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081.お兄ちゃん、父と再会する

「これが例の物です。父様」

「おおっ、これが……!!」


 僕の父、ヒルト・ファンネル公爵はフィンから受け取ったとあるものを掲げて、目を輝かせた。

 それは、人形だ。

 フィンがなぜか定期的に作っているセレーネ様(僕の)人形。

 今回はその最新バージョンらしく、あの"力"の試験の時に来ていた勝負服仕様だ。

 おそらく実際に服に使った生地と同じもので作ったのであろうそれは、店に並べたとしても、他の商品にまったく見劣りしないレベルに仕上がっていた。


「なんと凛々しくも愛らしい……。また素晴らしいものを作ってくれたな、フィン。しかし、ああ、生で愛娘の晴れ姿を見たかった……」

「父様、ハンカチを」

「ああ、すまん」


 男泣きする父に、ハンカチを差し出す長男。

 そんな2人に僕はじとーっとした視線を向けつつ、話しかけた。


「何を泣いているのですか、お父様」

「おおっ、セレーネ!!」


 ようやく僕に気づいた父は、ルイーザやルーナの目も憚らず、僕へと抱き着いた。

 ああ、この髭の感触……久しぶりだなぁ。


「もう、客人が見ていますわよ」

「いいじゃないか!! 久々の愛娘との再会なのだから、人目など気にしていられるものか!!」

「本当に、お父様ったら……」


 しばらく会わなかったことで、ますます子煩悩がパワーアップしてしまったらしい。

 まあ、それほど僕の事を愛してくれているということで、嫌な気はしないけど。


「ファ、ファンネル公爵様。私、アインホルン家長女、ルイーザ・アインホルンと申します。この度はお招きいただき、本当にありがとうございます!!」


 そんなデレデレの父に向けて、ルイーザは緊張を見せつつも、丁寧に挨拶をしてみせた。

 ファンネル公爵と言えば、碧の国に住む者であれば、知らぬ者はいないほどの筆頭貴族だ。

 本来なら、辺境伯の娘が直接挨拶をするのすら憚られる存在。

 そんなルイーザが声をかけやすいように、父はあえて、親しみやすそうな姿を彼女に見せてくれているのかもしれない……いや、9分9厘は本音だろうけどね。


「え、えっと、わ、私はルーナです。あの、その、男爵家の……」

「ああ、お二人とも、娘の友達になってくれてありがとう。この家にいる間は、是非、実家だと思って寛いで欲しい」


 そう言って、女殺しの笑顔を向ける父。

 一瞬、ルイーザの顔が若干赤くなったぞ。

 さすがに、娘の友達を女にするのは止めてくれよ、父様。


「ミア。君も屋敷の事を2人によく教えてあげてくれ」

「はい、もちろんです。"ファンネル公爵様"」

「あっ……」


 そうか、僕らが屋敷を出てからも、まだ……。


「そうだ。セレーネ、フィン。明日は、ちょうど公務でジ・オルレーンに行く用事がある。どうせなら一緒に街に出て、お二人を案内してあげてはどうだろう」


 ジ・オルレーン。

 それは、このファンネル領で最も大きな街であり、碧の国の流通の中心ともなっている交易都市だ。

 幅150メートル以上ある運河と巨大な船でも停泊できる最新の港湾部を備えた巨大な都市。

 当然、商店なども多く、2人を案内するには最高の場所だろう。


「うわぁ、それ、最高ですわ! 父様!!」

「いいですね。ちょうど布屋にも行きたかったですし」


 盛り上がる僕とフィン。

 ルイーザとルーナも、碧の国でも王都に次ぐ都市の名前を聞いて、ワクワクとしている様子だ。

 しかし、その時、ふと思う。

 僕らは良いとして、ミアはまだ体調面の心配から屋敷の外に出ることを禁じられていたはず。

 ハッとして彼女の方を見ると、普段通りに振舞おうとしつつも、やはりわずかばかりの落胆を隠しきれないような表情をしていた。


「あの、父様。ミアもその……」

「ああ、ミアももう十分に身体の方は回復してきたからな。街デビューの機会としては、申し分ないだろう」

「えっ!?」


 なんでもない風にそう言う父の言葉に、ミアの瞳があからさまに輝いた。


「ファンネル公爵様……」


 そんな彼女にウインクをして見せる父。

 くぅ、我が父ながら粋な人だぜ。


「父様のそういうところ、ほんと好き」

「えっ、ちょ、セレーネ。もう一回!! もう一回聞かせて!! ちょっと心の準備ができていなかった」

「だから、大好きですわ。父様」

「……もう死んでもいい」


 にわかに昇天しそうな父の魂を素手で身体に戻しつつ、僕はミアと笑顔を交わす。


「その、こんなことを言うのはあれですが……公爵家って、もっと厳格な雰囲気かと思っていましたわ」

「うん、なんだかすっごく"家族"って感じがして素敵!!」


 友達二人の公爵家に対するイメージをしっかりと塗り替えつつも、僕らはその後団欒しつつ、ワイワイと夕食を摂るのだった。

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