095.お兄ちゃん、暁の騎士と対峙する
さて、"心"の試験に望むために、牧場で自身が騎乗する馬を選んだ僕。
額の三日月模様から、牧場関係者に"クレッセント"という愛称で呼ばれているというその馬に鞍を装着し、僕らは馬場へと移動していた。
「あれは……」
僕らが移動した馬場のさらに奥。
一番、馬房から遠くにある馬場に、見知った姿があった。
それは、ルーナ。そして、暁の騎士だ。
今日、初めて馬に乗ったばかりだというのに、ルーナはすでに自身の馬を低速ではあるがちゃんと走らせていた。
「あー、なんだ。あのお嬢ちゃんは経験者か」
牧場の人がそう勘違いしてしまうほどに、ルーナの乗馬はすでにそれなりのレベルに達しているように見える。
そして、ルーナを先導するように暁の騎士も馬に乗り、駆けている。
その姿は、颯爽としており、まるでどこかの国の王子のようだ。
剣の腕ばかりでなく、乗馬の腕も相当のものらしい。
本当に、彼は一体何者なんだろう……。
と、そんな風に思っていると、突然──
「ヒ、ヒィイイイイイン!!!」
「わわっ!?」
ルーナが乗った馬が、突然ロデオのように前へ後ろへ飛び跳ねだした。
暴れ馬だと聞いていたが、やはり一筋縄ではいかないタイプの馬らしい。
身体を跳ね上げられたルーナは、しばらくはなんとかしがみついていたが、やがて、耐えられなくなって地面へと落下した。
「ルーナちゃん!!」
思わず駆け寄ろうとしたが、距離が遠い。
僕が駆け付けるよりも遥かに速く、先導していた暁の騎士が、自身の馬から降りるとルーナの方へと駆けてきた。
「大丈夫か。ルーナ?」
「は、はい……」
幸い、落ち方が上手かったのか、ルーナに目立った外傷はないようだ。
暁の騎士に引っ張り上げられたルーナは、立ち上がると、パンパンと服を掃う。
そうこうしている間にも、ルーナが乗っていた馬──確かシルバーというかいうその馬は、フンと、鼻を鳴らすと、勝手に馬場の奥の方まで走って行ってしまった。
「ふぅ、あの子すっごく綺麗なのに。すっごく気ままですね」
「だが、あいつは速いぞ。俺が欲しいくらいだな」
暁の騎士は、フッと口角を釣り上げる。
「どうする。今日は、そろそろ止めておくか?」
「いえ、まだまだです! 絶対に乗りこなしてやります!!」
むん、と両手をグーにして力を入れるルーナ。
あんなに激しく落下したにも関わらず、彼女はまだまだやる気満々らしい。
「それじゃあ、もう一度捕まえてきます!! おーい、シルバー!! もう一回乗せてー!!」
「ふっ、やれやれ」
シルバーの方へと駆けていくルーナ。
対照的に、嘆息するように息を吐いた暁の騎士の仮面の瞳が、こちらを捉えた。
「……セレーネ・ファンネル」
「暁の……騎士」
こんなに近くで彼と対峙したのは初めてだった。
なんだろう。この背格好、どこかで……。
わずかばかり既視感を感じた時、僕は、その胸に付けられたアクセサリーに気付いた。
「あっ、それ……」
それは、ジ・オルレーンの橋上バザールへと遊びに行ったとき、ルーナが買っていた銀アクセだった。
暁の騎士のイメージに違わぬ、真っ赤なガラス玉のはめられたそれは、とても彼に似合っているようだった。
「ルーナからプレゼントされたのですね」
そう聞くと、なぜか、騎士は右手でアクセサリーを隠した。
「あ、あの……」
そうして、彼は何も言わず、僕へと背を向ける。
その態度は、まるで僕の事を突き放すかのようだった。
やはり、彼は僕に対して、明確な敵対意思を持っている。
そう思わせるような態度だったのだが……。
「……すまない」
「えっ?」
なぜ、謝罪を……?
その疑問の答えをくれないまま、彼は自身の馬にまたがると、ルーナが駆けて行った方に向かって、走り去って行ったのだった。
「な、なんなんですの……」
まったく意味のわからないやり取りだった。
僕に敵対するなら、最後まで無視すれば良いだけなのに、最後にわざわざ謝罪をするなんて、どういうことだろう。
それに、どことなく感じたあの既視感。
あれは、一体……。
「姉様」
「うわっ!?」
いきなり背後から声をかけられて、僕は飛び跳ねる。
「ごめん。驚かせたね」
「い、いえ、フィン。大丈夫です」
「あちらが苦戦してるうちに、僕らも一気に上達しちゃおう」
「え、ええ、そうですわね」
フィンの言葉に、僕はクレッセントの方へと視線を向ける。
優し気な瞳で、僕を見つめている彼女。
うん、この馬だったら、きっと僕は大丈夫だ。
何よりも、馬に振り落とされながらも、あんなに頑張っているルーナに僕も負けていられない。
「お、お手柔らかに願いますわね!」
礼を尽くすように、僕はクレッセントに向かって、深々と頭を下げたのだった。
「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと、とても励みになります。




