔法使いの家だと思える内装だった。

これを見た時、アリエルは調度品の値段がちょっと洒落にならなそうな事に驚くと同時に、魔方陣に防犯の物が多数含まれている事に思い至る。

最近勉強している『ウォルト魔術全集』に書かれているちょっとヤバい魔方陣に比べればまだまだマシだが、それでも十二分に殺傷能力があるものが散見される。

そんな魔法使いから見ると物々しい屋敷にアリエルが若干ビクつくのに対して、ナナシと篝は全く気にしていない。

この2人に効くような大量破壊兵器級の罠なんて普通の人間が持っているわけがないし、この2人は地球では超が付くほどのお金持ちだから、全くビビる要素が存在しない。

そんな3人 (というかアリエル)の様子に気づいていないカトラとリルは緊張しながら両親の登場を椅子に座って待つ。

それから暫くの時間が経ち、静まり返った室内にノックの音が響き渡る。


「カトラス様、リリウム様、旦那様がいらっしゃいました。」


「うん、通してくれ。」


そこに現れてのは、装飾が施された立派なローブを見事に着こなした、貴族の魔術師と言った風の30手前くらいの背が高く、スッキリとした体形の男である。

彼はカトラとリルを一瞥した後、感情の見えない声で淡々と話を始める。


「まずはカトラスとリリウム。無事に戻って来て何よりだ。

事情については後程聞くとして、今は疲れているだろうからゆっくり休むといい。

それからそちらの方々だが、カトラスとリリウムが世話になったとの事で感謝の言葉もない。

大したもてなしはできないがゆっくりしていかれよ。

それから何かお礼をしたい。何かご希望があればお聞かせいただけるかな。」


それはカトラとリルを心配し、子供達が世話になった人物に対してお礼がしたいと言う内容だったが、彼が言うと無機質に聞こえてしまう。

そしてなにより、


「お心遣いありがとうございます。私はハンターチーム、ヒーローズジャーニーのリーダーアリエルです。

こちらはナナシとカガリ。もし宜しければお名前を伺っても宜しいでしょうか?」


そう、彼は自己紹介をしていない。それが子供を心配して忘れていたのか、それとも必要以上に3人に関わらない為なのかは判断に難しい所である。

アリエルの言葉に男は表情を動かさないまま、その問いに答える。


「これは失礼をした。私はこの家の当主でランス=カトリーだ。

私は何かと忙しい身で色々と礼儀を省いてしまう癖があって、それをよく妻に窘められる。

どうかご不快に思われたのなら許されよ。」


「いえ、お忙しい中、お時間を頂いて恐縮です。

ですが、先ほどお礼をと仰っていただきましたので一つお願いがございます。」


ここでアリエルはガードナーの騎士学校で習った礼儀作法をフル活動して必死に話を繋ぐ。

ランスはアリエルの言葉に耳を傾けながら無言で先を促す。


「ご当主様はお子様と話をする時間をもっと持つべきだと愚考いたします。

ご当主様がお子様の事を想い、教育に熱心になるのは分かりますが、その想いが一方通行になっている様に思えます。

お互いに思った事を話し合う事でより良い関係が築けるのではないかと考える次第です。

つきましては私どもにその立ち合いをさせていただければと希望いたします。」


今アリエルが言った事を翻訳すると、『ちょっとお宅の教育キツくね。だから子供が家出すんだよ。お宅らだけで話してもきっと解決しないから俺らも立ち会わせてくんねぇ。』となる。

この意図は勿論ランスに伝わっており、少し考える素振りをして口を開く。


「お心遣い感謝する。子供達から色々お聞きになって心配して頂いているのだろう。

ただ、こういう話は妻も交えて家族全員でしたい。

妻は昼過ぎに戻ってくる予定なので、その時にご同席頂ければありがたい。

それまでは当家でくつろいでいかれよ。」


今のランスの言葉を翻訳すると。『子供達に何を聞かされたか知らないが家族の話に首を突っ込むなんて暇なのだな。まぁ、また家出を繰り返されても敵わんし、同席するのは構わんよ。』となる。

どうやら、ランスは子供の行動自体にはあまり興味を持っていないようだ。

ランスの先ほどの言葉を合図に彼らの短い会談は終わり、ランスはその場を後にする。

応接間に残された5人はそのまま作戦会議を始める。


「ねぇ、2人のお父さんっていっつもあんな感じなの?」


「そうだよ。大体あんな感じ。全く俺達の事に興味があるのかないのか。」


「確かにちょっと感情が見えないと言うか、良く分からなかったね。」


「まぁ、子供である私達が分からないんだから、今日会ったばかりのお姉ちゃん達には分からないよね。」


アリエル、カトラ、篝、リルがランスの印象について話している中、ナナシだけは別の事を考えていた。

それが気になったアリエルがナナシに声を掛ける。


「ねぇ、ナナシ君。さっきから黙っているけど、なんか気になる事でもあるの?」


「あぁ、まずランスさんについてはそれほど心配する必要はないぞ。少なくとも君達2人の事は心配していたようだ。」


「へっ?なんでそんな事、兄ちゃんが分かるんだよ。」


「君達の顔を見た時、心拍数と呼吸の速さが僅かに上がっていた。それから君達の様子を確認してからその心拍数が徐々に落ち着きを取り戻した。

この反応は君達を心配して上がっていた心拍と呼吸が無事を確認して落ち着いた動きだろう。

君達は君達が思っているよりは父親に心配されていたようだ。」


「へぇ~・・・そうなんだ。」


行動自体には興味をもっていないが親として無事かどうかは心配、と言った所だろうか。

ナナシの解説を聞いて少し呆けた表情を浮かべるカトラとリル。

そんな2人を置いておいてナナシは先ほどのアリエルの質問に応じる。


「アリエル、先ほどの質問だが、確かに少し気になる事はある。

だが現時点ではまだ確証を得ていないから、返答は少し待って欲しい。」


「・・・うん、分かった。」


ナナシの返事に不承不承ながらも納得するアリエル。

そんな彼女の様子を察してか、ナナシはこの話を切り上げ別の話題を切り出す。


「それとカトラとリルの教育環境が気になる。

両親と話すにしてもまずそれを知らなくては話にならない。」


「それは、確かにそうだね。カトラ君、リルちゃん。良かったら勉強内容を教えてくれる?」


そう言ってアリエルがカトラとリルに話を振った途端、ゴン!ゴン!とドアからこの屋敷には似つかわしくない大きなノックの音が響き渡る。

それに対してカトラとリルが頭を抱えながら応じる。


「どうぞ。お入りください。マクガバン先生。」


どうやら2人にはノックの主が分かっているようだ。

カトラの了承を得たノックの人物、マクガバンが部屋へと入ってくる。


「カトラ坊ちゃま、リルお嬢様。お疲れの所恐縮ですが、5日間さぼった分の授業を始めたいと思います。

早速ご足労願えないでしょうか?」


マクガバンは大柄で態度は横柄。言葉こそ丁寧だが2人への敬意や労いの気持ちは一切見受けられず、自分がエリートである事を鼻にかけているようだ。

頭を抱える兄妹を見て、これなら家出もしたくなると納得するヒーローズジャーニーの3人だが、まだ授業内容を確認していない。

ここでザ・空気を読まないを地で行くナナシが早速口を開く。


「あなたがこの2人の教師でしょうか?宜しければ自分達にもあなたの授業を見せて頂きたい。」


この瞬間、アリエルの中で絶対に無事では済まないという予感がビンビンと駆け巡り、今から胃が痛くなる思いだった。

早速、家庭教師と臨戦態勢に入るナナシ。

次回、意地悪教師を懲らしめます。

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