表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

89/344

089.お兄ちゃん、虹色の魚を捕まえる

「す、凄い数になりましたね……」

「え、ええ……」


 3つ用意していた大きめのバケツ。

 その中には、いつの間にか、びっしりと大量の魚達が蠢いていた。

 ほとんどは最初に釣ったアジのような魚と同じ種類のものだが、他にもカワハギのようなやつや小さなタイのようなやつもいる。

 素人の僕らでもこれだけ釣れるあたり、如何にここが入れ食いスポットかわかるな。

 だが、これだけ釣っても、母親が魚介スープの出汁に使っていたという魚は未だ釣れていなかった。


「うーん、避暑の最中、母がよく釣りをしていたのはここのはずなんですけれど……」


 古参の使用人たちの話では、夏場になるとよくこの砂浜まで涼を取りに来ていた母は、この岩場で度々竿を降ろしていたらしい。

 そして、母が竿を降ろすと、決まってそのレシピに載っている虹色の魚が釣れたのだそうだ。


「虹色の魚……うーん、そんな魚でしたら、目視でもわかりそうなものですけど」


 透き通った水に穏やかな波。確かに、こうやって岩場の上から見ているだけでも、多くの魚の姿が見て取れる。

 でも、その中に、そんな目立つ魚の姿は見えない。


「少しだけ場所を変えてみましょうか」

「わかりました!」


 僕の提案で、その場を移動しようとしたその時だった。


「あっ!?」


 岩場のぬめりに足を取られたルーナが、大きくしりもちをついた。


「大丈夫ですの!?」


 慌てて駆け寄ると、ルーナは打ち付けたお尻をさすりつつも、笑顔を向けた。


「大丈夫です。少しドジっちゃいました」

「もう、気をつけてくださいまし」


 そう言って、立ち上がるのに手を貸した時だった。

 足を踏ん張ったルーナが、痛みに眉を潜める。


「あ、つぅ……」

「ルーナちゃん、もしかして、足を挫きました?」

「そ、そうみたいです……」


 どうやら、こけた際に右の足首をぐねっていたらしい。

 このままでは歩けそうもないし、仕方ない。


「ラー♪」


 白の魔力を解放した僕はルーナの足を包むように、癒しの力を向ける。

 すると、にわかにルーナの額の脂汗が引いてきた。


「セレーネ様。もう大丈夫そうです!!」

「そう、良かったですわ」


 確かめるように、自身の足で地面を2,3度踏むルーナ。

 どうやら、バッチリ回復できたようだ。


「さて、じゃあ、改めて移動を……」

「ま、待ってくださいませ!! セレーネ様!!」


 声を上げたのはルイーザだ。

 彼女は、慌てた様子で海の一点を指差している。

 その先に視線を移した僕とルーナは見た。

 ほんの一瞬、巻き上がった水しぶきとともに、水の上へと飛び出した虹色の魚の姿を。


「あ、あれは……!!」

「間違いありませんわ!! あれがきっと!!」

「こ、これまでまったく姿を見せませんでしたのに……」


 ルイーザの疑問の声に、僕はハッとする。

 僕らの前になかなか姿を現さなかった虹色の魚。

 でも、母が竿を降ろすと、いつも簡単に捕まえられたという。

 時期や時間帯の差ではないとするならば、あるいは……。


「セ、セレーネ様……?」


 僕は再び岩場に座ると、黙って竿を降ろす。

 見た目ではやっていることはさっきとまったく同じ。

 でも、僕は先ほどまでとは違い、"竿に自身の魔力を込める"。

 母は、ミアと同じ病気に侵されていた。

 常に魔力が膨れ上がり続けるというその病気の影響で、母が触ったものにも魔力が宿ってしまっていても不思議ではない。

 そして、そんな母の魔力に、その魚が寄って来ていたのだとすれば……。


「…………来た!!」


 ズシリとした手ごたえ。

 それを感じると同時に、僕は力いっぱい竿を引き上げた。


「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬっ!!!?」


 なんだこれ、重すぎる……!!


「セ、セレーネ様!!」

「わ、私達も!!」


 慌てて、ルーナとルイーザが僕の腰へと手を回す。

 3人分の体重で、なんとか岩場に踏ん張るが、それでも、なかなか虹色の魚は上がってこない。凄い力だ。


「こ、こんな時は……!!」


 僕は、自分の中の魔力を意識的に白から紅へと切り替える。

 瞬間、全身に力が満ち満ちた。

 強化された腕力をもって、僕は今度こそ竿を引き上げにかかる。


「ふんぬらばぁ!!」


 がむしゃらに振り上げた竿。

 糸でつながったその先には、一抱えはある巨大な虹色の魚が宙を舞っていた。

 大きく弧を描いたそれは岩場の奥へと落ちていく。


「やりましたわ!! って、あっ!?」


 竿を振り上げた反動で、逆に前へとたたらを踏んだ僕。

 それにつられて、僕を支えていた2人も……。


 バシャーン!!!




「水着を着ていて良かったですね。セレーネ様」

「ええ、そうですわね」


 もつれるように海に落ちた僕らは、すぐに岸に上がると、髪の毛をぶるりと振るった。


「あーん、私の髪の毛がぁ……」


 自慢のドリルヘアーがすっかりぺったりしてしまったルイーザは涙目だ。

 そんな彼女に心の中でごめんなさいしつつも、僕は岸へと打ち上げられた一抱えほどもある魚へと目を向ける。

 思ったよりも随分大きいが、間違いない。これこそ、母が料理に使っていたという虹色の魚だ。

 大方、母がいなくなったことで長い間釣られることもなかった結果、こんなに大きく成長した個体が主のようになっていたのだろう。

 僕が魔力を解放したタイミングで姿を見せたことと母の持病から、この魚が魔力に反応するのではないかと類推したわけだが、どうやらそれは当たっていたようだ。


「さて、材料も手に入りましたし、あとは料理を作るだけですわ!」


 未だにぴちぴちと元気に身体を震わせる虹色の魚を眺めながら、僕は父の喜ぶ姿を頭の中に想像するのだった。

「面白かった」や「続きが気になる」等、少しでも感じて下さった方は、広告下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援していただけますと、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ