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009.お兄ちゃん、弟を助ける

 ある日のことだった。

 

 ガシャーン!!


 夕食中に、自分の右隣から大きな音が聞こえた。

 思わず、咀嚼途中だった黒パンをごくりと嚥下し、視線を向ける。


「フィ、フィン!?」


 見ると、そこには、目の前のスープの皿に頭から突っ伏しているフィンの姿があった。

 どうやら、あまりの疲れから食事中に意識が飛んでしまったらしい。

 僕はすぐに、彼の身体を起こす。


「大丈夫!? フィン!!」


 口調は激しく、動作は優しく彼を助け起こすと、ハッとしたようにフィンは目を覚ました。


「セ、セレーネ様……」

「ああ、良かったぁ!!」


 僕は、侍女達に手ぬぐいを持ってこさせると、スープで汚れたフィンの髪を丁寧に拭いた。


「セ、セレーネ様、お、恐れ多いです……!」

「いいのよ。姉弟じゃありませんの」

「いや、セレーネ。そんなことは侍女達に任せればいい」


 と、そう宣ったのは、父だった。

 父はどこか面白くなさそうな顔で、こちらを見ている。


「まったく、食事中に居眠りをするとは、嘆かわしい」

「お父様!!」


 その言葉に、さすがにカチンときた僕は、父の前へと仁王立ちをする。


「セ、セレーネ……?」

「お父様は、フィンに無茶をさせすぎです!!」


 実際、新しい環境の中で、四六時中、勉強から行儀作法まで倒れるまで、学ばされているのだ。

 まだ幼く、ただでさえ線の細いフィンが、耐えられようはずもない。


「フィンは、このファンネル家の跡取りになるのでしょう? だったら、もっと丁重に……」

「ああ、可愛いセレーネ。なんと慈悲深い……。だがね、こればかりは、仕方がないことだ」


 父は、時折見せる為政者としての表情をわずかにのぞかせた。


「ファンネル家は、王家に最も近しい血筋だ。その当主ともなれば、要求される能力は高い」

「それは、そうかもしれませんが」


 実際、娘を溺愛する親バカではあるが、父の筆頭貴族としての執務手腕は並外れたものらしい。

 そんな父の水準の能力を得るためには、それだけの努力が必要だということ。


「君の言うように、私はフィンを跡取りとして迎え入れた。ただ、可愛らしいだけの息子など、必要ないのだよ」


 きっぱりとした父の口調。

 それは事実であり、僕のような小娘が口を挟めることではないのかもしれない。

 でも……。


「お父様のお考えもわかります。ですが、このままでは、フィンが身体を壊してしまいます。せめて、明日1日だけでもお休みを与えて下さいませ」


 手を結び、目をウルウルとうるませて、そう言ってやると、真面目だったお父様の顔つきが、デレっと崩れた。


「し、仕方ないな……。可愛いセレーネがそこまで言うならば、明日1日だけは、休息を与えるのもやぶさかではない。だが、1日だけだからね」

「ありがとうございます!! お父様!!」


 ギュッと腕に抱き着いてやると、父はさらに相好を崩した。

 うーん、ちょろい。

 とはいえ、これは一時しのぎにしかならないだろう。

 せめて、父とフィンの関係に、家族としての温かさが生まれればいいんだけど。




「あ、あの、セレーネ様……?」


 腕の中のフィンが、身じろぎしている。


「ん、どうしたの? 寝心地が悪いかしら?」

「い、いえ、その……」


 天蓋付きのベッドの上、純白のネグリジェを着た僕の腕の中には、フィンの頭がある。


「なんで、こんな……」

「あら、姉弟なのですから、たまには一緒に寝るのもよいじゃありませんか」

「で、でも、そんな……」


 戸惑った様子のフィン。

 うーん、やはりこの世界の貴族にとっては、一緒に寝るなんてことは一般的なことではないらしい。

 前世では、ゲームしながら、居間で妹と重なりあって、寝落ちしているとかざらにあったからなぁ(ちなみにやってるゲームはそれぞれ別ね)。

 僕にとっては、一緒に寝るというのは、姉弟としてのごくごく当たり前のスキンシップだ。

 ギュッとその身体を優しく抱きしめてやると、ビクリとフィンの身体が震え、そして、やがて弛緩したように、身体から力が抜けた。

 顔を見ると、穏やかな寝顔を浮かべている。

 やっぱり、随分と疲れていたようだ。


「今日は、ゆっくり休むといいよ。弟君」


 その顔をどこか母親のような気持ちで見守りながら、僕もまた眠りにつくのだった。

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