02-19_ヒーローとリアルヒーローショー
今回は『賢者の石』破壊後の後始末です。
リアルヒーローショーの開幕です。
02-19_ヒーローとリアルヒーローショー
「魔法王猊下の行方が分からなくなってから3日が経過した。」
「もしや猊下は本当にお隠れになられたのではないだろうか。」
魔法王国マギシアを治めるマギア教の上層部は今、パニックに陥っていた。
自分達の最高指導者である魔法王モハマド=マギシアが3日間姿を現さないからである。
魔法王の行方不明により国を支える礎である『賢者の石』も分からない。
このままでは国の統治もままならなくなる。
彼らは魔法王個人に対する心配など微塵もしておらず、自分の権力が揺らぐ事を恐れていた。
そんな彼らの元に慌てふためいた衛兵が息を切らして駆け込んできた。
「失礼します!!火急の知らせがございます!!!」
「なんだ!!騒々しい!!申してみよ!!」
「突如現れた赤い怪物に街の門が破壊され、今その怪物がこちらへ向かっております。」
「「「なんだと!!!」」」
マギア教団の幹部達は声を荒げる。
ただでさえ指導者不在で大変な中、さらにトラブルが舞い込んできたのだから当然である。
彼らは怒りのままに宮殿の外へと歩を進める。
するとそこには驚愕の光景が広がっていた。
兵士の避難誘導により人っ子一人いなくなった宮殿前の広場の中央。
そこに立っていたのは真紅の魔人。
真っ赤なプロテクターにシャープな形のガントレット、如何にも頑丈そうなグリーブ。
頭全体を覆うマスクの目は他の部分より更に深い赤で、耳と肘と踵の部分に炎を型どった様な装飾が施されており、腰にはL字の形をした魔道具?の様なものを佩いている。
そして驚くべきは魔人が巨大な何かを引きずっている事。よく見るとそれは下半身だけになったグリフォンの死骸だった。
つまりこの魔人はグリフォンの上半身を吹き飛ばして殺せるほどの力を有していると言う事になる。
ここにいる者は全員、国でも有数の魔法使いだが、全員がかりでようやくグリフォンを倒せる程度の実力しかない。
魔法王がいればなんとかなったかもしれないが、彼は不在の為、あの化物に自分達で対処するより他ない。
震える教団幹部を気にも止めず、赤い化物はゆっくりと宮殿の方へと近づき、静かだが遠くまで響く声で言葉を紡ぐ。
『我は『炎獄大魔神』。かつてこの地の魔法使いに『賢者の石』を授けた存在である。』
「「「!!!!」」」
この言葉を聞いた教団幹部は驚愕し、言葉を失う。
さて、ここで何故このような事になったのか説明しよう。
これは遡る事三日前『賢者の石』を破壊した直後の話。
アリエルの提案の内容がそもそもの発端である。
「じゃあ説明するね。『賢者の石』を破壊したのを架空の悪者に押し付ければいいんだよ。」
「ん、どういう事だ。確かに他人に押し付ければ『賢者の石』の件は隠せるがどうやって?
それにその架空の悪者はどうやって用意するんだ。そもそもそれをする意味ってあるのか?」
「一つずつ説明するね。まず架空の悪者はナナシ君にやってもらおうと思うんだ。
設定としては昔『賢者の石』をこの地に授けた魔人って感じで。
筋書きはこんな感じで・・・その後は・・・みたいな感じかな。」
「なるほど、そうやって国民全部を騙すわけだな。確かにうまくいけば『賢者の石』も差別も解決する。」
「じゃあ、ここはこんな感じで・・・・」
ガヤガヤ!ガヤガヤ!!
と言うような形で魔法王国マギシア全体を騙す為の大芝居、ヒーローショーが始まった。
衝撃の事実?に動けずにいる教団幹部に対して、『名無しのフレイム_ガンナーフォーム』が扮する炎獄大魔神が言葉を続ける。
『我はこの地の平和と子供達の幸福の為に『賢者の石』を齎した。
だが実際に貴様らマギア教団が行った事はなんだ。
偽りの教えを広め、差別を蔓延らせ、魔法使いを特権階級とし、魔力がないというだけで同じ人間を迫害する。
貴様ら魔法使いは自分の地位や欲望の為に我の授けた『賢者の石』を悪用した。
我は畜生にも劣る貴様らとマギシアにそれ相応の報いをくれるべく、この地に降臨したのだ。
魔法王は既に我の手で葬った。次は貴様らが悪用して汚れた『賢者の石』を葬る。
今から1分後にその欲塗れの宮殿ごと『賢者の石』を灰燼に帰す。
少しばかり長生きしたいのであればすぐに離れる事だな。』
いつもの平坦な声色で淡々と自分の設定を語りながら、L字の魔道具(銃)を宮殿に向けるフレイム。
この言葉に受け、宮殿にいる者は我先に外へと逃げる。
それから1分後、全員が逃げたのを足音と心音で確認したフレイムが宮殿を破壊すべく銃に力を送る。
『ヒートバレット』
フレイムの銃から超巨大な熱線が放たれ、王宮の最上階を蒸発させる。
その眩い光と王宮が崩れ落ちる轟音に驚いた市民が家の中から飛び出してくる。
そしてその不安と恐怖が教団幹部へと向く。
「魔法使い様、どうかあの恐ろしい魔人を退治してください。」
「魔法使い様はなんでもおできになるのですよね。いつもそう仰っていたではありませんか。」
「私達は敬虔なマギア教徒です。魔法使い様は私達を見捨てるような事はありませんよね。」
「・・・・黙れ!!愚民どもが!!貴様らこそ盾になってあの化物から我らを守れ!!」
市民達が口々に助けを乞うのに対して、卑劣で薄汚れた魔法使い達がとうとう本性を顕す。
そんな魔法使いの元にフレイムはゆっくりと死神の足音を響かせながらにじり寄る。
『愚かな・・・守るべき民を盾にしようとするとは。
貴様らにはもはや生きる価値は存在しない。
この場で我が塵も残さず消滅させてくれようぞ。』
そう呟きながら、銃口を魔法使い達へと向けるフレイム。
それを見た市民は蜘蛛の子を散らす様にその場から逃げ去り、腰を抜かした魔法使いだけがその場に残った。
そしてフレイムが銃撃を放とうとしたその時、
「「「ダメーーーー!!!」」」
3人の子供達、クー、シー、ハーが立ち塞がった。
それを見たフレイムは平坦な声で子供達に語りかける。
『貴様らは『賢者の石』が写し出した聖人。何故、この汚れた魔法使いを庇う。
この者達のせいで貴様らや貴様らの院長先生が酷い目にあった事を我は知っているのだぞ。』
その問いに子供達は毅然と言い返す。
「どんなに悪い人でも殺しちゃダメなんだよ!」
「そうだよ。悪い事をしたらごめんなさいしないとダメなんだよ!!」
「死んじゃったらごめんなさいできなくなっちゃうよ!!」
『そうか、だがこの世には決して許されることのない汚れた罪人もいるのだよ。
それが此奴らだ。もし邪魔するのであれば聖人といえども消さねばならなくなる。
その覚悟が貴様らにはあるのか。』
「難しい事は分からないけどダメなものはダメなの!!」
「人殺しは絶対にダメなの!!」
「院長先生も奥さんと娘さんが死んで悲しいって言ったの!!!」
フレイムの脅しに尚も反論するその真っ直ぐな瞳の子供達に対して右手に持った赤い銃口が向けられる。
あわや絶体絶命と思った次の瞬間、フレイムと子供達の間に巨大な火柱が発生する。
「素晴らしいよ!流石『賢者の石』が認めた聖人って所かな。
その心意気、確かにこの『賢者の石』の精、魔法少女ミラクル篝ちゃんが聞き届けたよ!!」
そこに現れたのは頭に黒の三角帽子、目元に不死鳥の羽をモチーフにしたマスクを着け、炎の様に真っ赤なマントを羽織り、その右手には柄が漆黒で穂先は燃え盛る炎に包まれた魔女の箒を持った、深紅の瞳と髪の少女だった。
少女、篝の姿を見たフレイムは彼の口から出たとは思えない様な驚いた声で叫ぶ。
『馬鹿な!貴様は『賢者の石』の精!あの汚れた『賢者の石』から貴様が生まれる等ありえない。
そもそも『賢者の石』は我が破壊したはず!何故貴様がここに存在出来る!!』
「そう、確かにあなたの言う通り、『賢者の石』は破壊された。
でもこの子達の覚悟の叫びのおかげで私は生まれる事ができた。
炎獄大魔神!このまま引き下がるなら良し。
もし聞き届けてくれないのなら私が退治させてもらうよ!」
『ふん!戯言を!貴様如き、我が・・・』
「遅いよ!『篝ちゃんアッパー』!!」
フレイムが悪者らしい口上を述べようとした瞬間、篝がヒーローらしかぬ不意打ちを叩き込む。
箒をモロに顎に受けたフレイムはそのまま上空へと吹き飛ばされ、星になる。
だが篝の追撃は止まらない。
「炎獄大魔神!これで止めだよ!!『スターフレア』!!」
篝の霊力の箒から放たれた超極太の熱破壊光線がフレイムへと直撃しそのまま大爆発を起こす。
そして眩い光と爆音を鳴り響かせながら炎獄大魔神ことフレイムはその場から退場する。
爆発が収まったのと同時に篝が街の住民全員に向けて囁く様な声で語りかける。
『驚異は去りました。炎獄大魔神はこの魔法少女ミラクル篝ちゃんが無事撃退しました。
これから皆に大事な話があります。心してお聞きください。』
この声は街の住人全員に届いているのだが、これはアリエルの魔法の一つ『エアウィスパード』の効果である。
これは無差別に広範囲に声が聞こえる様にするスピーカー魔法だ。
ここで篝は少し間を置き、住民がこちらに耳を傾けている事を確認してから話を続ける。
『今までの魔法王が語っていた事は全て偽りです。魔力のない人間が災いを齎すなどありえません。』
「そんな馬鹿な!今までの『双子の怪異』は全て魔抜けの姿をしていたではないか!!」
篝の言葉に教団の幹部の一人が声を荒らげて反論する。
それに対して篝は静かに諭すように応える。
『それは欲望に塗れた魔法王が見せた偽りです。本来『賢者の石』はこの国に希望を齎す聖人を探す為の神器だったのです。
それを魔法王は自分の地位を追われる事を恐れ、『賢者の石』を悪用して偽の聖人を生み出し殺させた。
それが『双子の怪異』の真相です。その証拠を今からご覧に入れましょう。』
この魔法少女ミラクル篝ちゃんから語られた真相?に市民が驚愕する中、篝が広場の一角を指し示す。
そこにはレジスタンスと数人の人影の姿があった。それを見た教団幹部は目を見開き、声を荒げる。
「そんな馬鹿な!あれは先日『賢者の石』によって『双子の怪異』になると示した者達!何故ここにいる!」
『それはこの者達が真相を知り、この聖人達を保護したからです。
ここで皆様に質問致しますが、今までに災いは起きましたか?』
レジスタンスは以前から『双子の怪異』のターゲットとなった魔力なしの者達を密かに保護していた。
それを指し示しながら問いかける篝に市民達がざわつき始め、少しずつ声が大きくなってゆく。
「あの三角帽子のお嬢ちゃんの言う通りだ。今までに災いなんて起こっていない。
つまり今まで魔法王が言っていた事は偽りだったということか!」
「だとすると、魔抜けに罪はなく我々は彼らを無意味に迫害していた事になる!」
「そんな事許されていいはずがない!我々は一体どうすればいいんだ!!」
市民達が恐慌状態に陥る中、篝は締めのセリフを口にする。
『今までの罪がなくなる事はないでしょう。しかし未来は変えられます。
これからは魔力の有無に関わらず、皆が平等にお互いを思いやりながら生きるのです。
今までの事でわだかまりもあるでしょうが、悔い改める気持ちがあればきっと大丈夫でしょう。
この地にはもう『賢者の石』はありません。
それでも皆で協力していけば、どんな困難も乗り越えられることでしょう。』
「・・・・その通りだ!俺達なら出来る!」
「そうだ、まず今まで虐げていた魔抜け・・・じゃなかった。魔力なしの人達に詫びよう。
それから彼らも我々と同様に生きていける国を作ろう。」
「今更、勝手な事を言っているかもしれないがやらないよりマシだ。
この国を変える為にまずは自分達を変えよう。」
こうして篝と市民達が盛り上がる中、裏方に徹していたアリエルとイザークが語り合う。
「うわ~、カガリさんも派手にやったな。ナナシ君大丈夫かな?」
「予行練習では問題ありませんでしたが、あれは何度見ても心臓に悪いですね。」
「しかしナナシ君、ノリノリだったね。普段無愛想なくせにあんな声が出せちゃうんだ。」
「無愛想で悪かったな。」
「あっ!ナナシ君お帰り~。しかし何度見ても正気の沙汰じゃないよね。
あの爆発を受けて無傷だなんて。」
「あれは直撃の前にガンナーフォームの銃撃で相殺しているんだ。
流石にあれをまともに受けたら自分でも無傷というわけにはいかない。」
「相殺出来る時点で凄いと思いますが。」
「それよりイザークさん、うまくいきそうですか?」
「何とも言えませんがこれからの頑張り次第と言った所でしょうか。
今の光景を見た市民はまだいいですが、国民全ての差別意識を無くすには多くの時間と弛まぬ努力が必要になるでしょう。
それでも魔法王と『賢者の石』に支配されていた今までよりは何倍もマシです。
少しずつ良い国にしていきますよ。そうすればきっと妻と娘も報われるでしょう。」
そう語るイザークの横顔は少し寂しそうだった。
それでも彼はこの国の未来と子供達の為に前に進むことを誓うのであった。
今回でマギシアで出来る事は一通り終わりました。
次回は新たな旅立ちを予定しております。




