03-04_ヒーローと歴史学者
今回はヒーローの休日、ナナシ&篝編です。
03-04_ヒーローと歴史学者
「う~む・・・やはり地球とこちらでの人体の構造や生殖に差異はないようだな。」
「性知識って言って最初に見るのが医学書って人、なかなかいないと思うよ。」
「・・・・・」
アリエルがランチバイキングを満喫している頃、ナナシと篝は図書館で調べ物をしていた。
ちなみにこの世界の図書館は入場料を払えば誰でも利用でき、決められた時間までなら好きな蔵書を読むことができる。
何故2人がここに来たかと言うとアリエルの性に対する過剰な反応が今後の行動に支障をきたす可能性を考慮し、一般常識を調べようとしているからである。(ナナシについてはそうだが、篝は単純にアナシスの性の文化に興味があるだけ)
真面目に医学書で人体の構造から調べるナナシに対して、篝が持っているのは普通にエロ本(小説)である。
何故図書館にそんなものがあるかは永遠の謎だが、公衆の面前で堂々とエロ本を見ながら若干頬を赤らめている篝にナナシは完全無視を決め込む。
そしてそんな事はお構いなしに篝がナナシに話し掛ける。
「ねぇ、フレイム君。お姉ちゃんの事、無視しないでよ。お姉ちゃん24だからこういう本読んでも大丈夫なんだよ。」
「・・・・・」
「ねぇってば。フレイム君だってこういうの興味あるでしょう。」
「・・・・・」
「これ以上無視するなら、この本音読するよ。」
「・・・すみません。呼びましたか?」
「えっ!もしかして今までのやり取り聞いてなかったの?」
図書館であるにも関わらず、それなりに大きい声で呼びかける篝に気づいていなかったナナシ。
それに驚いた篝の問いにナナシが答える。
「はい、自分は本を読み始めるとどうも周りの音が聞こえなくなるようで。
医学書は読み終わりましたので、次は法律関係の本を読んでみようと思います。」
「えっ、あの1000ページ以上あるよく分からない専門用語混じりの難解な医学書をたった10分で!!」
「はい、地球では日本だけでも日々300冊以上の本が出版されています。
いくらバーチャル空間の時間圧縮状態で見ると言ってもこれくらいの速度で読めないと追いつけません。」
「えっと、フレイム君って一日に何冊本を読んでいたの?」
「う~ん、平均すると100冊くらいでしょうか。」
「・・・日本の本を3分の1読んでることになるよね、それ。」
「すみません、目的の本が見つかりましたので少し失礼します。」
今の話を補足するが22世紀の地球はVR技術が異常に発達しており、VR空間ならば時間感覚を圧縮する事ができる。
例えばクリアに10時間かかるゲームがあるけど、使える時間が1時間しかないとしよう。
そうした時に時間感覚を10倍に圧縮する事で、現実の1時間で10時間分プレイでき、無事ゲームをクリアできると言った具合である。
尚、あまり時間を高圧縮すると脳の方が疲れてしまうので、一般人は10倍くらいが推奨である。
ちなみにナナシは1000倍圧縮とかやっていて、先程の医学書レベルの本なら100冊をリアルタイムにして1分で読めてしまう。(ただし流石に疲れるのでこれ以上はやらない)
このせいでナナシは年間1億円近く本につぎ込んでいる事になる。クラーケンを倒した時の10億マグに動じなかったのもその為だ。
ヒーローはその希少性と絶大な力から非常に高給取りであり、それ故に感覚も一般人と大きく乖離している。(ナナシは年間100億円くらい稼いでいる。)
さて、だいぶ話が逸れてしまったがそろそろ話を戻そう。
黙々と本を読み漁るナナシとエロ本片手にふくれっ面でナナシを睨む篝。
時々篝がナナシの本の山にエロ本を忍ばせるがそれは見事に弾かれてしまう。
そんなやり取りを1時間程行った2人の元に一人の男が近づいてきた。
男は短い白髪に無精ひげを生やし、くたびれた服を着た50手前くらいのやせ型で、ナナシの読んでいる本を見ると感心した様な声で話し掛けて来る。
「ほう、若いのに随分と難しい本を読むんだね。
しかもたった1時間で分厚い専門書を10冊も読破するなんて。」
「・・・・」
「あっ、ごめんなさい。今のフレイム君、周りの声が聞こえないみたいなんです。」
「おっと、これは失礼した。何分これほど様々なジャンルの本を読破できる人にはなかなか出会えないのでね。」
「・・・・」
話し掛けられているのに返事をしないナナシに代わって篝が男に応対する。
「えっと、おじさんはどちら様ですか?」
「いけない、自己紹介がまだだったね。僕はルーファス。しがない学者だよ、お嬢さん。」
「私は篝です。こっちはフレイム君、お姉ちゃんの弟です。」
「・・・篝さん。虚偽の紹介はいただけませんね。」
「ちっ!こうやって少しずつお姉ちゃんがフレイム君のお姉ちゃんであるという事実を拡散しようと思ったのに。」
「嘘を事実とは言いません。」
どうやらナナシは読書中でも自分に都合の悪い情報だけはしっかり入ってきている様だ。
篝の流言を淡々と訂正するナナシにルーファスは思わず苦笑い。
ここでナナシもルーファスに気づき、一旦読書の手を止め挨拶をする。
「こんにちは、自分は・・・『名無しのフレイム』と呼ばれる存在です。
呼ぶときは『ナナシ』もしくは『フレイム』でお願いします。」
「・・・うん、分かったよ。それじゃカガリ君に合わせてフレイム君と呼ばせてもらうよ。
先程も紹介したが僕はルーファスだ。よろしくね。」
ルーファスはナナシの自己紹介に一瞬考え込むような素振りをしたが、すぐに気を取り直し笑顔で自己紹介をする。
そんなルーファスに無表情のナナシが話を切り出す。
「ところでルーファスさん。自分達にどういったご要件でしょうか?」
「あぁ、君が読んでいる本が気になったのでね。
僕はこう見えても学者で世界各地の伝説なんかを研究しているんだ。
君の本の中にこのアクルスの伝説の本もあったから。」
「ん、これですか?」
そう言ってナナシは一冊の本を差し出す。
本のタイトルは『勇者ナベリウスの物語、始まりの章』である。
「そう、それ。実は僕の今回の研究テーマはこの勇者ナベリウスなんだよ。
このナベリウスはアクルスに現れた海竜を倒した英雄なんだけど、沢山の謎に包まれた人物でもあるんだ。
そしてナベリウスの事を記したこの勇者ナベリウスの物語シリーズの原典は3部作らしいんだけど、まだ2部までしか見つかってないんだ。
僕がアクルスに来た目的は最後の3部目を見つける為なんだ。」
「なるほど。それでこれを読んでいる自分達に興味を持ったわけですね。」
「その通り。そして僕の手元には先程まで読んでいた第2部があるから、よかったら読んでみるといいよ。」
そう言って『勇者ナベリウスの物語、海竜の章』と書かれた本をナナシの手前に置き、背を向けながら話を続ける。
「きっと読み物としても面白いと思うから是非とも読んでみてくれ。ちなみに棚は君の持っている第1部の隣だから一緒に戻しておいてくれ。」
「・・・ルーファスさん。実は戻すの面倒くさいだけじゃないの?」
「ははっ、ソンナコトハナイヨ。それじゃ僕はこれで。また会える日を楽しみにしてるよ。」
そう言ってルーファスはゆっくりとした足取りでこの場を後にする。
ナナシは早速渡された本を読み始める。
「あぁ、行っちゃった。・・・フレイム君、そろそろお昼どきだしご飯に行こうよ。」
「・・・・」
「もう!また本の世界に入ってる!お姉ちゃんの事ももっと構ってよ~~!!」
「・・・・図書館ではお静かに。」
「すみませんでした・・・」
ナナシに大声で呼びかけた篝は図書館の職員に叱られ、しょんぼりした様子で素直に頭を下げる。
それ故2人は今しがたルーファスが呟いた言葉に気づく事はなかった。
「あの2人、発音と口の動きが違ったな。通訳魔法かな?でも2人には魔力はないみたいだったし・・・調べてみたいけど今はそれどころじゃないしな。
早くしないとまた現れるかもしれないしなぁ。」
何やら不穏な事を呟く初老の男ルーファス。
彼が今後どう絡んでくるのか。
次回、篝お姉ちゃん(笑)に天罰が下るようです。




