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093.お兄ちゃん、"心"の試験に臨む

「──というのが、第2の課題である"心"の試験の内容です」


 第1試験の時と同様、聖塔の大広間へと呼び出された僕とルーナに向かって、ルカード様がそんなふうに言葉を結んだ。

 学園に帰ってから、まだ1週間も経っていないうちの出来事だった。

 なんとか対策しておきたかったところだが、結局そんな間もないまま時が来てしまった。

 妹に聞かされていた通りの試験の内容を聞いて、暗澹たる気持ちで床を眺め続けていた僕と違って、ルーナはワクワクした表情を浮かべている。

 彼女にとっては、この"心"の試験の内容は、どうやら楽しげなものだったらしい。

 寮へと戻る道すがら、2人っきりになったタイミングにも、ルーナはウキウキと胸を弾ませていた。


「まさか第2試験の内容があんなものだったなんて、私とっても楽しみです!!」

「そ、そうですわね……」


 平民である彼女にとっても、おそらく初めて体験する事だろうに、なんとも前向きな彼女の様子に、僕はかえって戦々恐々とする。

 ルーナの主人公補正とも言うべき圧倒的な成長率は、"力"の試験で嫌というほど身に染みている。

 この"心"の試験においても、準備期間である2週間の間に、一気に成長してしまうのは間違いないだろう。

 それに引き換え、僕は……。


「セレーネ様は、貴族でしたら、経験がありますよね?」

「え、ええ、そうですね。一応……」


 確かにあるのはあるのだが、それはもう随分と昔の話だ。


「やっぱり!! 私もセレーネ様と勝負ができるように、頑張って練習しないと!!」


 そんなにやる気出さなくても、大丈夫だよ。

 そもそも、僕は試験を受ける事すらできないかもしれないんだし……。


「はぁ……」


 ルーナから顔をそむけるようにしてため息を吐きつつ、僕はトボトボと寮へと帰宅するのだった。




 さて、第2試験である"心"の試験。

 それは5つの試験の中でも、僕にとってもっとも過酷なものであり、当初の予定ではこの勝負だけは負け前提で考えていた。

 しかし、第1試験をルーナに獲られてしまった今、最初から勝負を捨てるわけにもいかない状況に僕は立たされている。

 ルーナに勝つ……いや、まともに勝負をするためにも、この2週間の間に僕は、なんとしても、この試験における個人的な課題を克服しなければならなかった。


「姉様が僕を頼ってくれて、嬉しいよ」


 荒涼とした牧場の中、僕の少し前を歩くフィンの声は、どこか弾んでいるようだった。


「え、ええ……。フィンはお父様に手ずから教えていただいていたでしょう? ですから……」

「腕前は人並だけどね」


 そう言いつつも、嬉々とした様子で歩くフィンについていく。

 すると、辿り着いたのは、背の低い建物が立ち並ぶ牧場の一角だった。

 いわゆる馬房というやつだ。

 それぞれの建物の中では、茶色い毛をした馬達が思い思いに過ごしている。


「さて、じゃあ、やってみようか。"乗馬"」


 笑顔を向けるフィン。

 それに反するように、僕の顔は、馬の姿を見た途端に自然と引き攣っていたのだった。




 "心"の試験の内容。

 それは、言葉の通じない生き物と心を通わせるというものだった。

 つまるところ、それは生き物と息を合わせるということであり、僕とルーナに課せられたのは、乗馬しての競走だった。

 学園の外周にあたるダートコースを1周する競馬のレース。

 当然、先にゴールした方が試験の勝者となる。


「しかし、剣の戦いの次は乗馬なんて、聖女試験っていうのも色々あるんだね」

「え、ええ……」


 お互い乗馬用のパンツルックに着替えた僕とフィンは、馬房の中の馬たちを眺めながら会話をしていた。

 牧草をひたすら食んでいるものもいれば、左回りにずっと歩き続けているもの、横になって寝ているものなどみんな様々だ。

 さすがに飼われているだけあって人間には慣れているのか、突然現れた僕とフィンを前にしてもリラックスしている様子だ。


「あんたがもう一人の聖女候補さんだね」


 と、声をかけてきたのは、テンガロンハットをかぶり、髭を生やしたひょろりとしたおじさんだった。

 格好や態度からして、おそらくこの牧場の代表をしてる人なんだろう。


「はい、聖女候補のセレーネ・ファンネルと申します」

「司祭様から聞いてるよ。いやぁ、しかし、たいしたべっぴんさんだなぁ」


 目をぱちくりとさせて僕の方を見ているおじさん。


「ありがとうございます」

「さっき来たお嬢ちゃんもえらく可愛らしかったし、やっぱり聖女になろうっていう娘さんは、見た目からして違うんだな」

「ルーナちゃんが来たんですの?」

「ああ、来るや否や、うちの一番の"暴れ馬"を気に入ってな。さっそくあっちで練習してるよ」


 おじさんが指差す先、確かに遥か向こうに馬に乗った人らしき姿がいくつか見える。

 どうやら、ルーナはさっそく特訓を始めているらしい。


「お嬢ちゃんはどの馬にする? この馬房にいる馬なら、どいつを選んでくれても構わないぜ」


 僕は、改めて馬房へと視線を向ける。

 試験までの2週間を連れ添うパートナーだ。

 ここは、慎重に選ばないと……。

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