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01-09_ヒーローと『石板様』

今回は『結界の聖女』についての真相が語られます。

01-09_ヒーローと『石板様』


「嘘・・・なにあの力。」


少女アリエルは呆然としていた。

強いのは知っていた。でもこれほどとは思わなかった。

あの兵士長だった決して弱くはない。だがナナシが規格外過ぎた。

あの巨大な火の玉はおそらくアリエルの結界でも防げないだろう。

あれはもはや常人の技ではない。それこそ英雄と呼ばれる類の人間にしかあんな炎は扱えない。

未だ混乱するアリエルの耳に決闘の終わりを告げる王の声が響く。


「そこまで、勝者、フレイム。」


「「「・・・・・」」」


その声を受けたナナシが何か呟いた後、王に問いかける。


「陛下、自分は『結界の聖女』の護衛として十分でしょうか?」


止めないと


「ああ、そなた以上の適任はおるまい。」


早く止めないと


「では自分を『結界の聖女』護衛の任にあたらせていただけますか?」


ダメ、間に合わない。


「よかろう、フレイムよ。そなたに『結界の聖女』護衛の任を与える。」


もうダメだ。このままじゃ彼まで道連れにしてしまう。


「謹んでお受け致します。」


終わった。彼まで『石板様』の生贄になってしまう。

そう思った途端アリエルの意識は遠のき、その場に力なく倒れる。



バタッ!!

その音は突如やって来た。

ナナシが『結界の聖女』の護衛に任命されたその時だった。

音の正体を確認するべく意識を向けるとそこにはうつ伏せになって倒れるアリエルがいた。

周囲がざわめく中、ナナシは無言でアリエルの元に駆け寄る。

その目にも映らぬ程の凄まじい速度に皆呆然とするがナナシにはそんな事を気にしている余裕はない。

頭を出来るだけ動かさない様に注意しながら、アリエルの様子を確認する。

外傷は無し、頭も打っていないようだ。意識はないが呼吸はしっかりしている。

おそらく眠っているだけだろう。その場でナナシは叫ぶ。


「誰か!医者の所まで案内してくれ。急病人だ!!」


ナナシの叫ぶ声に我に帰った周囲の騎士達はすぐに道を空け、アリエルをお姫様抱っこしたナナシを医務室まで案内する。

到着後すぐに待機していた医師に診断してもらった結果は過労との事だった。

ナナシはベットに眠るアリエルを看病することを医師に告げ、そのままベットの横の椅子に腰掛ける。

暫くアリエルの様子を見ていると、うなされた様な少し苦しそうな声で寝言を口にする。


「うぅ・・メ・・・と私・一人・・・くから・・・『石板様』・・・なを・・・ナナシ君を・・巻き・・ないで・・・」


「おい!アリエル君!しっかりしろ!!」


アリエルの様子がどんどん苦しそうになる事に、焦燥感を覚えたナナシは思わずアリエルの耳元で大声を出して起こそうとする。

暫く声を掛けるとすこし虚ろな目をしたアリエルが目を覚ます。


「えっと・・・おはようございます?ナナシ君?これはどういう状況かな?」


「・・・・・」


そう、今ナナシの顔はアリエルの目の前にある。

アリエルも年頃の乙女である。寝起きの自分の顔の前に端正な男性の顔があればドギマギするのである。

だが怪人、邪神を殺す為の殺人マシーンの様な男、名無しのフレイムはそういう女の子の機微には全く気づかない。

顔が真っ赤になったアリエルをマジマジと見つめる。


「アリエル君、先程より顔が赤いが熱か?すこし体温を測ってもいいか?」


そうアリエルの耳元で呟きながら、ナナシは自分のデコをアリエルのデコにくっつける。


「え!えっ!・・・・」


「いかんな。さっきより顔が熱い。待ってろ、氷嚢をもらってくる。」


そう言って呆けるアリエルを置いてナナシはその場を離れる。

アリエルが呆ける事暫し、宣言通り氷嚢を持ったナナシがアリエルの元に戻ってくる。


「さぁ、アリエル君。これを頭に載せて横になって休め。」


「はい・・・ありがとうございます・・・なんなのよこの人は・・・」


アリエルは口ではお礼を言いながらどこか不満そうに氷嚢を受け取り頭に載せる。

それを確認したナナシがアリエルに質問を投げかける。


「なぁ、アリエル君。『石板様』とはなんだ。」


「え!どうしてその名前を・・・」


アリエルの顔色が一気に真っ青になり、目の焦点が合わなくなる。

この世の終わりの様な顔をするアリエルを見たナナシは『石板様』こそが『結界の聖女』と『人柱』を繋ぐピースになると確信する。

だが今のアリエルに『石板様』の事を聞くのは余りにも酷だ。

落ち着かせようと声を掛けようとした瞬間、アリエルが口を開く。


「あの!ナナシ君、なんともない?どこか身体がおかしかったりしない。」


「いや?なんともないが、それがどうかしたか?」


この瞬間、アリエルは顔をぐしゃぐしゃにして泣き始めた。


「よかった・・・・うぐぅ・・・よが・・・よかっだ~~。」


「どうした、アリエル君。どこか痛むのか?」


「だい・・じょうぶ・・・だい・・・ぶ・・・だから・・・うぐぅ・・ひっく・・・」


その後アリエルは暫く泣き続け、ナナシはそれを無表情で内心あたふたしながら見守った。

それからすこしの時間が流れ、アリエルが落ち着いた所でナナシは再び質問の続きを行う。

それに対してアリエルは腹を括ったようで、真っ直ぐな瞳でナナシを見据える。


「では先程の質問だが『石板様』とはなんだ。」


「・・・分かったよ。今から話すね。でもその前に約束して。

あたしがこの話をして少しでも体調が悪いと思ったら必ず教える事。

そしてあたしが続きを話さないと決めたらそれ以上は追及しない事。

このことは絶対に他の者には言わない事。

あたしの今後の行動を邪魔しない事。

これがお話する為の条件だよ。」


「あぁ、分かった。約束する。」


ナナシは随分と変わった条件だなと思いつつ約束する。

その回答に満足したアリエルが話を始める。


「まず『石板様』について。

『石板様』は『結界の聖女』に神託を与える使いの様な存在なんだ。

ちなみに今の時点で体調は大丈夫?」


「ん?ああ、平気だ。何故先程から自分の体調をそんなに気にする。」


「よかった~。

実は『石板様』の神託の中に『結界の聖女』は絶対に『石板様』の事を漏らしてはいけない、と言うものがあるの。

『石板様』の事を喋った場合、それを聞いたものを呪い殺すと言われてるの。

実際にあたしが小鳥の前で『石板様』の事を喋ったら、その鳥が泡を吹いて死んでしまった。

その時以来怖くて、『石板様』の事は口にしてないんだけど。

どうしてナナシ君は『石板様』の事を知っているの?」


「あぁ、君が寝言で言っているのを聞いた。」


「危ねぇ!あたし・・超危ねぇ・・・危うく寝言で人殺す所だった。」


「だが、何故か自分には効かないみたいだな。異世界人だからだろうか?」


「ははぁ・・そのネタまだ続けてるんだ。まぁいっか。

危ないからこれからは『石板様』の単語は使わないね。

『あれ』とでも呼ぼうかな。」


「ああ、『あれ』で頼む。」


「『あれ』は『結界の聖女』にお告げをするの。

その内容はシルド砦の『大結界』が効力を失ったから直しに来い。

モンスターが大量発生しているから護衛を連れてこい。

『あれ』に魔力を注ぎ名前を刻む事で『大結界』は復活する。

『あれ』の事は他言無用。と言ったところかな。」


「なるほど、そこで問題点は?」


「まずシルド砦のモンスターの数が多すぎる事。

さっきナナシ君が倒してくれたモンスターなんて氷山の一角。

おそらく1000を超えるモンスターがいると思うんだ。

さらに『結界の聖女』が砦に近づくとそれとは別のモンスターを集まってくるの。

つまり『大結界』が完成するまで護衛は無尽蔵に湧くモンスターと戦い続けないといけない。」


ここでアリエルはひと呼吸置き、覚悟を決めた顔つきで言葉を紡ぐ。


「そして最後に『あれ』に魔力と名前を捧げた『結界の聖女』は死ぬ事。」


その言葉にナナシの無表情だった顔は初めて苦痛に歪んだ。

『結界の聖女』について、前回と相違点がありますが、それはアリエルが意図的に情報を隠していた為です。

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