085.お兄ちゃん、踊り子になる
「いやいやいやいや……」
目の前に用意された非常に露出度の高い踊り子衣装。
それを手に取って、僕は思わず顔をブルブルと横に振った。
先ほどまで演劇をしていた舞台へと上がらせてくれると言ったアミール。
彼は舞台に上がる条件として、この踊り子の衣装を僕らに着るように言い放った。
いや、確かに可愛いよ。
それに見る分には最高だよ。
でもさ。自分が着るとなると、さすがにちょっと躊躇するわ。
「うわぁ、可愛い!! うんしょ、っと……!!」
「えっ!?」
僕がどう断ろうかと考えている間に、すでにそそくさとルーナが服を脱ぎだしていた。
平民らしく、パパっと時間をかけずに服を脱いだ彼女は、そそくさと踊り子衣装を身に纏っていく。
そんな姿を見て、僕とルイーザも顔を見合わせた。
「そのセレーネ様……」
「ええ、ルーナちゃんだけに着させるわけにも……ですわね」
そんなわけで、僕らもノロノロと服を脱ぐと、踊り子の衣装へと着替え始めた。
かなりガチもんの踊り子衣装だ。
上半身はほぼビキニのような胸当て一枚、下半身はズボンタイプだが、布地が薄く、ちょっと透けている。
装飾品も多く、二の腕や首にはジャラジャラとした金のリングを装着した。
前世では金属アレルギーだったが、僕これ大丈夫かな。
そんな明後日の方向の懸念をしつつも、着替え終わった僕は、姿見で自分の姿を確認した。
……正直、ちょっとテンション上がった。
露出度が高いのは間違いないが、やはりこの衣装、可愛い。
自分で言うのもなんだが、かなり似合っていると言ってよいだろう。
ルイーザやルーナの方も確認すると、彼女らもなかなかによく似合っていた。
「着てみると……案外悪くないものですね」
ルイーザもまんざらでもないのか、クルクル回りながら、ひらひらと揺らめく裾を楽しんでいる。
「お嬢様方、非常に良くお似合いです」
そんな僕らに向けて、同じ部屋で着替えを手伝ってくれていたアニエスが、小さく手を叩いた。
「アニエス。何を一人、安全圏にいるような顔をしていますの?」
「えっ……?」
僕は両手をワシワシとしながら、アニエスへと迫る。
「お、お嬢様……?」
「さあ、アニエスもこの気持ちを分かち合いましょう!!」
その後、僕らは3人がかりで、アニエスを踊り子の服へと着替えさせたのだった。
「うわぁ、お姉様達、素敵ですわ……」
着替えていた部屋から出ると、真っ先にミアがキラキラとした瞳で僕らを見てきた。
隣に立つフィンも、うんうんと頷きながら僕らの事を見つめている。
「やっぱり可愛いな、この衣装。露出が多いからあれだけど、色々工夫すれば、あるいは……」
「フィン、何をぶつぶつ言ってますの……」
大方、自分もこっそり着れないかなんて考えていたのだろうが、さすがにここまで露出が多いと、体型の隠しようがないと思うよ。
「へぇ、お嬢様……やっぱりよく似合うじゃねぇか」
満足げに呟くアミール。
そんな彼に、僕は恨みがましい視線を向ける。
「心の準備というものがありましたのに……」
「でも、悪くねぇだろ?」
「そうですわね」
その場でクルリと回ってやると、アミールたちは惜しげもなく拍手を送ってくれた。
うん、ちょっとだけ気分乗って来たわ。
「さて、じゃあ、舞台に上がるとしようか」
そうして、アミールに連れて来られた舞台袖。
そこから客席を見ると、そこにはまだ舞台を見終わった客が多く残っており、皆、思い思いにテーブルで酒を煽っている。
「ちょ、ちょっとアミール様、まだ、お客さんがいらっしゃるような……」
「ああ、うちの劇場はいつもこんな感じだ。このまま演者も客も一緒になって、夜遅くまで酒盛りしてるんだよ」
な、なんというか、やっぱり大らかなお国柄だな……。
そうこうしているうちに、ステージには客席から何人もの女性達が上がっていく。
演者もいれば、客らしき人もいる。
そして、皆、思い思いにダンスを踊り始めた。
特定の踊りではなく、振付も何もかも、みんな適当だ。
中には、明らかに酒に酔った状態の人もいた。
「わわっ、なんだか楽しそう!!」
「ほら、お嬢様達も行ってきな」
「ええっ!?」
アミールに背中を押され、僕はステージへと上がる。
ひときわ人目を引く容姿の僕だ。
ステージに姿を現した途端、観客席に座ったおじさん連中から、茶化すような口笛が響いた。
「こ、こうなれば、ヤケですわ!!」
ダンスなんて社交界のバロックダンスしか習ってこなかった僕だが、一応前世では学園祭でのダンス経験だってある。
適当な振り付けでフリフリ踊っていると、いつしかルイーザやルーナ、アニエスも舞台へと上がって、一緒に踊り出してくれた。
淡い魔力灯の光が僕らを照らす。
なんとも不思議なその光景の中、僕らは体力が付きるまで、熱に浮かされたように踊り続けたのだった。
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