083.お兄ちゃん、移民街へと踏み入る
ジ・オルレーンの橋上バザール。
先ほど船の上から見上げていたそこに、僕らはやってきていた。
道幅15メートルほどの橋の上に、様々な露店が立ち並ぶその様子には、僕も初めて来たとき度肝を抜かれたものだ。
食べ物の露店から、アクセサリーに織物、果ては農具なんかにいたるまで、あらゆるものが並べられている様子を見るだけでも、なんだか胸がわくわくとしてくる。
何度も来ている僕ですらそうなのだから、初めて来るルーナ、ルイーザ、ミアの3人もテンションうなぎ登りだ。
「お、王都よりも凄いですわ……」
「ルイーザちゃん! 端から全部見て行こう!!」
「あっ、ルーナちゃん! 走ったら危ないですわよ!!」
「姉様とアニエスは行ってあげて。僕はミアとゆっくり見て回るよ」
「わかりましたわ!」
興奮のあまりか、ルイーザの手を引っ張って店々へと突撃していくルーナの背を僕はアニエスと共に慌てて追いかける。
思いがけず二手に分かれてしまったがちょうどよい。
ミアには、フィンと一緒に落ち着いてしてもらいたいことがあった。
フィンならきっと上手くミアと"あれ"を選んでくれることだろう。
ルーナに追いついた僕は、3人並んでバザールを闊歩する。
どんなものを見ても、いちいち大仰なリアクションを取るルーナ。
きっとこんな娘が彼女だったら、男は飽きないのだろうなぁ。
なんて若干彼氏面しながら、微笑ましくその様子を見守っていると、ある一軒の露店でルーナがふと足を止めた。
「どうかしましたか?」
「あ、はい」
ルーナが気にしているのは、太陽を模したような銀のアクセサリーだった。
中央に真っ赤な宝石……いや、おそらく染色したガラスが取り付けられていて、なかなかに見栄えがする。
「あら、素敵ですわね」
「はい……なんとなく、騎士様に似合いそうだな、と思って」
「ああ」
確かに、銀の仮面に紅蓮のマントを羽織ったあの暁の騎士という人物のイメージに、そのアクセサリーは重なった。
「もし、今度お会い出来たら、お礼をしたいと思っていたんです。こんなものでは、お礼にならないかもしれませんが……」
「いえ、良いと思いますわよ」
デザイン性もさることながら、値段的にも平民にも手が届くレベルだ。
学園の制服を着ていることから、おそらくあの騎士は貴族だろうが、こういうのは値段よりも、自分のために選んでくれたという事実そのものの方がずっと嬉しいものだ。
「ルーナの想いが籠ったものなら、きっとあの方も喜んで下さるわ」
「セレーネ様がそうおっしゃるなら、きっとそうですよね!! すみません!! このアクセサリーを下さい!!」
平民でも買える値段とはいえ、ルーナにとってはそれなりの出費だろう。
それでも、感謝の気持ちとして躊躇なくそれを購入するルーナは、本当に良い娘だなぁ。
と、そうこうしているうちに、いつの間にか近くの露店で真剣に農具を眺めていたルイーザも帰ってきた。
「やっぱり農具の質も良いですわね。領地でも、皆にこれを行き渡らせることが出来たら良いのですが」
「だったら、父に相談してみると良いですわ。実は以前から、アインホルン領については私も父にアピールしていましたの。是非、援助して欲しいと」
「そ、そうなんですか!?」
そうすれば、きっともっと米が普及するだろうしね。
実際のところ、アインホルンの温暖湿潤な気候には父も以前から目をつけており、米に関わらず、何か特産品なんかを街にも卸してもらえないかと考えているようだった。
ルイーザを今回招いた事で、そういった部分にも進展があるかもしれない。
「こ、これは、なんというか……領地の未来が私の手に……」
にわかに緊張した雰囲気のルイーザに苦笑しつつも、僕らはその後もバザールの賑わいを満喫しつつ、橋を渡り切ったのだった。
1時間ほどのバザール散策を終え、次にやってきたのは、街の南西にあるとある地域だった。
アルビオンのような白亜の外壁と金色の屋根をした宮殿風の建物が立ち並ぶその地域は、いわゆる移民街と呼ばれる一帯だ。
サフランという砂漠の国からの移民たちが住むこの場所は、独特の雰囲気があり、ジ・オルレーンの中でも特に人気のある観光スポットの一つになっていた。
「あ、あの格好は恥ずかしくないのでしょうか……」
ちらちらとルイーザが視線をやっているのは、移民街を闊歩する女性達だ。
彼女達は、皆サフランの踊り子の衣装に身を包んでいる。
客引きのために、この地域で商売をする若い女性達は、こんな風に露出度の高いオリエンタルな格好をしている。
浅黒い肌に、くびれた腰。扇情的なその姿は、初めて来る人にとっては、少々刺激が強いかもしれない。
「可愛いですね。あの格好!」
「この地域では皆ああですわ。ルイーザさんもすぐに慣れます」
「そ、そうなんですのね……」
ルイーザだけでなく、ミアもポケーとそんな商売女達の姿を眺めている。
僕にとっては、目の保養ですけどね。
「さて、劇場はこちらですわ」
僕らが向かっているのは、サフラン人によるショー劇場だ。
ハワイアンショーのようにサフランの民族衣装を来た女性達が、ダンスを披露してくれるステージがあるのだが、そこを目指していた。
いや、決して僕がエッチなお姉さんたちを見たいわけじゃないよ。
ジ・オルレーンに来たなら、是非ここにも来ておかねばと純粋に思っただけだから。うん。
「あの角を曲がれば」
「おっと……!」
『あっ……』
その時だった。
曲がり角から突然現れた男と視線が合う。
それは、僕も良く知った人物だった。
「ア、アミール様?」
「お嬢様!? マジか。こんなところで会えるとは……!!」
にわかに笑顔になったアミールは、いきなり僕へと抱き着いてきたのだった。
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