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074.お兄ちゃん、白の魔力の本質に気づく

「くっ!?」


 打ち合った瞬間、そのパワーに僕は怯んだ。

 先ほどまではと明らかに違う。

 一撃一撃の威力が確実に上がっていた。

 2本目とはまったく逆の展開だ。

 ルーナの連続攻撃に、僕は受けるだけで精一杯。徐々に武舞台の端まで追いやられていく。

 受け流そうとか、そんな余裕すらもない。

 それほどまでにルーナの攻撃は苛烈だった。


「はぁああっ!!」


 気迫のこもった攻撃の最中、やや大ぶりになった一撃を僕は横っ飛びで回避する。

 そして、そのまま転がるようにして、なんとか距離を取った。

 強い。強すぎる。

 あの暁の騎士(ナイト)とかいう人の言葉で、ルーナの中で何かが吹っ切れたのだろうか。

 いや、でも、それだけにしては……。


「とりゃああ!!」

「うっ!?」


 考えている間もなく、今度は腰だめに剣を構えたルーナが突進してきた。

 なんとか横に回避するが、そんな僕に足を踏ん張ってベクトルを無理やり変えたルーナが、再び一撃を繰り出してくる。

 その勢いはまるで矢のようだ。

 すんでのところで剣での受け流しに成功はしたものの、掠っただけで右腕がひどく痛んだ。

 やっぱりそうだ。

 ルーナは明らかに"身体能力を強化している"。

 それは常識で考えれば、あり得ないことだった。

 この世にある3つの魔力。

 紅と碧と白。

 これらの魔力の中で、自身の身体能力を向上させることができるのは紅の魔力だけのはずだ。

 聖女候補であるルーナの魔力は、僕と同じく白。

 だから、自身の身体能力をアップさせるなんてこと、できるわけがないのだ。

 何か不正をしている?

 いや、ルーナに限って、そんなことはあり得ない。

 それに、あの戦い方を見ていると、ルーナが意図して身体能力を強化しているようには見えない。

 ただただ、必死に剣を振るう中で、まるでパッシブスキルのように勝手に身体能力が向上しているような印象なのだ。

 疑問は尽きないが、少なくとも、ルーナ自身が紅の魔力を使っているのは事実。

 そんなルーナに、素の身体能力しか持たない僕が勝つのは、もはや至難の業と言えた。


「せいっ! はぁ!!」


 ルーナは攻撃の手を緩めない。

 次々と圧倒的なパワーとスピードで振り抜かれる剣を捌くだけで、僕はとにかく必死だ。

 この10日間のアニエスとの実践訓練がなければ、とっくに一発貰っていただろう。

 鬼のようなアニエスの連続攻撃を、曲がりなりにも掻い潜ってきたからこそ、なんとかギリギリで僕は耐えることができていた。

 そして、耐えながら、僕は思考を巡らす。

 ルーナが紅の魔力を使っているのは間違いない。

 では、ルーナが生来持っていたのは、白の魔力ではなく、紅の魔力なのだろうか。

 いや、それはあり得ない。

 聖女候補として選ばれた際、ルーナが白の魔力を持っていることは、ルカード様によってしっかりと確認されたという。

 僕の才能を見出したルカード様だ。彼が、ルーナの魔力の性質を見極め損ねることなんてあり得ない。

 それになによりも、ヒロインであるルーナが、物語の肝でもある白の魔力を持たないなんてはずがない。

 だとしたら、彼女は白の魔力だけでなく、紅の魔力も持っているということになる。

 そこまで考えた時だった。

 僕の脳裏で、いつも実の妹に会う時の光景がフラッシュバックした。

 魔力の根源と言われている、紅と碧の月が重なる。

 そして、その瞬間、白い光が僕の意識をあの空間へと連れて行く。

 もしかして、白の魔力って……だとすれば。


「はぁあ!!」


 なんとかルーナの剣を捌き切った僕は、再び距離を取る。

 そして、意識を集中した。

 もし、僕の考えが間違っていないとすれば、あるいは僕も……。

 その時、自分の中で、何か熱いものが弾けた。

 これだ。この力だ。

 目を開く。迫って来るルーナの姿が、わずかばかりスローモーションのように鈍った。

 いや、違う。僕の動体視力が向上しているのだ。


「とりゃぁっ!!」


 逆袈裟で振り上げた剣が、飛び掛かってきたルーナを弾き飛ばす。

 さっきまでは、身体能力の差でできなかった豪快な剣技。

 それが今は、自然とできた。

 そう、僕は今、ルーナと同じく紅の魔力を使っているのだ。

 ルーナが無意識に紅の魔力で身体能力を向上させたことで、僕自身もそれに気づけた。

 この世界には、魔力の根源となる紅と碧の月があるにも関わらず、なぜ白の月と呼ばれるものがないのか。

 それは、白の魔力が、紅と碧の魔力が"混ざったもの"であるからだ。

 紅と碧の魔力が、完全に混じりあった時、僕が普段使っている白の魔力が発現する。

 だから、白の魔力を持つ僕とルーナは、片方の魔力だけを使わないようにコントロールすれば、紅や碧の魔力すらも使うことができる。

 つまり聖女の魔力は万能だったというわけだ。

 

「これなら……」


 グッと木剣を握りしめる手に力を込める。

 身体にあふれんばかりの力が満ち満ちている。

 これで、条件は五分と五分になった。

 今の状態なら、ルーナと打ち合っても、力負けすることはない。


「はぁあああああっ!!」


 全力で剣を振り上げ、飛び掛かって来るルーナ。

 僕は、それを迎え撃つようにして、木剣を上段へと構えた。 

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