01-03_ヒーローと名無しの呪い
ナナシとアリエルが街へ行きます。
この話はナナシの今までの苦労を知る上で結構重要です。
01-03_ヒーローと名無しの呪い
ナナシは異世界転移後すぐに助けた少女アリエルと共にこの国の王都に向かっていた。
その間、歩きながらアリエルにこの国の常識について教えてもらう。
「なるほど、この国は『ガードナー王国』でこれから向かう王都が『シルディオ』
王政で貴族が存在する。先程自分が倒した異形の生物をモンスターと呼び、それを倒す事を生業としたハンターと言う仕事がある。
アリエル君はこの国の騎士で今は任務の為にシルディオに向かっていると。」
「はい、それからこちらのお金はガードルで普通の人の1日の稼ぎが大体500~1000ガードルです。
宿代が素泊まりで100ガードルくらいで、一食が50~100ガードルくらいです。
もっとも食事については食材で買えばもっと安く済みます。」
貨幣価値は1ガードル=10円くらいのようだとナナシは納得した。
アリエルはナナシが話をちゃんと理解している様子に満足しながら話を続ける。
「それから先程倒したモンスターの素材や魔石を売ればお金になりますし、それでかなりの期間、生活できると思います。
・・・それにしてもすごいですね。そんなに素材を山積みにして運んでる人見たことがありませんよ。」
今ナナシは先程倒したモンスターの素材を大量に担ぎながら歩いている。
ちなみにナナシはサバイバル道具として常にロープを持ち歩いており、それで素材を一まとめにしている。
その様子にアリエルは若干顔を引き攣らせながら呟くと、そんなアリエルにフレイムは平然と切り返す。
「まぁ、慣れのようなものだ。アリエル君も鍛えれば出来る様になるぞ。
君も騎士ならこれくらい出来て損はないだろう。」
「・・・・えっと、具体的にはどのくらい鍛えるんですか?」
「そうだな、取り敢えず甲冑を着たまま逆立ち腕立て伏せを1万回と200キロの重りを持った状態でのスクワット1万回からだな。
ただ慣れない人間がいきなりやると腰を痛めるからその場で治療できる術師が必須だ。」
「出来るわけありません!!なんですか、その拷問、考えた人は馬鹿なんですか!!!」
馬鹿みたいな訓練内容を顔色一つ変えずに話すナナシに初対面であるはずのアリエルが容赦無くツッコむ。
どうやら彼女は突っ込み体質のようだ。このツッコミを受け、ナナシはこれまた淡々と切り返す。
「いや、我々にとっては割と日常なのだが。」
「そんな事を日常にしている集団なんてこの世界に存在しません。
あなたは宇宙人なんですか?それとも異世界人なんですか?少なくとも人間じゃありませんよね!!」
「あぁ、まだ言ってなかったが自分は異世界の人間だ。」
「・・・・はい?」
「自分は地球という世界から来た者でヒーローという仕事をしている。
先程は濁して説明したが、君が自分の事を言い当てたので話すことにした。
知らないと不便だからな。」
「・・・言い当てていません!!あなたが非常識だからツッコんだだけです!!!
いきなりそんな爆弾発言されても困ります!!」
「そうか。それでは今のは無しという事で忘れてくれ。」
「出来るわけないでしょうが~~~~!!!」
淡々とボケを連発するナナシにアリエルが魂の慟哭と共にツッコミを入れる。
恐らく一生分のツッコミをこの僅か数分間で行ったと思えるぐらいである。
疲れ果てたアリエルと無表情のナナシが王都シルディオにたどり着いたのはそれから一時間後の事だった。
シルディオは外壁に囲まれた城塞都市で入場には街の門での手続きが必要だ。
アリエルは早速入場手続きに向かうがこの時ナナシは珍しく困った表情をしていた。
その様子が気になりアリエルが事情を尋ねる。
「あの~、ナナシ君。どうしたんですか?何か困り事ですか?」
「ああ、入場手続きとなると入場料と名前の記入が必要なのだろう?」
「はい、そうですが・・・もしかして無一文ですか?」
「それもあるが・・自分は名前が書けない。」
「あぁ~、そういえば自称異世界人でしたね。それじゃこちらの文字は書けませんよね。」
「いや、本当に異世界人なのだが。」
「だって私とちゃんと話せているじゃないですか。異世界人なら言葉は分からないはずです。
大方他国の特殊な事情の人で話す事はできるけど、字は書けないという所でしょう。
私が代筆するから問題ないですよ。」
「いや、そういう問題じゃないんだ。
・・・う~ん、どう説明すればいいものか。
そうだ、試しに地面に自分の名前を書いてみてくれ。」
「ああ、代筆が恥ずかしいんですね。最初から字を教えて欲しいと言えばいいのに。
え~っと、『ナナシ』でいいですね。」
アリエルは若干現実逃避しながらナナシの指示通り地面に『ナナシ』を書く。
するとそこで異変が発生する。
名前が書けないのである。
これは綴りが分からないとかでは無く物理的に書けないのである。
書いているのに地面に『ナナシ』という文字が刻まれないのである。
流石におかしいと思ったアリエルは今度は『アリエル』と自分の名前を書いてみるとそれはちゃんと書けた。
この事に訝しむ様な表情をするアリエルにナナシが説明をする。
「先程、自分に名前がないと言っただろう。
あれは文字通りの意味なんだ。自分を示す名前を書こうとしても途端に消える。
君が自分を呼ぶ時に使う『ナナシ』という呼称も名前ではないからギリギリ呼ぶことが出来るが自分の本名は絶対に発音できない。
そもそも自分自身が本名を知らないのだがな。そういう呪いの様なものだと思って欲しい。」
「・・・それじゃ入場手続きが出来ませんけどどうしましょう?」
不安そうに質問してくるアリエルに対して、ナナシはやはり淡々と答える。
「そうだな、取り敢えず生活をする為の物資が欲しいが別にここで手に入れる必要もない。
手続きがいらない街を教えてくればいいと思うのだが。」
「いえ、それは無理です。この国では名前無しで入れる街はありません。」
「そうか。では壁を飛び越えて侵入するか。」
「絶対にやめてください!!!そんな大荷物を持った人間が壁を飛び越えたら一発アウトです!!」
アリエルはナナシの持っているモンスター素材を指さしながら至極当然のツッコミを行う。
だが壁を飛び越える事自体にはツッコまなかった当たり、早くも毒されてきているのかもしれない。
そしてため息をつきながら少し考え込みそれから口を開く。
「・・・状況は理解しました。要はあなたの名前を書こうとしなければいいのですね。
それならなんとかなるかも知れません。」
「考えがあるのか。それをすれば自分も街に入れるのだな。自分は何をすればいい?」
「黙って私について来て下さい。そして余計な事は何もしないで下さい。」
アリエルはナナシに釘を刺しながら門番の方へ向かう。
「お勤めご苦労様です。私はガードナー王国騎士団所属、『結界の聖女』アリエル=ユーリアスです。
任務により王城に向かっている最中です。同行者が一名おりますので一緒に入場手続きをお願いします。」
それを聞いた門番は少し表情を曇らせた後、丁寧な態度でアリエルに応対する。
「は!アリエル様。それではこちらに記入をお願いします。」
「ありがとうございます・・・・これで大丈夫でしょうか?」
「少々お待ちを・・・・はい、アリエル様と『チー』様ですね。どうぞお通りください。」
「はい、それでは失礼します。」
「・・・・」
アリエルが手続きを済ませると、ナナシも言われた通りに黙ってアリエルと一緒に街の中に入る。
門を潜ったと同時にナナシがアリエルに質問する。
「アリエル君、どうやって名前を書いた?そして『チー』とはなんだ?」
「ああ、その事ですね。『チー』っていうのは私の実家で飼っている猫の名前です。
ナナシ君じゃなくて猫の名前を書いたから問題なかったわけです。
そして門番さんは『チー』っていうのをあなたの名前と勘違いしたというわけですね。」
「なるほど、そういうことか。確かにそれなら自分の名前を書かずに手続きができるな。」
「さぁ!種明かしはこの辺にして街に行きましょう。」
アリエルの機転に思わず感嘆の声を上げるナナシ。
ナナシの感心した声に少し気を気を良くしながら街の中へと入っていく。
そんなアリエルを追い、歩を進めようとしたナナシの背後から先程の門番の哀れむような声が聞こえる。
「可哀想に、あんなに若いのに『人柱』に選ばれるだなんて。」
きっとその声はヒーローの地獄耳を持つナナシにしか聞こえなかっただろう。
(『結界の聖女』か、『人柱』というのも気になる。少し調べてみるか。)
ナナシは常識がちょっとあれだが、基本的に善人である。
『人柱』などと言う単語を聞けばお節介をかけずにはいられない。
本来の目的である邪神退治と一緒に『結界の聖女』についても調べる事を決意するナナシだった。
名前が無いってよく考えるとかなりやばいですね。
基本公的な手続きが必要な事は出来ませんし、契約全般も出来ませんし、一人じゃ宿すら取れません。
もっともナナシは全く気にしてないみたいですけど・・




