079.お兄ちゃん、義妹と再会する
さて、僕達を乗せた馬車は街道を順調に進み、2日目の昼頃には、実家であるファンネル公爵家の屋敷まで辿り着いた。
思いのほか早い到着に、それぞれの仕事をしていたであろう侍女達が慌てて、玄関の方まで集まってくる。
花道のように列を作った侍女達に向けて、僕とフィンはにっこりと微笑んだ。
「おかえりなさいませ! セレーネお嬢様、フィン坊ちゃま!!」
「ええ、ただいま」
一人一人の侍女達の顔を確かめるように見ると、皆、元気そうだ。
見知った顔ばかりの環境に、なんだか改めて、ここが僕の"家"なんだなぁ、としみじみ感じさせられる。
「こ、こんなに、メイドさんがいるんですか……!?」
「当然ですわ!! セレーネ様は"公爵"令嬢ですのよ!!」
使用人の多さにびっくりするルーナと同じ貴族としてか、なぜだかそれを自慢するルイーザ。
冷静に考えてみれば、僕はこの国でもトップクラスに裕福な暮らしをしているわけだよなぁ。
学園の寮でも、貴族としての格から大部屋を一つ貰っているし、なんだかんだ家の力には助けられている。
昔は、6畳しかない狭いリビングで、妹と場所を取り合いながらゲームをしていたというのに、すっかり贅沢に慣れてしまったなぁ。
ルーナを見習って、庶民的な感覚も失わないようにしないと。
そんなことを考えながら、キョロキョロと周囲を見回すルーナとルイーザを引き連れ、僕は屋敷へと歩を進める。
そして、首を垂れる使用人たちの花道をくぐり、屋敷の中へと入った瞬間だった。
「セレーネお姉様ぁ!!」
「うわっ!?」
横合いからいきなり何者かに飛びつかれた僕は、思わず驚きをの声を上げた。
しかし、すぐにその正体に思い当たると、ゆっくりとその小さな体を見下ろす。
「ミア……」
髪をツインテールにくくった小柄な美少女は、僕を見て、ニッコリと微笑んだのだった。
1年半ほど前の事だ。
訪れた社交界で、僕は白の魔力を振るい、一人の少女を救った。
ミア・マイヤー。
フィンの実妹であり、マイヤー子爵家の4女である。
兄であるフィンを僕に盗られたと感じたミアは、魔力を暴走させ、その結果、生死の境を彷徨うような状態になった。
それを僕が癒しの魔法で救ったわけだ。
その後紆余曲折あり、今では、ファンネル公爵家の養子として、父と共に屋敷に住んでいる。
つまるところ、僕の義妹になったというわけですね。
彼女は、身体の中で魔力が許容量を超えて膨れ上がり続けるという、名前すらない奇病に侵されていたのだが、あれから父の主導する治療法を受けたことで、徐々にそれを自らの力でコントロールできるようになってきている。
僕らが公爵家を出た頃は、まだ、激しい運動は禁じられていたはずだが、この様子を見るとこの4カ月ほどで、随分と治療も進んだらしい。
身体のところどころにあった過剰な魔力によって生じた痣もすっかり消えて、病的だった肌の色もかなり健康的になってきていた。
「ミア、元気そうでなによりです」
「はい! ヒルト公爵様のおかげで、もう走り回れるほどになれました!! この分だと、来年には学園に入学できると、お医者様からもお墨付きをいただいたんですのよ!!」
ミアは僕やフィンより一つ年下。
どうやら来年の学園入学に向けて、治療を頑張っていたようだ。
「あっ、兄様も、お帰りなさいませ」
「そんな、ついでみたいに……」
少しだけふてくされたような顔でフィンが嘆息する。
「ちょっと前までは、お兄様! お兄様! って、ずっと僕に懐いていたのに」
「だって、フィン兄様よりも、セレーネお姉様の方が素敵なんですもの!! なにせ、セレーネお姉様は、私の命の恩人ですもの!!」
「まあ、姉様がこの上なく素敵な人なのは、僕も認めるけどさ」
なぜだか、推しへ共通理解を示すが如く、同じタイミングでうんうんと頷くフィンとミア。
血のつながった兄妹だけあって、そんな仕草も妙にそっくりだ。
僕と優愛も傍から見ると、こんな感じだったんだろうか。
「あの、セレーネ様、失礼ですが、この可愛らしい方は?」
「ええ、義妹のミアですわ」
「ミア様? ……ああぁ!!」
そこでルイーザが素っ頓狂な声を上げた。
「あ、あの社交界で、セレーネ様が白の魔法で救われた……!!」
「そうですわ。あの後、ヒルト公爵様が養子として、私を引き取って下さいましたの」
ニッコリと微笑むミア。
「ファンネル公爵家はどうなっていますの。皆、現人神か何かですの……」
ぼそぼそと呟き続けるルイーザ。
そんな彼女をミアに紹介すると、ルイーザは「はい!! セレーネ様のお友達のルイーザですわ!!」と胸を張った。
そして……。
「こちらは、紅の国の"男爵家の長女"ルーナちゃんですわ」
そう紹介されたルーナは、ぎこちないながらも、ミアに向けて貴族風の礼をした。
「は、はじめまして、ミア様。ルーナと申します。宜しくお願いします……わ」
「ルーナ様! こちらこそ、宜しくお願いいたします!!」
ルイーザに向けたのと同じようにニッコリと微笑むミアに、ルーナは少し冷や汗を搔きながらも笑顔を浮かべた。
そう、ルーナを屋敷に迎え入れるにあたり、僕は彼女に素性を偽るようにお願いした。
公爵家に平民を客人として迎え入れることに問題があるとか、そんな理由ではなく、これはミアへの対策とも言えることだった。
僕が白の魔力でその命を救ったミアは、取り巻きの令嬢達等、比べるべくもないくらいに僕の事を真の聖女だと信じ切っている。
そんな彼女に、もう一人の聖女候補としてルーナを紹介してしまえば、少しマズいことになるのは目に見えていた。
彼女の精神にゆさぶりをかけてしまってはいけない。最悪の場合、また、魔力を暴走させてしまうなんてことにもなりかねないからだ。
だから、ルーナにお願いして、屋敷にいる間だけは、ルーナには紅の国の貴族令嬢として振舞ってもらう算段になっていた。
もちろん、"力"の試験で僕が負けた事実についても、ミアの前では絶対に話題にしないという約束になっている。
「セレーネお姉様のお友達も、素敵な方ばかりですわね!!」
「ええ、そうでしょう」
どうやら、ミアはすっかりルーナを貴族令嬢だと思ってくれている。
この調子で、なんとか2週間バレないように過ごすとしよう。
「お姉様、長旅でお疲れでしょう? 侍女達に頼んで、お風呂の用意をしてもらっていますの。まずは、汗を流して下さいませ!!」
「ええ、そうさせてもらうわ」
こうして、ファンネル公爵家へと戻った僕達。
夜には父も仕事から帰ってくることだろう。
ちょっとした懸念はあるものの、楽しい夏休みになるといいなぁ。
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