01-01_名無しのヒーローの異世界転移
ヒーロー『名無しのフレイム』が異世界転移します。
01-01_名無しのヒーローの異世界転移
ここはどこだろうか?文字通り何もない空間だ。
ものが無いのではない。地面も空も光もないただ一面に黒が広がるだけの空間。
そこに一人のヒーローは立ち尽くしていた。
こういう時はまず現状確認からだ。
自分は『名無しのフレイム』と呼ばれる存在。
自分の職業はヒーロー。怪人や邪神から人々を守る存在。
自分の契約精霊は暴龍『タイラントドラゴン』。
先程まで邪神『名前ある者の神』と戦闘、撃破した後、時空震に巻き込まれて今に至る。
五体満足で痛みや外傷も特に見られない。
今すべきことはこの空間がどういったものかの確認と脱出。
などとフレイムが考えていると目の前の空間が白く光り一人の少女が現れた。
少女の年の程は10歳前後で空色のワンピースを着ており、銀の愛くるしい瞳に腰まで届く銀色の髪。
整った顔立ちは正に絶世の美少女である。
そしてなにより特筆すべきはその背中に羽が生えている事だろう。
フレイムはその明らかに人ではない出で立ちに警戒心を高めた。
それを感じ取ったのか、少女は誰が見ても可愛らしいと思う魅惑的な笑みでフレイムに語りかける。
「そう、警戒しないでください。私は異世界転移の女神、あなたに救っていただきたい世界があってお願いに上がりました。」
「異世界転移の女神ですか?もしかしてよく読み物であるあの?」
「あぁ、あなたは日本人でしたね。だったら話は早いです。
そうです!本などで登場するあの異世界転移です。」
「そうですか。エレメンタルズの白井君に本などを借りて読んだ事があるのですが、あの超常誘拐犯の事ですか?」
「えっ!!」
フレイムから飛び出す不穏な単語に女神は思わず絶句する。
そんな女神の様子を意に介さずフレイムは話を続ける。
「読み物によると大抵の場合、相手の意志に反して本来居た場所から引き離し、チート能力などの戦う手段を与えるのと引換に危険な戦場に送り込む。
これってはっきり言って犯罪だと自分は考えます。
あなたは先程自分に世界を救って欲しいと言いましたね。
これはつまり戦場に送り込む事を言っているのではないでしょうか。」
「いえ・・・そんな事は・・・」
「では、自分がこれを断った場合、元の場所に戻してくれるのでしょうか?
そうでないのでしたら、自分はあなたを誘拐犯と認定し処断しなくてはならなくなります。」
「え~っと。処断って具体的には。」
「武力行使です。」
「え!本気!!こんないたいけな少女に対して暴力を振るうっていうの?
あなたそれでもヒーローなの?」
「怪人や邪神は少女の姿をしている事もあります。
どんな姿の相手でも自分は必要とあれば容赦なく武力行使を行います。」
「分かりました。説明します。だから武力行使はやめてください。お願いします!!」
淡々と少女を脅迫するヒーローに対して、当の少女は自分が神であると言うプライドを感じさせない美しい土下座を持って対応。
その甲斐もあり、フレイム側も取り敢えず話を聞く気になったようなので、半泣きの女神は説明を始める。
「いえ、実はですね。あなたが倒した邪神『名前ある者の神』なんですけど、まだ完全に滅びてないんですよ。
と言うかあのあらゆる神、精霊が倒せないで匙を投げかけていた邪神をよくあそこまで追い詰めましたね。」
「まぁ、自分は名前が無いですから。それより滅びていないとは?」
「はい、あの邪神は基本的に無機物ですので身体の破片でもあれば死んだ事にならないですし、時間が経てば力を取り戻す事だってできるんですよ。
奴ってあの巨体でしょう。フレイムさんの攻撃で身体の大半が消し飛びましたがその時に起きた時空震で破片が異世界に転移してしまったんです。」
「なるほど、つまり自分にそれを処理して貰いたいと、」
「その通りです。破片の移動先の名前は『アナシス』です。
これから私の力でそちらにフレイムさんも転移して頂きたいのですがよろしいでしょうか。」
女神の申し出にフレイムは考える素振りをし、これまた淡々と質問を口にする。
「転移前に確認をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ。」
「あなたは邪神のいる世界を特定しているようですが、細かい位置は特定しているのでしょうか?
邪神を倒す事に異存はありませんが、今回の場合、奴は砕けて複数に分裂していると見たほうがいいですし、直接奴のところに送って貰って倒すと言った方法は取れないのでしょうか?」
「そうですね。どれだけの数に分裂しているか現段階ではわかりませんし、全てを私の転移能力でカバーするのは無理でしょうね。」
「つまり、自分がその世界に行って探索する必要があると。」
「はい、取り敢えず1つ破片の位置を特定してますのでそちらに送ろうと思います。
他に質問はありますか?」
「では、異世界への転移後、こちらに戻ってきた時にはどの程度時間が流れていますか?
読み物の中ではこちらと異世界では時間の流れが違うというのはよくあることです。」
「えっと、向こうの30日がこちらの1日ですね。
つまり向こうで一ヶ月過ごすとこちらで1日経過するというわけです。
何故そのようなご質問をされたのですか?」
「いえ、日本のヒーローには問題児が多いですから。自分が見張ってないと何をするか。
特に『デストロイヤー』葉山と『紳士仮面』時任さん、それに『エレメンタルズ』赤坂は。」
「・・・あなたも苦労なされているのですね。」
日本の問題児を思い浮かべながら思わずため息をつくフレイムに同情する女神。
どうやらこの女神も天界では苦労人のようだ。
当のフレイムはと言うと女神の憐憫の目を全く気にすること無く、これまた淡々と質問を続ける。
「では、最後の質問です。あなたは今までに転移者の意思に反した誘拐行動をとった事がありますか?」
「え!その話まだ終わってなかったんですか?」
フレイムは先程の誘拐の話を再び蒸し返す。
「当然です。もしあなたが犯罪者ならこの場で処断する必要があります。
言っておきますけど自分に嘘は通じませんからね。正直にお答えください。」
「何!処断ってこわ!!やってない!やってませんからね!!
いつもは死んだ人の魂だけを呼び出して本人の了承の上で転生して貰っているんですよ。
今回の転移だってちゃんと事情を説明してお願いしたじゃないですか。
大体意思に反した転移、転生は天界法で禁止されているですよ。
分かって頂けましたか?分かったなら指ポキポキ鳴らすのやめてください。」
再び少女相手に脅迫を始めるヒーローに今度はマジ泣きで説明する女神。
この女神も人間相手にここまで恐怖を感じたことはない。
本来、女神もかなりの力を持っているのだが、どうもこのヒーローには通じる気がしない。
説明を聞いたフレイムはその剣呑な気配を引っ込め話を進める。
「うむ、どうやら嘘はついていないようですね。
ところで奴を倒したら元に戻れるのですか?」
「勿論、用事が済めば元の場所に戻っていただけます。
ただ、何分向こうの方が時間の流れが早いので出来れば用事が済むまでは向こうにいて欲しいと思います。」
「なるほど、承知した。では転移をお願いします。」
「分かりました。(ちくしょ~、何なんだよ。私は女神なんだぞ~、絶対仕返ししてやる。)」
「余計な事を考えずにお願いします。」
「はい!では転移を開始します。(なんで分かるんだよ。この冷血ヒーロー。)」
女神の合図と共にフレイムの身体が光り出す。
そして
「では行きます。転・・ヘックション!!!
あ~しまった~~!!」
「ちょっと・・・何が起きたんで・・・・」
女神のくしゃみと共にフレイムの姿が消える。
その事に女神は大慌てし、フレイムはそれを問いただす前に転移されてしまう。
「・・・くしゃみのせいで少し座標がズレた。幸い欠片の近くではあるけど。
・・・・・どうしよう、あの冷血ヒーロー絶対怒ってる。
どうか時間とともに忘れますように。」
冷汗を流しながら、フレイムの怒りが自分に向かない事を切に願う女神であった。
フレイムは真面目にボケるタイプです。
ずっと一人で只管怪人や邪神の相手をしていたので常識も人とはかなりズレています。




