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02-20_エピローグ_未来に向かって歩む者

マギルートの話は今回でラストです。

02-20_エピローグ_未来に向かって歩む者


ヒーローショーが終わって10日が経過した魔法王国マギシア王都マギルート

魔法王と『賢者の石』が無くなり、新しい国づくりに国民全てが忙しくする中、

その立役者たる異国から来た3人の旅人はと言うと


「あっ!凄い!これって『ウォルト魔術全集』じゃないですか!!」


「お!流石アリエルさん。御目が高いですね。

それはつい先日輸入されたばっかりの貴重品なんだ。

発行部数も少なくてこれしかないから今が買いだよ。」


「アリエルちゃん、それって凄いの?」


「そっか、カガリさん達はこっちの世情に疎かったね。

これは海を渡った遥か東の大国『フラム王国』の大魔術師ジーニアス=ウォルトが書いた貴重な本なんだよ。

これには魔法の極意というべき数々の知識が記載されていて、一流の魔術師を目指すものなら絶対に目を通さないといけないって言われているくらいなんだ。

あぁ~、貧乏だったから見つけても買えなかったんだけど、ようやくあたしの手にもこれが・・・」


「感動している所悪いがそろそろ本来の買い物に戻ろう。

自分達が字を覚える為の新しい教材探しだっただろう。」


彼らはまだマギルートにいた。理由は二つ。

まずは目的地が決まらない事。あれ以来異世界転移の女神から連絡がないから。

そしてもう一つはナナシ達の勉強の為である。

今まではアリエルが通訳する事でなんとかしていたがこのままでは不便すぎると言う事で、女神から連絡があるまではこの街に留まりこちらの文字と常識を勉強しようと言う事になった。

その成果もあり、ナナシと篝は現在簡単な共通語の読み書きなら出来るようになった。

今は自習用の教材を探して本屋を物色している所だ。

それから暫く経って無事目的の教材も買い終え、店を出た所でナナシ達を呼ぶ声が聞こえる。


「アリエルさん、ナナシさん、カガリさん。お久しぶりです。」


「イザークさん、お久しぶりです。今日は一人ですか。」


「ええ、今は新しい孤児院の物件を探した帰りです。

宜しければお昼を一緒にどうですか。わずかばかりですがお礼がしたい。」


「は~い。お姉ちゃん賛成!お姉ちゃんご飯くれる人大好き!!」


「カガリさんはいい加減お金を稼がないとダメだね。」


「だって~、モンスターってお姉ちゃんが攻撃すると全部ミンチになっちゃうんだもん。」


「そういえば篝さんは細かい力の調整があまり得意ではありませんでしたね。」


「カガリさん・・・絶対に一般人に手出ししてはダメですからね。」


篝から飛び出す物騒な言葉にイザークがツッコミながら、一同は近場の飲食店に入る。


「いらっしゃいませ。4名様で宜しかったでしょうか?」


「はい。4人でお願いします。」


店員の案内にアリエルが満面の笑みで応え、それを受けた店員はすぐに4人をテーブル席へと案内する。

4人が席に着くとメニューを確認し、注文をしてからアリエルが雑談を始める。


「しかし、街の雰囲気もだいぶ良くなったよね。今だってちゃんと4人って案内されたし。」


「そうだね。最初来た時、お姉ちゃんとフレイム君の事無視されちゃったもんね。」


「あの時のアリエルはかなり不機嫌だったな。」


「そんな事があったのですか。まあ少し前のマギルートならそうでしょう。」


「やっぱり、あの魔法使い証明とか仮市民証明とか不愉快な証明書がないおかげだよね。

あれって元々差別を助長する為の制度だったわけだし。」


実は今、3人はこの街に入った時に渡された身分証明を持っていない。

あのヒーローショーの後、あの身分証明は不要な物として即日廃止になった。

その結果、ひと目で相手が魔力なしかどうか分からなくなり、不当な差別は相当数減ったのである。


「そうですね。おかげでウチの子供達も普通に外で遊べるようになりました。

それどころかあの子達は今では聖人様って呼ばれていて、みんな良くしてくれる様になりました。」


「あぁ、あのでっち上げの設定のおかげか。

しかしナナシ君、あんな設定よく思いついたよね。」


「それは自分が日本にいた時に読んだ本を参考にさせて貰ったんだ。

自分の暇つぶしはもっぱら読書だったからな。」


「フレイム君って地球で時々やるリアルヒーローショーの台本書いてたもんね。

今回は差し詰め、原案アリエル、脚本フレイム、主演お姉ちゃんっと言った所かな。」


「あの時はカガリさんもナナシ君もノリノリだったよね。」


「そうだね。地球のヒーローショーに出てた時の事を思い出してたんだよ。

私はあんな感じだから結構正義の味方役が多かったんだけど、フレイム君は変身後の格好が無骨な感じだから悪役が多かったんだよね。しかもフォームチェンジ出来るから違う役も出来ちゃうしね。」


「はい、篝さんにはショーで軽く100回は倒されています。」


「それであんなに手馴れてたんですね。」


「でも、ショーが成功したのはあの子達の力があったからだと思います。

3人とも必死で練習していましたからね。」


「そうですね・・・私の妻と娘のくだりはアドリブでしたしね。」


そんな話をしている所へ先程注文した料理が届いたので、それに舌鼓を打ちながら今度はイザークの近況についての話になる。


「所でイザークさんは何故物件をお探しなのですか?

新しい孤児院と言ってましたが。」


「ええ、ナナシさん。私はこれから魔力なしの孤児の為の孤児院をもっと大々的にやっていくつもりです。

今までの様に子供を自分の家に匿っているだけではなく、ちゃんとした形でやっていきたいのです。」


「なるほどですね。所で資金は大丈夫なんですか?

それなりにお金が掛かると思うのですが。」


「そうですね・・・今後新政府からの補助金も降りる予定ですし、私自身も稼ぐ予定ですが不安ではあります。

それでもなんとかするしかないのですがね。まぁ、募金を募ったり、パトロンを探したり、方法はいくらでもありますよ。」


イザークは不安の中に決意を秘めた瞳で今後について語る。

そんな彼の様子をナナシ達はわずかに表情を緩めながら眺める。

やがて食事を終えた彼らはその場で別れを告げ、店を後にする。

未来に進むイザークに触発されたのかアリエルがナナシと篝にある提案をする。


「ねぇ、二人共。あたし達そろそろ旅に出ない。」


「それはいいけど、急にどうしたの?」


「うん、なんかイザークさんの事見てたらあたしも先に進まなくちゃなって思えてきたんだよね。

異世界転移の女神だったかな。まだ連絡はないんだろうけど、きっとあたし達にも出来ることってあると思うんだよね。」


「・・・そうだな。では今日はこれから旅の準備をして明日出発するか。」


「さんせ~!次はどんなところかお姉ちゃん楽しみだな~。

こっちの世界は海とかあるのかな~。」


「篝さん、遊びじゃないんですからね。」


「もう!フレイム君は相変わらず硬いな~。」


こうして次の日の早朝、3人は邪神の行方を追って、誰にも告げる事無く旅に出る事になった。


「さて、勢いのまま旅に出たわけだが、どこへ向かおうか?」


「う~ん、お姉ちゃんの探索の術にも邪神の反応はないんだよね。

きっと1000キロ以内に奴はいないと思うよ。」


「それだとこの島にターゲットはいなさそうだね。そうなると海を渡らないといけないんだけど。

問題はどこにするか・・・だよね。」


こんな感じでナナシ達が目的地を決めかねていた所にタイラントがナナシに話しかけてくる。


『フレイムよ、異世界転移の女神から連絡だ。対応を頼む。』


(そうか、わかった。繋いでくれ。)


『あっ!フレイムさん。やっと繋がりましたね。

そちらにクレイジーサイコ女は来ていますか。』


(誰ですか?その女は。そんな人間はこちらに来ていませんよ。)


『そうですか。あの~怒らないで聞いてくださいね。

私は早く連絡しようとしたんですが、頭のおかしい女のせいで部屋の術式が滅茶苦茶になって連絡出来なかったんですよ。

これは不可抗力だから仕方が無かったと思います。だから私は悪くありません。』


(もしかしてその頭のおかしい女と言うのは篝さんの事ですか?)


『えっ!どうして分かったんですか?もしかしてあのキチガイ女、そちらにいるんですか?』


(来てますよ。この事は篝さんに報告しますのでそのつもりで。)


『ちょっと!やめて下さい!死んでしまいます!こっちが被害者なんですからね。』


(・・・分かりました。そんな事より本題に入って下さい。)


『はい、次の邪神の欠片の居場所が分かりました。そこから1500キロほど北に行った島国です。

海を越える必要がありますので必ず船に乗って下さい。

この世界では個人で空を飛んで海を越える事は禁止されていますのでくれぐれもお願いします。』


(了解、では転移と邪神の探索の件、宜しくお願いします。)


『分かってますよ!それじゃ失礼しますね!』


そう言って異世界転移の女神は若干不機嫌になりながら会話を切り上げる。

おそらく篝が言っていた以上に酷い目にあったのだろう。

ナナシは女神に対して憐れみの気持ちを抱きながら今聞いた内容をアリエルと篝に話す。


「なるほど。北の島国って事は『アクルス諸島』だね。

ガイドブックによると平和なリゾート地でお魚が美味しいんだって。」


「わぁ~~!!お姉ちゃんお魚大好き!!早く行こうよ。」


「二人共、前も言ったが遊びに行くわけじゃないからな。

それから篝さん、この世界では海を飛行して越えるのは禁止みたいですので。」


「え~、せっかくお姉ちゃんの見せ場だったのに~。さてはあの女神ちゃんの意地悪だな~。」


「まぁまぁ。この際だから船旅を楽しもうよ。あたし船って初めてなんだ。」


「・・・・港町までは走りだからな。」


「え~、ナナシ君の鬼!悪魔!!!」


こうしてアリエルの悲鳴が木霊する中、再び彼らの旅は始まった。


彼らが旅立ってから数日後の王都マギルート


「いらっしゃいパティンスキー、久しぶりですね。今日はどのようなご要件ですか?」


「ああ、久しぶりだな、イザーク。すまない、なかなか時間が作れなくてな。

今日は様子見といくつか報告があって来た。最近調子はどうだ。」


「えぇ、以前に比べれば凄くいいですよ。

子供達も普通に外で遊べていますし、この間は外で友達が出来たって嬉しそうに話していました。」


「そうか、それはよかった。ところでお前自身の気持ちの整理は着いたのか?」


「ははっ・・どうでしょう。まだ妻と娘を失った悲しみも憎しみもここにありますし、この感情はおそらく一生消えないでしょう。

それでも子供達が笑顔でいるのを見ると前に進まないといけないと思えて来てしまうんですよ。

それに後ろばかり見ていたらあの3人に顔向け出来なくなりますからね。」


「・・・そうか、それならいい。さて報告だな。

まずはお前が申請していた補助金の件が無事通った。近いうちに振込があると思うから確認しておいてくれ。

それから新しい物件だが前魔法王の屋敷が今は空家だからそこを使っていい事になった。

元々お前はあれの息子だったんだからお前が相続する形だ。

色々思うところはあるだろうが未来の子供達の為なんだからそこは割り切れるな。

そして最後、孤児院宛に匿名の寄付があったのでそれを渡しに来た。この通帳だ。」


「それはありがたい話ですね。しかし匿名とは・・・・これは!!」


渡された通帳を見てイザークは思わず驚きの声を上げ、パティンスキーはため息をつきながら応じる。


「やっぱり気づくよな。それを渡せる知り合いなんてあいつらしかいないもんな。」


「えぇ・・・彼らは本当にどこまでもお人好しなんですね。」


1500万ガードル入った通帳を眺めながら、イザークは嬉しそうな、寂しそうな、そんな複雑な表情をしており、その瞳にはうっすらと水滴が浮かんでいる事を彼自身気づいていなかった。

新たな目的地、アクルス諸島に向けて出発を始めたナナシ達。

次の舞台は海ですが一体どうなることやら。


次回はちょっとしたおまけを入れようと思います。

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